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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
55/112

行軍訓練2

次話は3日に予約済みです





 教師の指名を受け、真っ先に出発したのがナーシェの班だった。


 スタートしてすぐに、荷物を背負ったままのナーシェを筋骨隆々の冒険者がおんぶするという、まるでゴリラが豚を背負っているかのような、それはもう見るに堪えない様相を呈していた。しかし、やはり多少の重荷を抱えていようと、鍛え上げた冒険者達の歩く速度はかなり速い。



 ナーシェ達は次の班が出発する前には丘の向こう側へと消えて行った。

 護衛という面を最重要視するため、さすがにこんなことをやるのはナーシェだけだったようだが。


 そこから五分置きに一班ずつが出発し、最後にようやくイザーク達の出発だった。






「なあエイグル。俺の荷物もってくれないか? 良い筋トレになるぞ」

「おいおい、楽しようたってそうはいかねえぞ」

「ふん、全くだ。男が情けないとは思わないのか?」

「いやべつに」



 貴族らしく楽をするために、歩き始めて早々イザークは音をあげる。

 実際、いざという時の為にも身軽な方が良いし、何より楽な事はもっと良い。



「実際俺貴族だし、こんな重いもんもって二十キロも歩くとか無理に決まってるじゃん。ところでエイグル。俺、お前が見せかけだけの筋肉なのか気になるからさ。俺の分までもって最後まで行けるかどうかで証明してほしいんだけど」


「ほほう、俺の筋肉を舐めるとはいい度胸だ。いいだろう、最後まで良く見ていろ。そして己の浅はかさを後悔するといい!」


「お、先ずはそのチャレンジ精神を高く評価しよう。さすが、日頃から筋肉を鍛え続けているだけはあるな」


「なかなか分かっているじゃねぇか。だが、俺はこの程度苦にもならない。いいか、俺に本気を出させたければあと五つは荷物を持ってこいよ」


 拳を振り上げ、力瘤を作って筋肉をアピールするエイグルだが、ジェナスの戦斧に匹敵するほどのハルバートを持ち歩く時点で、相当な力持ちであることはうかがい知れる。


「…………なぜお前は上から目線なんだ。エイグル、荷物は持たなくても構わない。というより、本人に持たせろ」


 さすがに言っても聞かない事をそろそろ理解したのか、どこかげんなりしたようなリヴィアが投げやりに言う。


「いや、まあ実際立場的には偉いし?」


 これでも一応侯爵の後継ぎ様だから嘘ではない。


「ふん、エイグルは私の配下だ。お前の指図には従わない」


「ほう、だがエイグルは配下なんて余所余所しいものではなく、仲間、つまり友達でもある。友達が困っていたら助けあう。今回は偶々俺の苦手分野で助けられるだけだが、それに関してリヴィアが文句を言うのか? 今後、テストに対する勉強とか勉強とか勉強面で大きく貢献する事になりそうなんだけどな」


「おっ、そいつは助かるな」


 ニカッと歯を見せてエイグルが笑う。


「…………貴様は……ああ言えばこう言う……」


 リヴィアは頭が痛いとばかりに片手を額にやるが、エイグルが認めた以上、反論の余地がなくなった。


「それに、実際シリルも持ってもらってるぞ」


「なに? なっ、シリルも、それでは訓練にならないではないか!」


「私は物足りないって言ってるエイグルの筋トレを思っての事。そう、友達の成長を考えたからこそ。そして、勉強なら私も助けられるわ。だからこれは決して私が楽をしようというわけではなく、ただの等価交換よ」



「…………もう知らん」



 始めの勢いはどこへやら、リヴィアが蚊の鳴くような小さな声で言い、拗ねたように今まで以上に早足で歩く。



 その後を少し慌ててエイグルとシリルがついて行くが、ちょっとからかい過ぎたかしら、などとシリルが悪びれもせずに呟く辺り、反省の色はなさそうだった。



「……というか、ペース早くないか? こんなに急がなくても、余裕で着くと思うぞ?」


「黙れ。私が他の者に劣るようでは示しがつかない。一番でなければ意味がないんだ。班長は私で、この中で唯一足を引っ張っているのがお前だけなのだぞ。もっとしっかり歩け」


「いや、これは俺以外の誰が入っても変わらないと思うぞ? 実際、このペースについてける奴なんて、日頃から鍛えている奴以外無理だろ」


「…………」


 授業風景を見ていれば分かるが、このペースについていけるような奴は、この三人を除いて他にいない。


 何せ歩くと言うより、ジョギング程度の速度は出ている。それも荷物を背負ったまま。


 一応ついて行ってはいるが、徒歩でさえ完走が危ぶまれる貴族としては早々に限界をアピールするべきだろう。


 そこはリヴィアも同意したのか、無言ながら、元の早歩き程度の速度までは落ち着いた。


 尤も、普通の貴族ならばこの速度でもついていくのは無理だろうが、そこは妥協するべきだろう。どうせ孤児達の報告からも、無事に完走出来そうにはないし。





 おおよそながら、全工程の半分程を進んだところか。


 そんなペースで進むものだから、だらだらと進むナーシェの班以外は全て追い抜いてしまっていた。


 そして今、ナーシェの姿を視界に捉え、ある程度接近したことろで足を止める。


 そこは谷の入り口だった。


 ナーシェはわざわざ街道を逸れ、回り道して崖の上からこちらを見下ろしている。



「ふふふ、ようやく来たね。君たちがあまりにも遅いので、随分と待ちくたびれたよ」



 と言ってはいるが、ここに到着してそれほど時間が経っていないのだろう。ナーシェを背負ってきた冒険者はうっすらと汗をかき、まだわずかながら呼吸が乱れている。


「そうか、それじゃゴールで会おう」


 ナーシェの狙いが時間稼ぎなのは目に見えている。

 ならば馬鹿正直に付き合う理由もないだろう。


「待て、貴様! さっきといい今といい、随分と調子に乗ってくれたな。僕を虚仮にした事を思い知るといい」


「なぜお前が仕切っているんだ。ここのリーダーは私のはずだが」


 ナーシェとリヴィアの二人から怒られ、イザークは内心で嘆息する。

 この様子では何を言っても聞かないだろう。


「機嫌悪そうですが、何かありましたか?」


「ッ!! 貴様ッ! ……いや、いい。そうやって余裕をかいていられるのもこの時までだ!」


 そのとぼけた態度に、ナーシェの堪忍袋の緒が切れた。


「リヴィアも急いでるんだろ? こんなバカにかまう時間ももったいないと思うけど?」


「それは私が決めることだ。現在一位のナーシェがここにいる。すぐに追い抜いて突き放すだろうから、少しくらいは構わない」



 ダメ元で言ってはみるものの、こういわれてはイザークの出る幕もない。

 リヴィアはナーシェの方へ向き直り、声をあげる。



「それで、私に何の用だ。くだらない用事なら、悪いが付き合うつもりはないぞ」

「いいや、嫌でも付き合ってもらうことになる。何せ、もうすぐそこだ」



 その時、震度でいえば一か二程度の地震を感知した。

 しかし、この世界で地震に見舞われたことなどそれこそ一度もない。

 当然ながら、その一回目が偶々このタイミング、というわけではないだろう。

 そして、それはイザークだけでなくこの場の全員。その中で唯一、ナーシェの嘲笑と得意げなものをないまぜにしたような、厭らしい笑みが強くなる。


 かなりの勢いで近づいてくる地鳴りの音。


 ここにいる誰もがそちらへと目を向け、そして見た。


 一人の男が森を抜け、此方に気付いてほんの僅かに安堵の笑みを浮かべた瞬間、爆音にも似た音が響き渡った。


 たった一撃。それだけで、男は原型も留めずに肉塊へと変じた。





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