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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
48/112

配備





「ベルガ、クレスタ。お前達二人にはロザン公爵の領地へと行ってもらいたい」



 室内に入って来た二人に任地を告げる。

 先程からずっと、最低で一人から最大十人のグループに分けて拠点内に設けた自室へと呼び出しをしている。


 ある者は商人として街に拠点を築き、或いは名もなき町人として溶け込む。ある者は吟遊詩人として、またある者は冒険者として各地を巡る。


 だが、この二人を始めとする精鋭達だけは気色が異なる。


 ここに立ちあうのはエミリオとリーズのみ。他の人間は、たとえ同胞であれ任地を知らせないようにしているし、時間を指定し、わざとズラして旅立たせている。


 国内の有力な貴族が納める領地を中心に、そして僅かとはいえ一部の者は国外にまで派遣して諜報活動を行ってもらうのだ。


 万が一囚われても自白出来ないように対処するのは当然のことだった。


「二人に頼みたいのはロザン公爵の暗殺だが、正直な所これは失敗しても構わない。……いや、と言うより、成功するとは思っていない」


「……それは、私たちには無理だという事?」


「某の腕が信用出来ぬとでも?」


 今まで積んできた訓練を否定されたと思っているのだろう。

 とは言え、あれの本当のおぞましさは直接見なければ到底分かる物ではない。



「いいか、お前達の事は信用している。だが、あれは別格だ。直接見れば分かるだろうが、必ず、たとえそれが就寝時に忍び込むような暗殺の類であれ直接戦闘は禁ずる。近づくな、毒でも混ぜて反応を見ろ。一瞬でもマズイと思ったら、常識的にありえないなんて考えは捨ててなりふり構わず逃げろ。あれは……化け物だ」



 今でさえ、思いだせば寒気が走る。

 勝てるビジョンがまったく湧かないのだ。だが、出来れば戦争を仕掛ける前に葬りたいという思いは強い。


 しかし、具体的な方法がまったく思いつかず、今回も殺せれば宝くじで一等が当たるよりもラッキーな事というほどの認識だが。


 恐らく、もう暗殺者の類は低く見積もっても数十は返り討ちにしたと見るべきだ。

 あれの本当の脅威は、きっと自分よりも戦争で直接対峙した他国の方が知っている。


 だが、それでも可能な限りの方法は試しておくに限るし、ロザンを見ることで今後、格上と遭遇した場合でも臆さず、冷静に戦えるというメリットもある。

 そんなイザークの様子から尋常ではないと悟ったのだろう。

 二人とも言葉はなくとも、慢心は消えていた。


 しかしそれでも尚、その想定は甘いだろう。


 アレを想像しろなんてのは土台無理なのだ。想像とは結局、自分の知り得る範囲、自分の想像できる常識の範囲に限る。


 おとぎ話の化け物が存在するなどありえない。あのレベルの人間を想像しろなんてのは、アレを見た人間にしか無理なのだから。


「だから失敗した場合、正体が露見していなければ現地に留まって公爵に関するあらゆる情報を集めてほしい。もし露見した場合は即座に領外へ出て王都へ来い。無理なら一端ここへ帰っても構わない。そこで追って指示を出す。旅立ちは三日後だ。それまでに準備をしておいてくれ」


「……ん、分かった」

「確かに拝命致した」



 二人が一礼し、部屋を出た後で代わりにアベルが入ってくる。



「それで、俺の任務は何なんだ?」

「ああ、三日後にここを発つベルガとクレスタの先回りをし、二人を監視しろ。少々余った手勢がいる。エミリオと相談して、数人なら連れて行ってもらっても構わない。二日後に発つのが無難だろう。場所はロザン公爵の領地、パーシーモークだ」


「……おいおい、それはどういう意味だ? まさか二人が信用できないってことじゃあねぇよな?」


 答え次第では容赦しないとばかりに怒気を滲ませる。

 が、当然ながらそういうわけではない。


「ああ、それはない。アベルには保険として行ってもらう。万が一、生きて囚われた場合の救出やピンチの時の助っ人を頼みたい。二人にも知らせるなよ」


「ああ、そういうことか」


 ようやく納得したとばかりに怒気を収める。


 実際、暗殺者や密偵の類を捕らえられる機会があるのならば、情報を吐かせるためにそうするだろう。


 そこらの人間が束になっても負けるような軟な鍛え方はしていないが、もし公爵自身と戦った場合は負ける可能性が高い。

 非常事態のバックアップは間違いなく必要だった。


「あの二人の標的はロザン公爵だ。だが、直接戦闘はマズイ。確実に達成出来ない。だからこそ、もし二人が公爵自身と戦うような事態に陥った場合は捕獲される可能性が高い。その時、直後ではなく時間を置いて救出に向かえ。旅立ちは明日、遅くても明後日で頼む。冷静にな」


「りょーかい。任せろ!」


 実際、アベルにはああ言ったが、生きて捕獲されるかどうか不安ではある。

 そんな事に頓着するような人間には思えなかったし、最悪、とでも言うべきかどうか難しい所ではあるが、良くても腕の一本や二本を失う可能性もある以上、あまり楽観は出来ないだろう。


 その時の為の情報を知らせる役目も暗に担わせている。


「話は以上だ。それじゃ準備しておいてくれ」

「あいよ」







「お疲れ、イザーク」


「ああ」


 ようやく告げるべき事を全員に告げた。

 これで、今の自分に出来る事は何もなく、後は結果を待つだけの日々を過ごす事になるだろう。


 成功者がもたらす情報や、逆に失敗者が出てきた際の修正など、やらなければならないことはこれから出てくるが、それはかなり先の事。


 とりあえず、これで憂いなく学校へ行ける。


「それじゃあお前達二人も頼んだ。フリードさんたちに近隣の村や街から孤児を集めさせておいたのが、そろそろ此方に到着するころのはずだ。彼らにはスパイではなく斥候としての教育を中心に頼む。それと通常戦闘もな」


 今から集める新規の孤児達には、戦場で最も危険な任務を中心に請け負ってもらう。


 恐らくは最終的に、全体の半数近くが死ぬような使い捨ての駒として。


 これを人道的というかどうかは迷うところではあるが、放っておけばそれ以上の人間が死んでいただろうし、そもそも人の命が安いこの世界において、人道的であることを強要する者は誰もいない。


 だから問題はないだろうと自分を納得させ、先ほど出した指示に漏れがないかを脳内でチェックする。



 大半の任務は皆無難にこなせるだろう。



 敵は人間よりも、道中に遭遇する魔物に注意するくらいだと言えるからだ。だが、一部の人間にとっては難度の高い任務を請け負ってもらった。無論、必要な知識や技能を得るために様々な訓練を積んでもらったがやはり不安は尽きないし、保険も兼ねて失敗を前提に動くべきだろう。


 近いうちに胃痛がしそうなほどに不安だらけではあるが、とうとうここまで来た。


 いち早く実戦に臨む彼らに対し、イザークはただ祈ることしかできなかった。







次からようやく学園パートに突入します。

スパイ活動は話の合い間にちょくちょく入れていく予定です。

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