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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
47/112

ファミリー

かなり長い間の待たせして申し訳ない。

更に申し訳ないことに、当初はここから以前の隔日更新に戻す予定でしたが、知人に乗せられ、新作をなろうとアルファポリスに投稿することに決めました。

8月末〆切の第7回ファンタジー小説大賞が目当てです。

今ストックがある分は毎日更新、切れたら不定期にする予定ですが、今はまだあまり文字数に余裕がないため、8月末まではそちらを中心に更新していこうと思ってます。

多分革命軍の方は週一更新くらいになりますが、あと3週間ほどはご容赦ください。

もしよろしければ、暇つぶし程度に新作の方を読んじゃっててください。

感想等頂けると助かります。




「リーズに言われてきたんだが、俺に用があるんだって?」


 エミリオがそう言いながらノックもせずに入って来る。

 リーズは先にこの部屋へ帰ってきており、今は机の下で聞き耳を立てている。


「ああ、以前言ったと思うが、これからここにいる全員に任務を言い渡す。エミリオには、最初に聞いておいてもらいたいと思ってな」

「なるほど、その件か。それで、俺はどこに行って何をすればいいんだ?」


 リーズの願い事が気になっているだろうに、全く気にしていないように偽っているのが分かる。

 これからの任務が命懸けと言うのは理解していよう。それでも、何でもない風に言ってのける姿を見せられるが、これからその覚悟を裏切るような事を言ってしまわなければならない。


「今、フリードさんたちに近隣の村や町から新規で孤児達を集めてもらっている。少なくても数百人、多ければ千人は集まる事になるだろう。エミリオにはここの拠点で新たに迎える孤児の教育をお願いしたい」


 あまりにも無神経すぎるその言葉を受け、エミリオが言葉を失った。

 次第にふつふつと湧きあがる怒りが、その身を支配する。


「……ざけんな。ふざけんなよ、お前! 俺が何のために精鋭部隊に志願したのか分かってるだろ!! だと言うのに、俺にこんな安全な場所で仲間達が危険な場所へ赴くのを黙って見てろってのか!?」


 まっすぐ過ぎるな。

 ホント、スパイだと言うのにこれでは困ると言うべきか。

 訓練を積んだ以上はいざとなれば状況に応じて人格を偽れるのだろうし、こんなエミリオだからこそリーダーを任せられたのだが。


「ああ、そうだ。これが、俺の思い描く一番効率のいい形だからな」


「お前、そんなんで俺が騙されると思ったか? 見縊るなよ! 伊達に今まで訓練を積んじゃないんだよ。お前が指揮官だと言うのなら、最も犠牲の少ない道を選べよ! 危険な任務につくなら俺が適任だろ! それなら、俺は道具のように使われて死んでも構わない」


「っ!」


 痛いな。

 確かに、情が湧いているのもある。

 これがエゴで、理想論だなんて事くらい分かってる。

 それでも、エミリオにしてもらいたい事があるのは本当だし、道具のように使うべき相手は他にいる。


「いいか、俺がお前に頼むのは孤児の教育だけじゃない。亜人達が見られないように気を配り続け、何より他の奴らと違って絶対に失敗が許されない任務を頼みたい。他の奴らが生き残るために逃げる事は許可するが、お前にだけは、逃げる事を認めない。成功率は誰がやってもそれなりに高いだろうが、それでも失敗だけは認められないんだ。最悪、刺し違えてもやってもらわなきゃいけない。だから、俺が一番信頼出来るお前にやってほしい」


「お前……」


 情だけではないと伝わったのだろう。

 エミリオの表情が怒りから冷静さを取り戻したような表情に変わった。


「エミリオにやってほしい事は――――だ。いいか、これだけは必ず成功させろ」

「っ!!」


 その時、初めてエミリオが息を呑む。

 動揺を抑えようとするのが、手にとるように分かった。

 実際の任務遂行時、そこに自分はいない。

 ある程度事前に指示は出来るし、計画を立てる事は出来るが、実際に動いてもらうのはエミリオを中心とするグループなのだ。


 そしてその時、鍛え上げた孤児達他の人間は各地に散らばっているため、信用出来る手駒がそれほど多いわけでもない。

 だからこそ、能力的にも信用できるエミリオに頼みたかった。


「なあ、それは、急ぐことなのか? お前なら放っておいてもそれが手に入るだろう?」

「ああ、今すぐじゃ無駄になるが三年後、俺が成人する時に必ずやってほしい。俺には、時間がないからな」

「…………任務の方は分かった。…………なあ一つだけ聞きたいんだが、もしも俺が……いや、何でもない。忘れてくれ」


 言い淀んだ言葉が何だったのか、それは口にしなくても分かる。

 だが、それを推測だけでなくエミリオに口にさせないといけないのだ。


「なあエミリオ。一つだけ聞きたいんだが、もしもお前が優勝したら何を願った?」

「…………それは……どうしても言わなければいけないのか?」

「ああ、そうだな。俺は是非とも聞きたい」

「……正直、決まっていない」


 俯き、拳を握りしめている姿は本当に迷っているとばかりの様子を見せる。


「それは、決まっていないんじゃなくて決めかねてるだけじゃないのか?」

「っ!」


 だが、それは複数の選択肢で迷っているわけではない。


 ある一つの願い事を、口にするべきか否か。


 そこで迷っている。


「…………どこまで、気付いてる?」

「ああ、多分だけど、お前以上にだ」

「……はあ、お前相手に隠し事は出来そうにないな」

「今回は俺だけじゃないぞ?」

「……どういうことだ?」

「まあ、すぐに分かるさ」


 エミリオははぐらかされた答えに納得いかないような表情を浮かべながらも、これ以上掘り返すような真似はしない。


「さて、それじゃ俺からの命令だ。リーズ、お前はエミリオの補佐だ!」

「ふわっ!?」


 予想もしないタイミングで突然名前を呼ばれ、机の下で跳び上がったのが分かる。

 何せゴンッ、という頭をぶつけたような音と共に、つう~、なんて声が聞こえてきたのだから。


「……リーズ。お前、いつから聞いていた?」

「いやー、あはははは……。ごめん、最初っから」


 バツの悪そうな顔で後頭部を掻きながら出てきたリーズ。


「ええと、それでイザーク。なんでアタシまで……?」

「エミリオ一人じゃさすがに荷が重い」

「でもでも、それはアタシじゃなくて他の人でも――」


「つまらない遠慮なんてしてないで、お前らもっと話しあえ。相手の気持ち無視して自分勝手に振舞う癖に、自己完結してるから性質が悪い。そんなんだからお互いに気を遣って雁字搦めになるんだよ。お前ら、俺に対する願い事が何なのかお互いに言うように。これは命令だ」


「だって――」


「それに、お前達が家族と呼ぶ仲間達がそんなに狭量だと思うのか?」


「「っ!」」


「さて、それじゃあ邪魔者はさっさと退散しますかね」


「まっ――!」


 イザークは引き止めようとするリーズの言葉を遮るように、扉を閉めて出て行った。





「…………」

「…………」


 イザークが出て行った後、もはや後を追いかける気にもなれず、リーズには色々と言いたい事や聞きたい事があったはずなのに言葉が出なかった。


 もう、半ば気付いている。


 相手の願い事がなんだったのか。そして、どうしてそんな願い事をしたのかも。

 だから意を決して、言葉を紡ごうとし――


「……ええと」

「……あのね」


「「…………」」


 偶然にも重なった言葉が再び沈黙をもたらす。

 それが、何故だか妙におかしくて――


「……ははっ」

「……ふふっ」


 思わず笑いが零れる。

 それで、先程までの息苦しさはなくなった。


「…………あのね……アタシ、怖くなったの。もし実戦が始まってエミリオが死んじゃったらって思ったら、怖くなった。バカだよね、今までだって、魔獣相手に命懸けで何度も戦ってきたのに……。だから、イザークにはエミリオを出来るだけ安全な場所に配置してほしい、って頼んだの」


 最初に口を開いたのはリーズ。

 こういうのは男から、なんて想いがあるからその点に関しては不満ではあるものの、遮ったりはしない。


「だから、あれほど大切にしていたはずの、平等だったはずの家族の皆に、優先順位をつけちゃった。……最低だって……分かってる。でも――!」


 でも、その言葉だけはリーズに言わせちゃいけないから。


「……正直、俺も迷ってた。同じ事をリーズにしようとしてた。恐らく俺達十人はバラバラになる可能性が高いから、今までのように傍で守れないから、どうすればいいかずっと考えてたんだ……」


 あれほど重かった口から自然と言葉が紡がれる。


「…………え? あの……それって……」


「好きだよ。俺は、リーズの事が好きだ。イザークに出会う前のあの環境で、捻くれることなく笑いながら真っ当に生きられたのも、底抜けに明るいリーズのおかげだって思ってる。そんな所に何度も救われたし、そんな所が好きになった」


 不思議と、今までのような照れや迷いはなく、本心から言いきれた。


「あ……アタシは…………アタシもエミリオの事が好き。アタシだってエミリオにずっと助けられたし、一欠けらしかない自分の食べ物を平気なフリして分け与えるような優しさも、皆を引っ張ってくれた強さも全部知ってる。だからアタシはそんなエミリオを支えたいと思ったし、気付けば好きになってた」


 なんだか、こうもあっさり行くと、今まで思い悩んでたことが馬鹿らしくなってしまう。


 これも全部、イザークのお陰なのだろう。


 おせっかいで身内には甘くて、他人に余計な気を遣ってばかりいる。


 今更ながら踏ん切りがついたし、ここまでくれば迷いはもうなくなった。


 感謝の言葉を心の中で述べる。



「……リーズ」

「……エミリオ」



 そして、二人とも自然に距離が近づき――



「グスッ」



「「…………」」



 なんて鼻をすするような音が聞こえてきたから、思わず動きが止まってしまう。

 お互いの反応を見て、それが気のせいではない事を悟る。

 半ば走るような早歩きで扉に近づき、開け放てば人一倍泣き虫のキャリーが瞳いっぱいに涙を湛えている。

 そして、顔を見て感極まったとかのように、「よ゛がっだよ゛お゛」、と泣きながらリーズに抱きつく。それにキャリーだけじゃない。ここには孤児全員、そしてイザークとアーシェスがいる。


 半分はニヤニヤと声を出さずに笑い、もう半分は涙を堪えるように俯いていたり、目に腕を当てていたりしている。


「……なにしてんだ、お前達」

「ええと……あの……集団隠密行動の訓練? ……いや、盗聴か?」

 

 間違いなくこの状況を作り、全てを企んだ本人に向けて放った言葉に、決して視線を合わせようとしないイザークが返す。



「いやあ、それより上手くいって良かった良かった」


「そんな言葉で誤魔化されると思ってんのか?」


「…………」


「…………」


 まるで自分の口から出たとは思えない程に冷え冷えとした言葉がイザークを責める。


 二人っきりになれる状況を作ったのがイザークなら、この状況を作ったのもイザークなのだ。

 先程まで抱いていた感謝の念はキレイさっぱり消え失せ、怒りのみが支配する。

そのままエミリオとリーズが無言で詰め寄ろうとし、しかしイザークはそこに危険を感じたのだろう。



「皆、エミリオとリーズを祝福しろ! 今すぐ胴上げだ!」


「よっしゃあ! 任せろ!」


「遅いんだよ、お前ら! どんだけ待ってたと思ってる!」


「お兄ちゃん、お姉ちゃんおめでとう!」


「なっ、テメッ、おい待ちやがれ! お前だけは一発殴らないと気がすまねぇ! お前らも邪魔するな!」


「いいからキャリーも皆も、嬉しいけど今はどいて!」


 企んだのはイザークだが、その企みに乗ったのはここにいる全員だ。

 とは言え口々におめでとうと、良かったと心からの笑顔で送られる祝福に、そんな者達まで力ずくで振り払うわけにもいかないから、これ以上前に進めなくなる。


「俺は他にも色々とやることがあるからな、悪いが抜けるぞ!」


 今の二人に、背を向けて一目散に走りだしたイザークを追う術などありはしなかった。




 イザークが早々に脱落した者達と進めていた宴は、最高潮を迎えていた。


 皆が、これから離れ離れになる事を言うまでもなく理解していた。


 だからだろうか。今までで一番食べ、飲み、騒いだ。


 今、この場には亜人も人間も関係なく混ざり合って騒いでいる。


 そして再び、全員がこの場で再会しようと誓い合う。


 この小さな輪が始まりの光景で、十年先にはこの状態のまま人数が増えてくれえばいいと、イザークはそう思った。



――たとえそれが、叶わぬ願いだと理解していても。




 壮行会と二人に対するお祝いを兼ねたパーティーは、夜が更けるにつれ一人また一人と眠りに就く者が現れ始めた事で、いつの間にか自然と終わりを告げる。


「……アーシェス、そろそろ俺たちも帰るか」


 そんな姿を見ながら、そろそろ自分も家へと帰ろうかと思った時に声が掛かった。


「イザーク……ありがとね」

「全部お前のお陰だ。正直、皆には責められてもしょうがないと思ってたから、本当に助かった」


 聞き取れたのが不思議なほどに小さな声でポツリと、リーズがお礼を言う。そして、それを継ぐようにエミリオが。


「放っておいたって結果は変わらないだろ」


「そっか、だったらそれでいいよ。でも……」


「……どうした?」


 ツカツカと歩み寄るリーズがなぜか作ったような笑顔を浮かべる。


「ただ、今までの分全部込めたこの一発は乙女の怒りとして受け取ってほしいかな!!」


 バチーンと、景気の良い音が鳴る。

 完全に油断していたから回避なんてする暇もなかった。


「エミリオ、行こっ!」

「ああ」


 頬には真っ赤なもみじが咲き、憮然とした顔のイザークが、エミリオを引っ張るように去っていくリーズを見ている。


「理不尽だ……」


「こればかりはお主の自業自得じゃ」


 ポツリと呟いた言葉に反応したのはアーシェス。 


 どうやらここに味方はいないらしい。


 あまりのやるせなさに、大きなため息を一つ。

 いつまでもここで燻っているわけにもいかず、イザークはただ無言で家路へとついた。

 

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