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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
50/112

覇権争い、前哨戦

更新かなり遅れてもうしわけない。

もう一作品の方書き終わったら完全に燃え尽きてました。実際には昨日投稿しようと思ってたのですが、緊急メンテやらで不可能に。つまり、一日分は運営のせい。。。Σ

少々テンポ悪いかもです。



 クラスだけに限らず、一つの閉鎖空間や集団内におけるヒエラルキーの頂点には、基本的に家格の最も高い者が君臨するのが貴族社会だ。


 勿論、それはそこにいるのが同じ派閥の者のみの場合であり、家格がワンランク下でも対抗馬は出る。しかし、それはその人間が余程有能かつ、格上にあたる人間がかなり無能という条件を満たしていないと対等に張り合うなど無理であり、多くの場合は日蔭者として教室の隅でひっそりと生活していくことになる。


 それほどまでに、僅か一ランクの家格の差には絶対的な隔たりがある。


 一つ上の者と相対するには、少なくとも下の者が三人から五人の、それも同格の家が手を組まなければならない。そう言われているほどだからだ。



 短期間、それも直接お互いが潰し合う意思を有していないならば問題ないが、そもそも敵がいて、己がその敵よりも優位であれば相手を潰したがるのが貴族の性。そしてもう一方は身を守るために対抗するのが基本的な流れ。そのせいで常にお互いが争っているのが貴族という生き物だ。



 イザークが知っている範囲だけでさえ、近年でも政争に負けて表舞台から姿を消した貴族も決して少なくないほどに。


 家格の低い家は生き残るための術と上の者に取り入る術を学び、高い家は下を従える術と同格の他者を排除する術を中心に学ぶ。


 イザークの受けた教育もその例に漏れず、更には独自の様々な行動によって権謀術数渦巻く貴族社会で生き残る術は充分に身につけていた。


 そんなヒエラルキーの頂点に位置するには充分な家格の侯爵家、それも誰もが長子。そんな人間が三人という状況は、どう考えても良くない。


 この状況だけから推測するなら、泥沼の消耗戦に持ち込まれていただろう。


 しかし、そうはならないと誰もが察していた。


 まずはほぼ全ての貴族から嫌われているリヴィアを、残る二家の者が協力して叩き落とす。二度と逆らう気が起きないよう、徹底的に痛みつけるだろう。


 そしてしかる後、改めて二人が雌雄を決する。或いは睨みあいに終始するか、リヴィアを攻撃中に絶妙のタイミングで裏切って漁夫の利を得る。


 ここにいる誰もが、そんな未来を疑わないでいた。


 故にある者は己をどう売り込むか。またある者はどう勝ちに行くか。またある者はどう生き残るかを考えながら、イザークとナーシェを観察する。



 イザークは無遠慮な視線を背中で感じながら、初めての休憩時間に入ってすぐに近寄って来たダレンと、ダレンと一緒に近寄って挨拶を始めた八人程の相手をしていた。


 ナーシェの方は此方より数人多い程度だが、その対応も同じだ。


 無論の事、貴族とは言え子供の権力闘争だ。


 三年間を睨み合いに終始したと言う話が大多数を占める程だから、表沙汰になるような直接戦闘が勃発する事態には余程の事がない限りは陥らない。


 ただどれだけの手下を従え、強大な勢力を誇示出来るかが肝要だ。


 単純な人数はどれほどか。いざという時、力になる喧嘩の強い人間はどれだけいるか。そして、己自身が他人に指図されるのを嫌うために軽視されているが、頭のキレる参謀がいて意見できるだけの環境を整え、それを聞き入れるだけの度量を持つかどうか。


 無論最後の例が確認されるのは稀だが、それらの要素を考慮して七割以上の勢力を誇るようになれば、自然とそのクラス内におけるヒエラルキーの頂点に立つこととなる。



 だが、もしもそうならなかったら。



 ほぼ互角の場合だが中には闇討ちし、痛みつけて恐怖を植えつけ、逆らう気を起こさせなくする者も少数ながらいる。

 そういった容赦のない人間程考え足らずのバカか、狡猾で厄介な者のどちらかだ。


 つまりリヴィアはともかく、ナーシェには常に一定の警戒をする必要があるだろう。


 ナーシェ自身は前者であっても、以前パーティーで見掛けたその背後にいる父親の方は、狡猾な人間特有の鋭い眼光をしていたのを覚えている。


 あれは間違いなく油断のならないタイプの人間で、つまりナーシェと戦うなら準備をさせず、何より予定外の事態を引き起こす事が肝要となってくる。


 そして最初に動いたのはナーシェだった。ゆっくりと席を立ち上がり、向かう先はイザーク。



 その距離は僅かに通路一つ分。



 クラス内の誰もが、緊張を孕んだ視線でその行動を見守っていた。



「挨拶が遅れて申し訳ないな。今更言うまでもないだろうけど、僕はナーシェ。パーティーでキミを何度か見かけた事があるよ、イザーク君。残念ながら、話す機会は得られなかったけどね。父親が同じヒューゲル公爵閣下の派閥同士、仲良くやろうじゃないか」


「…………」


 パーティーで話せなかったのはやることが多く、気になる人間を除いて同年代の多くは避けていたから当然だ。


 差し出す手は握手をしようという事なのだろうが、父親の話題を出しながら、そのにやついた笑いはここで隷属しろと言っている。


 そしてそれをクラス中に示す為に、この場で言って来たのだろう。

 最初から随分と欲張りではあるが、その判断も決して間違いではない。

 父親はそれなりに頭がキレるようだし、少なくともライルよりは公爵の覚えめでたいのは事実だ。


 つまり、厳密に言えば同じ侯爵家といえど、相手側が立場は上という状況にある。

 無論ライルがそんな状態で納得しているはずもなく、散々愚痴っていたのでその辺もそれなりには知っている。


 とは言え、生まれながらに与えられた爵位や領地に胡坐をかいている無能なライルでは挽回の目はないだろうが。


 その辺りを曖昧にし、対等の相手として組むのではなく、それほどの差ではないとはいえ力関係がはっきりしている今のうちに従えようというのだろう。


 この可能性も考えていたし、正直予想した中ではイザークにとってかなり悪い部類の展開だが対策はある。


 個人的に動き回りたかったからこそ、理想はクラス内の目を自分以外の二侯爵に集めたかった。


 そして、もしもここでイザークが素直に従えば、クラス内での勢力図が決定的になる。


 舐められるのは構わないと言うよりむしろ望む所だが、利用されて力をすり減らす事になるだろうし、どうせ碌な用件で使われないだろう。


 さすがにそれは望む所ではない。


「そうだな。同じ侯爵家同士、仲良くやろうじゃないか」


 独立性を保つため、あくまでも対等な者同士だと強調しながら手を握る。

 太った見た目で充分に判断出来てはいたが、その手はやはり、碌に武器を握った事もない柔らかい手だ。


 ナーシェは少々不快そうな表情を見せながらも、笑顔は崩さない。

 だが、ここで少しでも表情に出すのだからやはり未熟と言わざるを得ないだろう。



「それで……。早速だが、このクラスで三年間過ごすわけになるのだから、より過ごし易い環境を整えるためにまずはゴミ掃除から始めたいと思うんだけど、キミはどう思う?」



 もったいぶった回りくどい言い方だが暗に、しかし聞いている誰もが理解できる程明確に示唆しているのは、最初にリヴィアを潰すということだ。


 わざわざこの教室内で宣言した事で、警告と牽制の意味合いも兼ねている。


 つまり、反対するならその者は敵だと言う事だ。


 ゴミをゴミと認識できないゴミがいるから困る。などと言えたら楽なのだが、理想はリヴィアとナーシェの対立であり、自分とナーシェがいきなり全面戦争というのは良くない。


 しかしイザークの力がなくても、リヴィアとナーシェが対立すれば頭数の差と卑怯な手段ですぐに潰されるだろう。


「その程度なら僕が手伝わなくてもナーシェ一人でやれるだろう?」


 その程度も出来ないのかと半ば挑発気味に、そして自らはこの件に関して現状中立を保つという宣言。しかし心証の上ではナーシェの側だと捉えられるように言う。


 立場を考慮しつつ自らの意思を通すのは、この辺りが限界だろう。


「…………なるほど、いや確かに。あんな騎士気取りの女一人、僕にかかれば敵ではないな」


 ナーシェは余裕を見せつけるように僅かながら胸を反らす。


「まあそういうわけで、この件に関してはそちらで好きなようにやってください」


「ああ、それでは任せてもらおうか」



 どうせ頭の中では、勝った時の事ばかりを考えているのだろう。

 どう辱め、痛みつけるのか。そんな下卑た考えが、笑みにはっきりと出ている。

 己の兵力を把握しきる前にそれでも数で押し潰し、未だ派閥を決めかねている人間に対してデモンストレーションを行おうという腹積もりだろう。



 先に自陣営を把握しきってから動くものだと想定していたから、これは面倒なことになったと内心で嘆息した。






 初日は半ば顔合わせの面が強い。

 と言うより、常に授業は午前で終わる程度にはこの学校の存在自体がお遊びなのだ。

 

 今日は特に授業らしい授業はなく、学園で過ごす心得を口頭で教わっただけで早々に終了した。


 後は個々人で親睦をしろということだ。


 ナーシェは自分の配下についた者達をもてなすため、ぞろぞろと配下を引き連れて去って行った。

 懐具合、即ち財力を見せつけるための一環として、イザークは店一つ貸し切って全員に挨拶を述べた後で早々と退場した。



「……イザーク様、本当によろしかったのでしょうか?」



 不安そうに問いかけたのは、数歩後ろを遅れて来るダレンだ。

 ダレンだけは、用があったのでついてくるように命じた。

 リヴィアを潰す役をナーシェに譲って良かったのか。そして、最後まで残らなくても良かったのかと聞いている。



「ああ、構わない。会場を去る時に言った時間がないというのは本当の事だし、彼らはもう僕の味方だ。必要以上に構う時間がもったいない。それに、僕がいない方が彼らも気が楽だろうしね」



 会場では余裕を見せるためにナーシェの手腕は見物だと言ったが、それは半分本当で半分は嘘だ。


 ナーシェには何が何でも失態を演じてもらわなければいけないのだから、そのために細工する時間が欲しい。


 しかし、此方はまだ準備段階。ならば少しでも早く、実行段階にまで移さなければならない。


 ナーシェが今日一日は親睦に当てるとしても、数で押し潰せるとタカをくくり、明日動く可能性も充分に考えられるのだ。



「…………それよりダレン、早速だが頼みたい事がある」

「はいっ、なんでしょうかイザーク様!」



 今にも敬礼しそうなほど元気の良い、しかし緊張のためか、少々硬い返事が返ってくる。



「そこまで緊張する必要はないよ。ただ、このクラスにいる人間の所属、特に僕の派閥は誰がいるのか。そのリストと、その人物に関するある程度の情報を書き込んでほしい。明日までにお願いできるか?」

「はいっ、お任せください!」



 これはあくまでダレンの視点からどう思っているか。そして潜在的な敵がいれば、その敵はダレンを騙し、上手く此方に溶け込んでいるのかを図るためだ。


 実際にはそのデータを元に、王都に待機させている孤児達に裏付けをとらせるつもりだ。

 何せダレンの能力は勿論だが、そもそもここにいる人間は自分以外誰も信頼するつもりはない。

 リヴィアの実直さやダレンの矮小さを信用し、利用することはあってもだ。頼るのではなく用いる。せいぜいその程度だろう。



 ただ、とりあえず敵か味方か。そして、弱みやつけ込む隙があるかどうかを調べさせておく。


 この仕事はある意味でダレンにしか出来ないし、これが後々役に立つ可能性もあるだろう。



「ああ、期待しているよ」



 そう、それほど期待はしていないが、最低限の事くらいはこなしてくれるだろうと期待して、イザークはダレンに言葉を掛けた。

 大した仕事ではないが失敗は許されないという緊張、期待という言葉に対する高揚。何より、他人ならまだしも主人にあたる人間の言葉に対し盲信的で疑うと言う事を知らない。

 疑い、裏を読む思考を凍結させてしまったダレンは、その言葉の意味を言葉通りにしか理解出来ていなかった。





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