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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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ある日の授業風景

深夜帰宅、12時間の爆睡コンボで投稿遅れましたorz

申し訳ない。





「それでは、ここの問題を……」


 シエラの呟くような声に、部屋に集まった全員が即座に反応し、それとなく目を背ける。



 文官としての教育を施す教室は、百人近くの子供が詰め寄っているため、それこそ足の踏み場もない状態だった。


 大勢の体温で温められた室内の気温は外よりも遥かに高い。


 だが、じわりとかく汗の原因はそれではない。


 慣れない授業を行い、百人近い人間の視線を浴びる。そういった状況のせいで、気温など感じられない。


 ただ、やけに冷たい汗が服の下を流れるのだけは、敏感に感じ取っていた。



「あ、あの……誰か解る人はいませんか……?」



 この年齢の子供が、それこそすし詰め状態で、ある種呪文のような授業を聞いているというのに見事なまでに静まり返った教室。そこにシエラの声だけが響く。


 彼らとて、衣食住を確保された対価として勉強をしているのだ。


 決して手を抜いていたり、黙っているのは失敗すれば恥ずかしい、なんて思考ではない事を理解している。


 ただ、今まで学問とは無縁の生活を送って来たから、やっぱりまだ自信がないのだろう。


 ちゃんと説明出来ていたはずだから理解できていない、というわけではないはずなのだが。



「うぅ……」



 出来る事なら積極的に参加してほしいと思っているが、そこが理解出来ているからこそ安易に指名することが出来ない。


 やはり自分に教師は向いていないのだと、何度目になるかも分からない弱音を内心で零す。


 尤も、他に適任がいないのは理解しているし、これもイザークに任された重要な仕事なのだから投げ出す、なんて発想は全く浮かばないが。



「ほらほら、ここで答えられなかったらお昼ごはん抜きだからね! そこのきみ、間違ってもいいから答えなさい」



 このままでは進展がないと察したか、リーズが仕切って適当に目に付いた子を指名する。


 指名された子がギャーッと悲鳴を一つ。


 プレッシャーの中でおずおずと答えた解答は正解だった。



「もう、シリルもしっかしりなさい。こんな時はバーンとやって、ドーンと終わらせればいいのよ」


「……あ、は、はい」


 それが出来れば、最初から苦労はしない。なんて事は、言っても無駄だと理解している。それに、助けられてばかりの自分がこのままでは良くないと理解しているのだ。……簡単には直せないだけで。


 ここにいる人間は自分の見た目に関して、当初こそそれなりの抵抗を見せていたものの、今では嫌悪感を抱いてはいない。


 これは、リーズ達の努力のお陰だった。


 今も自分は皆に助けられてばかりで、上手く出来ない事の方が多い。


 そんな自分をイザーク様はかつて一度だけ日常会話に混ぜて、そう本当に、あまりにも気軽に自分を文官の最高責任者に据えるつもりだと言った。


 なぜ自分をそこまで買ってくれているのかは分からない。


 文官としての教養は積んできたが、最高責任者に相応しい人間は他にいるはずなのにだ。


 そんな事を冗談で言うような人じゃないのは分かっている。だから、今の時点で既に重責に潰されそうな状態だった。


「うぅ……」


 イザーク様の判断に異を唱えるつもりはないが、本当に人選を間違ってはいないかと、もう何度目になるかも分からない思考を繰り返す。


 しかし結局、同じ場所をぐるぐると巡り、答えもまた出ないままだった。

でも、と、ふと思う。


 もしも教師役を上手くやれば、帰って来た時に褒めてもらえるんじゃないだろうか。


 イザーク様の立場は理解しているし、駄々をこねるわけにはいかない事も承知しているが、やはり三年も離れ離れになるのは辛いものがある。



 もしかしたら頭を撫でてもらったり、それ以上……そう、もしかしてだが、抱きしめてもらったり……なんてことも……そう、可能性はなくはない……はず……。



「――ラ」



 その事を想像し、抱きしめられた時の体温や力強さまで、あの日の事を元に詳細に再現していたシエラの妄想に入る僅かな雑音は、しかし夢の世界の全てを壊す程大きくなった。



「シエラ!」


「ひゃあ、はいっ!」


 耳元で怒鳴られてようやく気付いた。


 どうやらぼーっとしていたらしい。

 授業を任された身としてはあるまじきことである。すぐに気を引き締め直し、記憶を探ってどこまで授業を進めたかを確認しようとし――



「そろそろお昼だから、終わってもいいんじゃないかな」



 アドバイスのような一言に、もうそんな時間かと小さく驚く。

 恐らく大した時間は消費していないのだろうが、いったいどれだけの時間を無駄にしたのか。


 そう思うと、やはり呵責を覚える。


 頭を撫でてもらうのも遠ざかった気がする。


「あ……。はい、そうですね。今日の授業はここまでにします。続きはまた午後に」



 だが、少なくとも生徒達はそんなシエラの状態を気に留めるものではない。その言葉を聞いて、腹をすかせた生徒達が一斉に教室を飛び出した。







「どったの? なんか急にぼーっとして、らしくなかったけど……」


「あ、ええと……」


 なんと答えるべきか迷う。

 少なくとも素直に答えられるものではない。


 しかし言いあぐねていた事で察したか、それとも落ち着きを失くしていたから察したか。


「あっ、分かった! シエラもお腹すいたんだね!」


「ふえっ!? ち、違います! そんなこと――」


 リーズの言葉は的外れではあったが、反射的な否定を、しかしシエラはすぐに後悔する。



「ん~、ならもう一つしかないじゃない。はあ、まったく……。こんなに可愛い子を誑かすなんて、イザークも罪作りな奴め」



「〰〰〰〰っ!!」



 まるで全てを見透かしているかのようなリーズの言葉に、その雪のように白い肌を真っ赤に染めてしまうのも仕方のない事だった。





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