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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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同盟

「エミリオ、ちょっと待って!」


 貧民街の路地裏を大通りへと向けて疾走するエミリオに追い縋るのはリーズ。

 当然ながらエミリオは、自分に付いて来ているのは知っていたが、あの場ですぐに足を止めれば巻き込まれてしまう可能性もあった。


 だからそのまま足を止めることなく走り、そこから数百メートルほど離れた場所でその呼びかけに応えて、そこでようやく足を止める。


 だが、拠点から数百メートルしか離れてない今、ここはまだ危険地帯だ。


「なあおいリーズ、いきなりやり合うつもりか?」


 リーズから一定の距離をとるのは警戒の証であり、目の前にいるリーズ以外、周囲から襲いかかられる可能性も考慮して視線は常に一定せずに、リーズ以外にも向けられている。


「ねえ、ちょっと待って。よく考えてよ、イザークは今までの、って言ってたから、それはもっと頭を使えって意味も含まれるんじゃないかな?」


「…………続きを言ってくれ」


「だとしたらチームを組んでも問題ないって思うんだよね。だから、アタシと組まない?」


 言われてみればその通りだと納得する。

 イザークは確かにそう言っていた。サバイバルや一位への賞品という言葉に騙され、一人でやるように思い込まされていたが、今までの成果と言うからにはチームを組んでも問題はないのではないだろうか。


 尤も、言っている本人はそれほど頭を使っていないのだろうが。


 こういった事も確かに拠点を確保し、冷静になれば考えついたかもしれないが、即座に、直感的に答えを得るリーズに内心で舌を巻く。


「賞品はどうする? あれは一人だけのものだと思うが?」


「二人で半分ずつに出来るようなものとかどうかな?」


「イザークに対する報復はいいのか?」


「ん~、それはまた別で考えるよ。エミリオはどうなの?」


「あいつには散々振りまわされたからな。多少痛い目を見てもらいたいと思わなくもないが、それはまたの機会にしてもいいとも思ってる。それに、他の誰かが報復するならそれはそれでアリだしな」


 実際、どちらが勝っても内容は同じ事のはず。

 そもそも、イザークに頼んでどうしても叶えたい願い事はなかった。


 報復なんて言ったのは、冗談の一種だ。まあ本当の所、その気持ちがまったくないと言えば嘘になるが。


 いや、叶えたい願い事もあると言えばあるが、それは口が裂けても言ってはいけない事だ。

 なんだかんだで甘いイザークの事だ。それを言えばきっと叶えてくれる。だが、もしそれを言えば、今まで築いてきた信頼関係を土台から壊しかねない。


 イザークだけじゃない。


 色んな人間の想いを無視し、踏みにじって、自分勝手に決めてしまう事になる。


 何より、それを言えば俺は自分を許せなくなってしまう。


「…………エミリオ?」


 沈黙していたのをどう捉えたのか。

 どこか不安そうに尋ねてくるリーズに、今は目の前の出来事に集中するべきだと頭を振って今までの余計な思考を切り捨て、思いを切り替える。

 今はとりあえず無様を晒して秘密を暴露されるようなハメに陥らないよう注意していればいいだろう。


「ま、全ては優勝してからだし、こういった事は後にしよう」


「だね」


「それじゃこれから三日間、改めてよろしく頼む」


「うん、アタシこそよろしく!」


「とりあえずは今すぐにここを離れよう。拠点はどこにする?」


 序盤から二人という利点を生かして今の内に参加者を狩っても良かったのだが、今の内に色々と準備を整える方を優先することにする。


 まずは三日間生き残る事。


 恐らくはこれが最低条件。


 しかし誰とも戦わないという選択肢はそれこそ論外。


 つまり、現状抱える問題は、実力的にはほぼ対等な条件の上でどう戦うか。

 純粋な戦闘能力自体にそう大きな差がないのならば、戦う場所や条件を始めとする様々な要因を整え、いかに此方が有利になるように状況を整えるか。


 そこが鍵だろう。


「大通りに面した宿屋でいいと思うよ。人前で襲われることはそうそうないし、安目の宿なら部屋の入り口が狭いから、それだけ罠を張りやすいし」


「だな」


 二人で大通りまで駆け抜け、何食わぬ顔で人ごみに紛れて移動する。

 当然ながら道中で姿を隠す為のマントや荷物を入れるための袋を買って旅人を装い、顔を隠すのも忘れない。


 このタイミングに街中でフードまで被るとなると疑ってくれと言っているようなものだが、どの道素顔を晒すよりはマシだ。

 少なくとも一般人の可能性を考慮させ、僅かでも躊躇わせた方がいいだろう。

それに時間が経てば同じように同盟を組む相手もいるだろうが、今二人で連れだって歩く分には気付かれる可能性も低いだろうし。


 今回の最終試験を切り抜けるために必要な事が何なのかを話しながら大通りを歩いていると、あっという間に宿屋に着いた。


 見るからに年季の入った、大通りに面した宿屋の中では恐らく最も安い宿屋だ。


「いらっしゃい。宿泊で?」


 値段相応の設備という基本で考えると、少なくとも窓は小さい方がやりやすい。


 これが高級な宿屋になると、景観等の観点から一メートル以上の大きさという可能性もあるが、外から見る限りこの宿屋は木製の、それもせいぜい顔を出せる程度の小ささなので、防衛にはもってこいだった。


「二人一部屋を三泊頼みたいが、空いてるか?」


「ああ、だったら銀貨二枚だ。食事は朝晩の二食、足りないなら露店で買うか、追加は二食で大銅貨一枚だ」


「今払っておくから、三日分頼む」


「あいよ、確かに。部屋は二階へ上がって三番目だ」


 銀貨二枚と大銅貨三枚丁度を渡し、告げられた部屋へと向かう。

 当然、角を曲がるときなどは悟られない程度に警戒するが、幸いにして襲撃はない。


 中にはお金を持たずに今回の試験に臨んだ人間もそれなりにいよう。そういう点では幸運だった。


 安宿だけあって、想定通りの部屋だ。


 素早く中をチェックするが、最低限の家具しか置いていないために一分も経たずにチェックを終える。


 最後に始めはほんの僅か、そしてゆっくりと通りに面した窓を開け、周囲を確認する。が、目立った出っ張りはないため、この状態なら攻め込むのはやはり厳しいだろう。


 閉じた扉が簡単には開かないよう仕掛けを施す。

 今日一日程度であれば戦わなくても問題はないだろうが、明日も戦わないとなるとさすがにイザークも黙ってはいないだろう。


 何らかの干渉を受ける可能性か、最悪終わった後で罰ゲームが待っていることになる。

 積極的に動かざるを得ないように配慮された試験内容は厄介で、まさに面倒の一言に尽きる。


 夜に動いた方が戦闘はやり易いが、昼間でも大通りのような人の集まる場所以外ならばそう問題はない。

 喧嘩など日常茶飯事であり、多くは巻き込まれては面倒だと無関心を決め込む。


 だからこそ、もしも攻めるならばそういった場所を重点的に探せばすぐに見つかるだろう。

 今後の方針をリーズと話しあって固め、お互い旅の、そして精神的な疲れも残っているため夕食後は早めに交代で眠りに就いた。




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