表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
64/112

居残り組の改革

今話で、ちょろっと平民階級の扱い、考えが出てきます。

多分都合がよい、等の異論はあるかと思いますので、考察、補足、ついでに政治の話、を活動報告に書かせていただきます。

ですので異論があれば、まずはそちらに書き込みをお願いします。



 フリード達が近隣の村や町から集めた孤児達を引き連れて帰って来たのは、丁度正午になってばかりの事だった。


 まだ一部は残っているものの、全部で二百人近くが出て行ったと思った途端に今度はその何倍にも及ぶ数の人間が増えたのだから、この拠点は今まで以上に姦しくなった。


 多くの孤児達はやはり食わせてもらえるならば、という理由でちゃんと言う事を聞くが、やはり歳相応の跳ねっ返りも一定数はいる。


 最初は個々で、それで敵わないとなると徒党を組んで主導権を握ろうとするも所詮は素人。一回目は優しくいなし、それでも言う事を聞かないなら多少の痛みをもって体に上下関係を理解させる。



 尤も、鞭の役割はエミリオやフリード達男衆であり、リーズ達女性衆の治療や、お腹いっぱい食べられるごはんが飴の役割を果たしているため、新規で集まった孤児達に不満らしい不満はない。



「どうでした?」



 出迎えに現れたエミリオはリーズに孤児達の引率を任せ、フリードに話しかける。


 イザークがフリードに頼んだのは、孤児達を集める事だけではない。


 孤児の数は周辺の村や町だけでは限界があるため、辺境の地に足を伸ばす必要があった。そのついでに、別の情報も集めてもらっておいたのだ。



「ああ、酷いもんだ。……まあこれこそ、あの坊主の期待通りって展開なんだろうけどな」


「ええ、その通りですよ」


 お互いが嘆息しつつ、雇い主である性悪な少年の事を思い浮かべる。


 何せ膨大な量の仕事を割り当てられ、正直な所持て余し気味なのは否めない。


 それも予想通りとはいえ、今回の件で余計に仕事が増えた。思わず悪態の一つや二つをついてしまうのは仕方がないことだろう。


「それで、どうする? 今すぐ動けばいいのか?」


「……いえ、今はまだ、ここにいる子供たちの面倒を見なければいけませんからさすがに人手が足りません。もう少し……手とり足とり教える必要がなくなれば、教師役が減っても問題はないはずです。動くのは一ヶ月後にしましょう」


「ま、その辺が妥当だわな。……よーしガキども。お兄さんが相手してやるから準備しろ!」


 がなり立てながらどしどしと子供達のいる場所へ向かうフリードは、子供達からおっさんだという厳しいツッコミを受けてショックを受ける。


 その日の訓練は、新規で集められた孤児全員がへばっている様子からも分かる通り、初心者向きにしては厳しいものだった。






 街道から外れ、森等の障害物から遠目では分からず、しかし農業に適したある程度広い平野があるような場所。そんなイザークの指定する条件を満たした土地を、フリードは冒険者時代の経験から知っていた。


 そこに重税で苦しみ、これ以上は生きていけないと村を捨てる決意を決めた近隣の村人を導くのが、今のフリード達の役目だ。


 しかしそういった辺境を切り開くには、魔物に対する自衛のための力が必要だ。


 特に注意するべき点が、柵や防壁を築けていない最初期。


 だからこの際、街の拠点にいる亜人達全員と一部の孤児を一斉に移動させる事にした。


 開発初期の食糧や必要な資材はベルトランに依頼し、山賊に襲撃されたという既成事実を作って積み荷を全てその場に置いて行く。


 これは地方を治める領主が治安維持に積極的でないからこそ通る言い訳だ。そうでなければその現場に騎士を派遣し、近隣を捜索して討伐されている。


 この話を積極的に流すことで近辺を通りがかる人間は減り、冒険者ギルドも依頼がなければ山賊を討伐することもない。


 この話が流れれば商人の往来は減り、収入もまた減る。だが、どうせこの領地は各地で似たような話があるし、入ってくる収入の全てを、貯蓄という言葉を知らないライルが使うためにイザークは開き直ることにした。


 今回、イザークが試すのはノーフォーク農法だ。


 イザークの現代知識は、結局のところ答えを知りながら計算式を知らないようなものだ。


 今まで開発してきた発明品はある程度の部品や組み立て等は推測出来ても、やはり制作に何度も失敗したものもある。


 ノーフォーク農法の成果が出るのは一年後。


 安定して出来ているかどうかが分かるのは更にもう数年。


 それも、大麦→クローバー→小麦→かぶのサイクルを繰り返すと言う上辺だけの知識で、理屈や概念は解っていても本当にそれは正しいのかどうかが分からないから、これは試験的な意味合いが強い。


 領主になって始めるのでは遅すぎる。だから、実権もない今の内から多少の無理をしてでもイザークはこの手の案件に手をつけた。


 その気になれば領内の村ほぼ全てが説得に応じるであろう程に現状は悲惨だ。だが、さすがに村が幾つもなくなれば怪しまれるため、最悪は周辺を探られる可能性もある。だから他の村へは、最も食料事情が厳しい時期に匿名で、最低限の物資を援助するだけに留めている。


 これはイザークが領主になった際、人口は多いに越した事はないというのが一つ。そしてこの事実を明かし、スムーズに人心を掌握するためのものだ。


 更に言うなら、亜人を中心とした魔物に対する拠点防衛の実践、野営、孤児達による何も知らずに近づいた冒険者に対する警戒網などなど……。


 より実戦に近い形での訓練を積ませる意味もある。


 ここへは街で合格ラインに達した孤児たちを不定期に送り込むため、警戒を緩めて侵入を許せば、イザーク考案の地獄の特訓や罰ゲームが待ち構えている。


 それは無論のこと侵入する側が不利とはいえ、そちらもあまりに酷い結果を晒した場合は同じ罰が科せられる。




 イザークが実際に村を見て、更には村長を始めとする数人の村人に接して確認した事だが、予想通りとでも言うべきか、百人に一人にも満たない例外を除けばほぼ全ての村人は単純だった。


 毎日変わらない野良仕事で頭を使う機会がないだとか、学がないだとかそういうレベルの問題ではない。


 魔女狩りが流行ったように、或いは何の根拠もない様々な迷信で多くの弱者の命を奪ったかのように。


 時として彼らは実に単純に、正常なら信じられないような嘘や虚構を真実だと思いこむ。


 何か不幸があれば生贄をささげ、それでも不幸が起こればまだ足りないのだと更なる生贄をささげる。

 実際、彼らにとって大切なのは衣食住が満たされるかどうか。


 故に最低レベル、年に一割未満の餓死者ならば、自分が生きていけるのであれば不満は溜めても爆発はしない。


 なにより不満は溜め、口では文句は言おうと、上の言う事は絶対だと思い込んでいる。


 何せ一人一人の生産性が低い。多少の餓死者は仕方がないものだし、何より領主は絶対だという価値観が根強いからだ。


 このままでは村人全員が死んでしまう。


 そう思わせるほどのものがなければ、彼らは動かない。そして、そんな状況に追い込まれた人間は既に弱り切っているため脅威ではないので話にならない。


 或いは、現在の支配体制に疑問を挟むほどの知識を得るかの二択。


 たまりにたまった不満は、些細な切っ掛け一つで爆発するのだ。これは歴史が証明している。


 故に、ここで衣食住を確保し、今まで以上に豊かな暮らしを約束する領主がいれば他の領地に住む平民でさえ、彼らは容易に、それこそ神の如く啓蒙するだろう。


 これは、イザークにとって革命を成功させる根幹の一つだ。


 亜人だけの力では足りない。


 亜人種は長い搾取と略奪、そして奴隷狩りにより、大きく疲弊している。


 そして、戦争では数の暴力こそが絶対なのだ。どれだけ圧勝しようと、少しずつでも数が減る。そして、絶対数に大きな差があるから、最終的には負けてしまう。

 だから、各地の平民階級の人間を味方につけて敵の力を削ぐ為の消耗戦に使う。


 そのための第一歩であり、強力な武器になるものこそノーフォーク農法だ。



 農民の一揆が成功しないのは数が少なく、武器が貧弱だったからだ。公にまとまった戦力を保持出来ず、他の村との連携もまともに取れなかったために散発的な行動しかとれず、容易に領主に抑えつけられた。では、もしも彼らに武器を与え、一地方でまとまって兵を挙げ、優秀な指揮官がついた時、武器も碌に握った事のない素人であり、所詮は烏合の衆だと侮る事が一体どこの軍に出来ようか。


 一度起ち、死兵となれば秩序のない津波の如く、死を恐れず圧倒的な数で相手を呑み込む。


 たとえ崩れる時は脆くとも、何千、何万もの兵を侮る事など到底できないはずだ。


 だからイザークは、彼らを見ない。数の少ない亜人種が無駄に傷つかないために死兵として扱う以上、無駄に知って感情が動くことを避けるために。


 今ならまだ冷静に、冷酷なまでに数字として見ることができるから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ