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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
1章 5歳、革命決意
6/112

誓約

「はあ」


 何を食べたのかも覚えていない食事を終え、溜め息をつきながら自分の部屋へと繋がる廊下を歩く。


 今日は疲れた。


 亜人種の問題に加え、気分転換に出た街でもまた問題を抱え込んでしまった。

 中世のヨーロッパにおける平民の悲惨さは知っていたつもりだが、所詮は知識に過ぎなかった。


 平民の生活もかなり厳しそうであったが、それ以上に亜人だけでなく呪いだのなんだのと面倒なしがらみが多いらしい。



 こうして見て、触れてみて初めて解った。



 それがこの世界に生きる普通の人間なら、きっとこんな気持ちは抱かなかっただろう。

 でも現代日本で生まれ、日本で育った記憶があるせいで、それが当たり前だと受け入れられない。

 違った価値観を確立してしまっているから、目の前の全てが間違っているようにしか見えない。



 どうすればいいのか、頭では解ってる。

 根っこが一つしかない以上、総てから目を逸らすか、総てに立ち向かうか、その二択しかないのだ。

 だが覚悟が、未だに定まらない。

 目の前で苦しんでいる少女がいる。同じように、多くの亜人種が苦しんでいるはずだ。

 シエラのように、どうしようもない理由で死んでいく人間も多くいるだろう。

 それでも尚、自分の身を案じてしまうのだ。


 死にたくないという想いが、やるべき事と心の中でせめぎ合う。


 立ち向かうというその道はあまりにも険しく困難で、最後まで到達できるかも分からない。

 どんな困難が降りかかっても強く生きると、名を残すと、生まれ変わった時にそう決めたはずの覚悟は、目を逸らすだけでなかったことになるという甘美な誘惑を前にあっさりと崩れ落ちようとしている。

 食事の時を除けば基本的には部屋にいるというのに、今回ばかりは部屋にいるのは気が重い。



 部屋に戻ればあのエルフの少女がいて、否応なく現実に引き戻される。

 それが分かっていながら結局、気付けば部屋の前までたどり着いてしまった。

 こんこん、とノックをした音が、いつもよりやけに大きく聞こえた。


「入るぞ」


 ノックの後、声を掛けて自分の部屋に入るのは初めてで、まるで他人の部屋のようだと思った。


「…………」


 予想通り返事はないから勝手に入る。

 ベッドに腰かけていたのは、初めて出会った時よりも少しやつれたハイエルフの少女。

 腹が減れば物を食べるし、のどが渇けば水を飲む。しかし最低限しか食事をとらないから、このままではそう遠くない内に倒れることになるだろう。


「…………なあ、もしもの話だけど、奴隷契約を解除するとしたらどうする?」


 少女にとっては突拍子もない言葉を受けて、きょとんとした顔。その後、噛み砕いて理解したのか、答えの代わりに質問で返してくる。


「してその後はどうするつもりじゃ?」

「その後?」

「解放して、そのままか? そうなれば結局他の人間の奴隷にされるか、良くて外に出て魔物に喰い殺されるだけじゃろうな。もっとも、それならそれで妾は一向に構わぬが」


 そう言った少女の顔は諦観に包まれていた。

 自由が一切許されない環境で、生殺与奪全て相手の思うがまま。

 未来への展望が一切ない、絶望だけが己を取り巻く状態なのだ。


「……ごめん」


 己の無神経さが腹立たしい。

 少し考えれば分かる事のはずだったのに、自分の事だけで手一杯で、自分よりもよっぽど苦しんでいるはずの少女の事を思い遣ることさえ出来ていない。

 少なくとも精神面じゃ大人のはずで、この世界じゃずば抜けた知識もあるはずなのに、謝ることしか出来ないのだ。

 目の前の少女でさえ簡単に思いつくことに気付かない。

 世界が違うのだから常識も違うはずなのに、未だに学ばない。貴族だから、心のどこかで関係ないと楽観していたから、学ぼうともしていなかった。


「……俺に何か出来る事はないのか?」


 謝罪の意を込めて、少しでも少女の苦しみを取り除けるなら、何か生きるための希望が生まれるならやってあげたいと、そう思った。



「ふざけるなッ!! お主に出来ることだと!? 妾の父様を、母様を殺したのは貴様ら人間だ! 平和な日々を奪ったのも、里の同胞たちを捕らえ、犯し、殺したのもすべて貴様たちだ!! ならば彼らを、父様を、母様を返せ! もし謝罪すると言うのなら今すぐここで詫びとして死んでみせよ!!」



「…………っ!」



 だが、返って来た怒りの言葉に、 直接心臓を鷲掴みされたような衝撃が走った。

 その小さな身の内にずっと秘めていた怒りが今、爆発した。その言葉の一つ一つが、心を切り刻む刃となって降りかかる。

 このどこまでも真摯で、誠実で、激しく、正当な怒りを前に違うだなんて口が裂けても言えなかった。

 奴隷として少女を買ったのは俺なのだ。

 興味本位で求めて、拒絶しなかった。心のどこかで浮かれていたのだ。それに、日本人の時の記憶があるから少しだけマシというだけで、きっと自分の本質は貴族とそう変わらない醜い人間だろうと思う。



 多少違う倫理観やそれなりの理性を持っていようと、結局のところ俗なのだ。

 嫌われれば嫌い、殴られれば殴り返す。聖人君子には、決して成れっこない。

 だから彼女にとって俺は全てを奪った憎い貴族の息子で憎い主でしかない。今の俺には何一つ言う資格なんてなかった。



 罵倒されるのは予想していた。でも、いざそれが現実になると、その予想は随分と楽観的だったと思い知らされる。

 直接言われるのはずいぶんと堪えた。

 その言葉は騙し騙し、気持ちを誤魔化す事で堪えていた最後の一線を容易く越え、脳髄を激しく揺さぶる。



「どうしたのじゃ? どうせ出来ぬのであろうな。何を言おうと結局、お主も他の連中と変わらぬよ。今はまだ大したことを何もしておらぬが、どうせ成長すれば欲望のままに犯し、嬲り、暴力を振るうのであろう?」


「違う!! 俺はそんな事をしない!」



 いったいこの言葉がどれだけの意味を持つだろうか。

 掛け値なしの本音で言った事ではあるが、きっと気休めにもならない。

 同じ境遇でもない者に、少女の哀しみも怒りも、本当の意味で理解など出来ないのだから。


「その言葉を信じられるとでも思っておるのか?」

「それはっ……!」


 そうだ。今どれだけ口で否定しても、この少女には届かない。

 かと言って今すぐ行動で出来ることなんて何もない。

 だから自分の言葉を証明することが出来ない。

 嘘偽りがなくとも、自分自身でさえキレイ事でしかない、空虚に感じた言葉で他人を納得させられるはずもなくて――


「何も言えぬじゃろうな。貴様ら人間は皆そうじゃ。お主とて例外ではないのじゃ」


 少女の言うとおり、俺は自分が凡庸で弱い人間であることを知っている。


「俺は……それでも俺は人をむやみに傷つけたりしない! 大したことが出来なくても俺は――」

「黙るのじゃ!! …………もう……何も考えたくない。……いやなのじゃ。だから、妾を……殺してくれ」

「――っ!」


 必死で何かを絞り出すような言葉に視界が揺らぐ。呼吸が止まる。思わず胸の内をえぐり出したくなるような衝撃が襲った。

 一思いに死んだ方がマシだと思わせたのは、この少女をここまで追い詰めたのは、紛れもなく自分なのだ。

 最初から貴族らしく虐待すれば、ある意味でここまで苦しませずに済んだかもしれない。



 だが希望をチラつかせた。

 きっと心の隅でもしかしたらという感情を芽生えさせてしまった。

 どうすればいいのかは分かっている。その答えはきっとどれだけ時間を掛けて考えた所で、この少女の為に出来る事なんてひとつしかない。


 やれることも。


 そして、やるべき事も。


 日本に生まれて良かったと、そう思っていた。


 安全が保障され、贅沢が出来た。他の国で育つよりも楽しい思いが出来た。だけど一つだけ、一度死んで今更本気でその事を恨む。


 まっとうに培われた倫理観が、ただ欲望に染まって生きることを踏みとどまらせる。

 目の前で苦しみながら死んでいく無数の人々を見捨てられない。

 冷めた人間だったけど、この光景を見て、切り捨てられるほど人間をやめちゃいないんだと気付かされる。


「俺には……死んだお前の両親を生き返らせる事なんて出来ない」

「…………」


 反応はない。

 それでも、聞いてくれていると信じて、僅かでも心に届くと信じて言葉を紡ぐ。


「きっと、お前に人並みの幸せも与えられない」


 奴隷として全てを奪われ、何一つ希望を持てないから苦しんでいるのだろう。

ただ奴隷から解放した所で、どの道地獄が待っているというのなら。


 俺はその総てを――


「でもせめて、お前のような人間を出さないために俺に出来る事をやろうと思う」


 怖い、怖い、恐い。


 覚悟を決めたはずなのに、この期に及んでまだ、心が叫ぶ。

 鼓動は全力疾走した後のように早鐘を打ち、足が震えて立つことさえ覚束ない。

いまならまだ間に合う。

 こんな薄氷の上を常に全力疾走するような事を十年以上続けるような真似をしなくても、全てをなかった事にして、もっと別の、命懸けの事をしなくても良い方法がいくらでもあるのだ。



 貴族という身分を生かせば、前世以上に贅沢が出来る。

 欲望のままに振舞う事が出来る。


「今はまだ、信じてくれとしか言えない。でも、嘘じゃないんだ。お前や、他にもいっぱいの人が苦しんでいるのを見過ごせない」


 だが余計な思考とは裏腹に、口は止まらない。


「だから約束する。全ての亜人種のために闘うと。自由の為に、皆が平和に暮らしていけるように、俺は一度、この世界を壊そう」


 そしてその言葉を受けて初めて、少女が反応した。


「…………うそ……じゃ。嘘に決まっておる。そんな風に妾を騙して……お主は、お主は何を企んでおる!!」

「嘘じゃない!! すぐには信じられないかもしれないが、俺の決意は本当だ。だから、今の言葉に嘘がないか傍で見ていてくれ」


 俺が希望になる事は出来ないかもしれないが、生きる理由の一つくらいにはなれるかもしれないから。



 解っているんだ。

 キレイ事でしかない事くらい。

 そのくせ負ければ、一思いに死んだ方がマシとも思えるような最後になるかもしれない。そんな事くらい、たいした想像力のないバカだって解る。



 解っているんだ。

 やるべきこと、やらなければならない事がなんなのかは。

 ここから先へ進むという事は、それはもう戻れない修羅の道を歩く事になるだろう。

 ただ冷徹に、人を駒のように扱わなければならない。

 自分の采配一つで数千、数万もの人が死ぬ。

 それら全てを背負う覚悟を決めたはずなのに、まだ躊躇っている。



 解っているんだ。

 ここで逃げ出しても、責める人は誰もいない。

 自分にしか出来ないなんて自惚れられるほど強くはない。自分がやらなくても、きっといずれは誰かがやるだろう。それを歴史が証明している。ただそれが数十年、最悪数百年先の事というだけで、その間に犠牲になる人や亜人が多いというだけで。

 関係ないからと逃げた所で、責める人はだれもいない。

 ああ、でも。それでもきっと自分からは逃げられない。心の奥深くで()()()となって残り続けるだろうから。



 同じ人からも拒絶されたシエラの事を思い浮かべる。

 今目の前で、全ての人間から虐げられ、苦しんでいるハイエルフの少女の事を見る。


 そんな光景を見せられ、これからも見せられ続けるなんて到底納得できるわけがない。


「今すぐには無理だろう。準備に最低でも十年はかかるが、俺は革命を起こす」


「…………かく……めい……?」


「ああ、被支配者層が支配者層を打倒することだ。虐げられてきた被害者が団結し、加害者に裁きの鉄槌を下す。思い知らせてやるんだ、虐げられた者達の悲しみと苦しみを。自分達が仕出かした行為がどれだけ高くついたかをな……」


「…………お主、手が震えておるぞ」


「……すまない。正直、あれだけ大見得切っておきながらまだ怖いんだ。情けないし頼りないかもしれないが、俺なりに意思も覚悟もあるつもりだ。それに困難だとは分かっているが、ビジョンはあるんだ。必ず実現してみせる。なんせ、俺もまだ死にたくはないからな」


 最後に少しだけ、おどける様に笑う。


「ああ、これは、そうか、そうなのじゃな」


 その時、まるでずれていた何かがキレイにはまった時のように、憑き物が落ちたようにふっと、少女から笑みが零れる。

 それは、こんな時だと言うのに思わず見惚れてしまって……。場違いかもしれないが、きっとこれこそがこの少女本来の魅力なのだろう。


 少女のエメラルドの瞳に光が戻り、端には涙が浮かぶ。


「お主は……バカなのじゃな。妾のために……、いや、虐げられている者達のために、皆を本気で救おうと考えているのか……」


 嗚咽混じりに、背負ってきた悲しみを解放するように、少女はただ静かに泣き続けた。





「情けない所を見せたの……」


 しばらくして泣きやんだ少女は、言葉とは裏腹に恥じる所などないと言わんばかりの態度で言う。

 きっと自分を取り巻いていた全てから吹っ切れたのだろう。


「いや、それは当たり前だと思うし、感情も吐き出す時に吐き出さず、溜め込めばきっと良くないだろう。それに、そう言う事なら俺だってそうだ」


「……ではお互い様じゃの」


「だな」


 何ともなしに二人揃ってふふっ、と小さく笑う。

 少女同様、きっと自分も溜め込んだモノと向き合う覚悟が出来てすっきりしたんだろう。


「妾はアーシェス。アーシェス=シェラード=ユグドラシル。ハイエルフにしてエルフ族の王女じゃ。これからよろしく頼むのじゃ」


「改めて、俺はイザーク。イザーク=フォン=ジナード。此方こそよろしく頼む」


「それでイザーク、さっそくじゃが何か案はあるのか?」


 真剣で、どこか期待するような信頼が込められた瞳に応える。


「ああ、俺はまず商売から始めようと思っている」


 戦争は経済力が物を言う。

 兵力を揃えるのも、その兵の武器を揃え、養うのも全ては金がなければ始まらない。

 どの道親には内緒で亜人種の奴隷を買い、鍛え上げていくには、今の内から独立した個人資産を持っておかなければならないだろう。


「……商売? お金が必要なのは分かるが当てはあるのか?」

「ああ、大ヒット商品のアイディアはあるんだ。あとは信頼して商品を託せる商人を探せばいいだけだからそっちは問題ない」


 何せ今の時代より数世紀は進んでいる世界から来たんだ。

 あとはこの時代のニーズに合わせた商品を売り出せば、間違いなく莫大な富を築くことが出来るだろう。

 それに、金銭面以外でも商売をする事自体が、今後大きな力になるだろう。


「その辺りは俺に任せてくれ。アーシェスはなるべく戦闘技術を磨いてほしい。しばらくは室内で出来ることが中心になる。学べる環境はなるべく早くに俺が整えるから、準備が出来たら言うよ。まぁすぐには無理だが、行く行くは軍団の指揮も学んでもらいたい」


「任せるのじゃ。ハイエルフの力を見せてやるから期待しておくのじゃ」


「ああ、期待してるよ。それと、アーシェスから何か聞きたい事とかやりたい事はあるか?」



「…………妾からは一つだけじゃ」



 少し考え込んだ後、今まで以上に真摯な瞳を逸らすことなく、此方の瞳をまっすぐに見据える。


「これからお主に魔法を掛けようと思う。これは古来からエルフ族にのみ伝わる魔法じゃ。対象者に小さな幸運をもたらす代わりに、妾が望めば妾の命と引き換えにお主も殺す、エルフが生涯で一度だけ使える誓約魔法。それを受ける覚悟はあるか?」


「ああ、覚悟ならもう決めたよ。決して失望させない」


 すべて吹っ切れたせいか、心は凪のように落ち着いていた。


「妾はお主を信じたい。じゃから信じさせてほしい。妾はお主を傍で、ずっと見ていよう。どうか、どうか妾を失望させてくれるな」


「ああ、期待していてくれ。俺はアーシェスを裏切らない」


 照れくささと誇りがない混ぜになったかのような面映さを感じながらも、アーシェスの目を逸らすことなく答える。



「うむ、その言葉を聞けて良かった。…………そ、それでじゃな……その……」



 だが急に落ち着きを無くし、そわそわし始めたアーシェスはまるで目を合わせる事を避けるようにきょろきょろと辺りを見回す。



「お、お主は目を瞑っておれ!」


「……? ああ、分かった」


言うとおりに目を瞑ることで視界が闇に閉ざされる。


感覚が敏感になっているせいか、すぐ近くで何度か深呼吸をする音が聞こえた。


「よいか、これはエルフの秘術なのじゃ。妾が良いと言うまでは決して目を開けてはならぬぞ」


「分かってるよ」


 接近する気配を感じ、気にはなるものの目は閉じたまま。

 恐らく一歩前に進めばすぐにぶつかるような距離でアーシェスが詠唱を始めた。



「母なる大樹に寄り添い、生まれ出る大いなる森の恵みよ。その一員であり、森の民たる妾、アーシェス=シェラード=ユグドラシルは彼の者、イザーク=フォン=ジナードと寄り添い、共に歩く事をここに誓う。我らが唯一神、ユティルの御名の下に祝福を与えたまえ。『森の民の誓約(フォレスオース)』」



「……………………ん!?」



 なんだか結婚の誓いみたいだな、なんて呑気な事を思ったのは少しだけ。宣誓を終えた直後、突如感じた唇に触れる柔らかい何か。

 思わず目を開きそうになったが、目を開くなと言われていたのをギリギリの所で思い出し、意思の力で辛うじて堪える。

 経験なんてないから上に、見ているわけではないから確かな事は言えないが、これってほぼ間違いなくキスなんじゃ……。



 前世で経験してなかったのもあるが、経験するのはしばらく先だと思っていたから、まさかこんな年齢でするとは思いもしなかった。

 触れた唇から何かが流れ込んでくる。

 或いは、度数の高いお酒を飲めばこんな感じなのかもしれない。


「…………ん」


 と、とても5歳児が出したとは思えないほど、鼻にかかったような艶やかな声。

熱い、とても熱く感じる熱があった。

 体の中心、奥深くに辿りついたそれは体中を駆け巡って、何倍もの熱にもなってから再び中心へと戻ってくる。



「…………これで誓約は完了じゃ。もう目を開けても良いぞ。……い、一応確認するが、目は開けなかったじゃろうな?」


「……自分で見て確認しなかったのか?」


「こ、こういうのは雰囲気とか色々あるじゃろ!! それにあんな近くで……い、いや、違う! そうじゃ! 妾は魔法に集中しておったから目を閉じてたのじゃ!」


「……なあ、さっきのってもしかしてキス――」


「違うぞ! ゆ、指じゃ。指を押し当てたからで、お主は目を閉じておった上に初めてじゃから分からんかったのじゃろうが、断じてそんなものじゃないから勘違いするでない!」


「あ、ああ、うん。分かった」


 あまりの必死さに気圧されたように、思わず頷いた。

 ここで頷かないと厄介な事になると誰に言われずとも分かった。


「も、もう夜も遅いから妾は寝る! いいか、先程の事は、くれぐれも、勘違いするでないぞ!」


 そう言うや否や、返事も待たずにベッドへと潜り込んで背中を向け、布団を頭からかぶる。

 あんな様子じゃすぐに眠れないだろうが、きっとそれは自分も同じだろう。

 いくら美少女とはいえ、推定五歳程の少女が相手なのだ。

 ロリコンの気はないと信じたいが、正直危うさを感じているのを否定できない。

同じベッドで今寝ようとするのは間違いなくマズイ。




 煩悩を打ち払うため、頭を冷ます為、そしてアーシェスが寝付くまで。体が音を上げるその時までずっと外で走り続けた。





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