表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
67/112

暗殺任務1

更新遅くなってしまい申し訳ない。

それと詳細はこの後活動報告に書きますが、しばらく更新はできそうにないです。

エタるつもりだけはないのですが、個人的に色々とやらなければならないことが増えてしまったので、そちらの方を優先させていただきたいと思います。

重ね重ね申し訳ない。


 ロザン公爵の領地、パーシーモーク。今この街で、いや、国内は勿論、国外でさえ最も人気のある店が新進気鋭のベルトラン商会だった。往来のありふれた商品はほとんど置いていない。代わりとばかりに画期的な新商品が次々と登場し、常に購買客を驚きと興奮に導く。


 ベルトラン商会の商品を持っていることが、一種のステータスとされるほどだ。

 ましてここは、国内に二家しかない公爵家の領土。国境という最前線にありながら、従業員や買い物客に不安の顔色は見えない。


 それどころかこの街は他の街と比較しても規模が大きく、店内にはざっと見るだけで数十人の従業員が活き活きと忙しなく動き回っているのが見て取れる。

だが、その理由は単純だ。



 虎視眈々と隙を窺う隣国に対し、長年国境を守り抜いて来たという実績。それがすべてだった。さらには元々武力に定評のある公爵家ではあったが、今代の当主は一度戦場に出れば常に勝利し続けてきた無敗の英雄。


 皮肉な事に、国境沿いにありながら国の中央に位置する王都よりも安心できると言われている程なのだから民の信頼ぶりも窺えよう。



「すまないが、ここにチェスは置いてないか?」



 そんなベルトラン商会の中でも特に年若い、まだ働き初めて間もないであろう男性従業員に声をかけたのは、一見兄妹に見える、その従業員と同じくらいに若い男女だ。


 彼らの身なりはそれほどのものでもない。


 男女ともに武器を携帯していることや旅姿などから、冒険者の類である可能性が高い。そんな人間がチェスを買いに来るのか、などといった考えでここの店員は態度を崩したりはしない。

 それだけでも客商売の何たるかを知り、商人として大切な基礎を教育しているという事実が窺い知れる。



「物が物ですので店頭には置いていませんが、在庫はございますよ。ご入り用でしたらご用意致しますが、どうされますか?」


「ああ、頼む」


「ではこちらへどうぞ」


 そういって案内されたのは商談用の個室だ。


 チェスを買う人間はほとんどが貴族だと決まっている。


 つまり、仮に本人でなくても、貴族家に関わる人間、またはそれに匹敵するほどの教養を備えた相手に立ち話などもっての外であり、こういった個室に通すのが通例である。


「さて、と。ずいぶんと早い再会だな」


「ああ」


「そうね」


 そして声が漏れないよう、この部屋の壁や扉は分厚い。


 だからこそ堂々と密談ができ、重宝するのだ。


 ここにきてようやく本題に入ることが出来た。


「それで、要件はなんだ?」


 そして従業員に扮している彼が言った通り、早い再会なだけに積もる話など何もない。


 それに彼自身、ベルガやクレスタの性格上、こういったときの無駄話を嫌う傾向があるのも理解しているため、さっそく本題に入る。


「セーフハウスの提供を頼む」


 たとえ任務が成功しようと失敗しようと、セーフハウスは必須となる。

 現地に到着して一から動き回ったのでは時間がかかるし、足がつく可能性がある。


 まだ時間があまり経っていないから完璧に溶け込んではいないだろうが、それでも現地にいる人間が動いた方が効率はいい。


 そのためにベルトランの商会があるような主要な街には、必ず最低でも一人は孤児の者が入り込んでいる。


 無論その人間はあくまでも実行部隊と他の潜入任務についている人間達との仲介役であり連絡係に過ぎない。セーフハウスも彼ではなく、他の孤児が確保したものだ。


 彼の存在を知られれば芋づる式で多人数の人間を巻き込むほどの要でもあるため、危険な任務は一切させないよう徹底させている。


 また誰かが捕まった場合はすべてを捨てて逃げ出し、後で代わりの人間がベルトランの商会に入るという手はずになっている。



「生憎とまだ東西南北に一つずつ、合計四つしか確保できてないぞ」


「ああ、それでも構わない。全部使うとは思えないが、とりあえずはすべて提供してほしい」


「あいよ。それと、ここの地図は?」


「あれば頼む」


「分かった。セーフハウス以外にもお勧めの逃走経路だとか避難路だとかいろいろ書いてあるから参考にしてくれ」


「ありがとう」


「助かる」


 差し出された地図を一読し、すぐに懐にしまう。


「……私たちの用件はこれだけよ。それじゃ元気で」


 特に積もる話などない。用件だけ済ませ、足早にここを去ろうとした時に声がかかる。



「待て。最後にひとつだけ。お前たちがなんの任務を請け負ったのかは知らないけど、この街で何かやるって言うなら一度だけロザンの顔を見たほうがいい。頻繁に前線とこの街を往復しているし、出て行ってからそれなりに時間も経っているから、運が良ければ数日で見られるはずだ。緊張するな、ってのが無理があるけど、まず可能な限り平常心に近い状態で前に立てるかどうか、それが第一関門だ」



 弱すぎれば、そもそもロザンの大きさに気づかない。

 蟻にとっては、象も人間も変わらない。ただ、もし相手の強さが分かるようになった程度の強さなら、ロザンを前にすれば正気など保っていられない。


 それほどまでの圧倒的な格差があるのだと言っているのだ。


 二人の脳裏に今一度、イザークの言葉が思い出される。



「分かった」

「……ええ。ありがとう」



 相手はイザークが警戒を促した人間。元よりそのつもりだ。

 まして立て続けに警告されたのだ。ここまでされて蔑ろにするような真似など出来るはずもない。







 何にせよ、この街にロザンがいないというなら今の内にベルガとクレスタは地図に従い、路地裏や貧民街を中心に街中を回って下見をする。


 他の街と比較しても尚広い大通りは、軍馬が何頭も並んで走れるようにとの配慮であろう。


 両脇に軒を連ねる露店がそのまま残っていたとしても、充分すぎるほどのスペースが余っている。


 日が沈み始めた夕方に一際高い家の屋根へ上り、街を俯瞰すれば分かる。

 街はよく整理され、貧民街でさえせいぜいが雑然としている程度で、混沌とは言えない程だ。

 こんな状態では普段から溶け込みにくく、そしていざという時逃げにくい。


 面倒だと思ったが、顔には出さない。



「……ベルガ。しばらくは宿屋に泊りましょう。今はまだ、セーフハウスは使うべきじゃないわ」


「全てお主に任せる」


 計画を立てなければならない。

 それはいざというときの逃走経路や計画、隠れ潜むのか近くの森や隣国まで逃げ込むのかどうか。あらゆる状態を想像し、考え得る全てにわたって。

 長く使えば、それだけそこを使っている新参者がいる事が露見する可能性がある。この街に溶け込むのならそれも悪くはないが、短期決戦で終わらせるつもりなのだからそれは下策だ。


 そういったものほど、本当に必要な時を除いて使うべきではないのだから。







 クレスタが宿屋で複数のプランを練ること数日。

 俄かに宿屋の外がざわついていた。

 いや、外だけではない。

 誰かが一家の酒場に駆け込む音。それからすぐに、何人もの人間が慌ただしく出て行く音を感じた。


 彼が帰って来たのだと、もはや誰に聞くまでもなく理解できた。


 娯楽の少ないこの世界、戦地から返って来た人間はたとえそれが一平卒であろうともれなく英雄扱いである。


 だがやはり、この街の人間にとって彼は別格だ。


 この街における平和の象徴が帰って来たのなら、それがたとえどれだけ頻繁にあろうとお祭り騒ぎになる。


 言うまでもなく、床に正座して刀の手入れをしていたベルガが立ちあがった。

 まずは標的がどれほどのものかと、気を引き締めてパレードを見守る群衆の外側から覗く。


 徐々に大きくなる歓声。


 ナニカが近づく気配。そして、正面通りを先頭切って、威風堂々と黒馬に乗って進行する一人の男。



「っ!?」

「うそ……!?」



 それなりの覚悟はしていた。

 が、所詮それはそれなりでしかなかった。

 殺気を放たれたわけでも、相対したわけでも、まして視線が交わったわけでもない。


 それだというのに思わず身構え、即座に臨戦態勢を整えてしまった。だがすぐに己の愚を自覚し、ベルガとクレスタは逃走を開始した。






 どれほど走ったのか。



 時間の感覚もなければ、方向性さえ見失いかける程、ただただ我武者羅に走った。



 追手などいるはずもない。



 だと言うのに、それでも逃げなければ、離れなければいけないと本能のままに走り抜いた。恐らく、このような反応は自分達が初めてではない。冒険者がこの街にほとんどいない理由はこれなのだろう。


 需要がないわけではない。それさえも訓練だとして、公爵家の私兵が退治しているという話は知っていた。だが、駆けだしの冒険者なら一定数いるのだ。それなのに、熟練者はいない。これはそういうことなのだ。



「…………ねえ、あれ、あなたなら何分もつ?」

「…………良くて一分。それ以上となると某には保障しかねる。しかし、実際にぶつかれば数秒で終わってしまう可能性も……」

「よね……」


 そしてようやく一息ついた時、呟いたクレスタの言葉に答えたベルガ。

 普段は内に秘めた自尊心の高さを表に出さないベルガでさえ、今は悔しげに拳を強く握りしめている。


 たしかに屈辱だろう。


 強くなったつもりでいたし、事実、ベルガは本当に強い。だと言うのに、そんな彼をしてそう言わしめるほどの相手なのだ。


 イザークの言うとおりだった。

 あれは敵に回してはいけない人間だ。

 命を懸けるだとか、相討ち覚悟だとか、その程度でなんとかなるほど甘い相手じゃないのは分かった。


 だが、イザークはあれと敵対する可能性が高いからこそ、この任務を自分達に与えたのだろう。


 逃走経路は特に入念に準備するとして……。


 直接戦うのは下策。


 ならばもはや手段は――



「……私が行く。ベルガは失敗したら、逃走経路の確保をお願い。…………それと、あなたまで死なせたらイザークも辛いでしょうから、最悪の場合見捨ててくれて構わないわ」


「……うむ。今回はそちらの領分だ。某は指示に従おう」


 実際、イザークもこの展開になると予想したからこそ自分とベルガを組ませたのだろうから。


「だが、その場合は逆だ。サムライとは、弱きを守るもの。さすがにアレが相手ではクレスタでは分が悪すぎる」


「……ばかね」


「お主ほどではない」


 これは失敗出来ないなと、クレスタは表情に出すことなく内心で苦笑する。

 この愚直な男を失えばイザークは痛手を被る。何より自分が、仲間を見殺しになどしたくはないのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ