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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
43/112

最終試験開始



「今日は最終試験を行う」

「はあ?」


 やや寝ぼけ気味の頭を回転させ、その真意がどこにあるのかを見極めようとする。

 が、そんなエミリオの反応などおかまいなしに、イザークは続ける。


「今回の範囲はこの街全て。当然ながら、極力市民に見られないよう、そして見られた場合、喧嘩でも装ってカモフラージュしろよ。参加者は十五歳以上の人間。というわけで、十五歳になってない奴はこっちにこい」


 今までの範囲は拠点内のみだったから、全員が軽い驚きを覚える。

 それだけ本格的にやると言う事なのだろう。

 ここにいる大半は十五歳以上だが、十五歳未満の人間も三割近くはいる。

 彼らはイザークの言葉に従い、輪の中から離れてイザークの傍へと寄った。


「ルールは簡単、生き残れ。ただそれだけの七十二時間耐久サバイバルだ。そして今まで通り、模擬戦形式。負けた者は誰に負けたのかを自己申告をするように。全員に大まかな流れをレポートさせるから、そのつもりでな」


「なっ!?」


 想像以上の長さに皆が驚く。

 今までは長くても半日だった。それが三日。いつ敵が襲ってくるかも分からない状況が七二時間続くのは、かなりきついものがあるだろう。



「実力に見合わない結果を残した奴には、いつも通り俺の独断と偏見で賞品や罰ゲームもありだ。例えば……ええと何々、最近のエミリオの悩みは……気になるあの子と仲を進展させるかどうか、ね。そんな気になるあの子はなんと――「おまえそれ以上言ったらぶっ殺すぞ!!!」……で、今度はリーズの弱みは……」



「あ……アタシにそんな弱みなんてない――」


「ターニャさんに唆されていざという時の為に最近見えない部分の黒、上下セットを買ったはいいものの、見栄を張りすぎてちょっとぶかぶか」


「…………へ?」


「しかし災い転じて福となす。間に詰め物をする事で大きく見せる事に成功」

「……え、ちょっと…………」


 頑張って平静を装おうとしているのは分かるが、ダラダラと汗を流し、目が泳ぎまくっている様からは到底隠し切れていない事がよく分かる。


 内心ではナンデソレヲ、とでも思っているのだろう。


「誰もが気になるいざという時の相手は――「わああああああーー!!!」……ね」

「ちょっとそれは酷いんじゃないかな!? キミは乙女の秘密を何だと思ってるのかな!?」

「どうせたいした進展もないのにね」

「ちょっ……もー決めた。今からイザークはアタシの敵だね。容赦なくいくから、覚悟しときなよ」


 もう許さないとばかりにリーズが指を鳴らす仕草をするが、鳴らない部分も含めてどうにも迫力に欠けている。


「と、まあこんな具合に、負けた場合は酷い事になるから皆頑張ってくれ。勿論一位になった人にはそれなりの範囲で願いを叶えてもいいから、そのつもりで願い事を考えといてもいいぞ」


「無視するなー!」


 ほんと、からかいがいがあって何よりだ。


「なるほど。お前、俺が一位になったら覚悟しとけよ?」

「あ、そーいうことね。さすがはエミリオ。ここまで挑発されたんじゃ、アタシもちょっと許せないなぁ」


 さすがにそこに気付くか。


 とは言え、それぞれ欲しいものややってみたい事はあるだろう。実際、からかっただけだということも理解してるだろうから、どこまでその言葉が本気かは考えものだが。


「ああ、やれるものならやってみろよ。その時は甘んじて受け入れてやる」


 まあ実際、さすがにこの二人はそれなりに勝率が高い。

 放っておけばいい線はいくはずだ。

 今の内に爆弾でも投下しておくべきだろう。


「ああ、そういえばクレスタ。アイスクリームの感想、教えてくれないか?」


「…………へ?」


「…………口の中で溶けて、すごく甘くておいしかった」


 顔を背けながら小声で答えたのは、十歳にも見えない程にあどけない、小柄な少女。

 だが実際の年齢は十五歳であり、その見た目に反した優秀さは、内偵任務で重宝することになるだろう。


「何それ、アタシそんなの知らないよ!?」


 食い意地の張ったリーズが思わず反応する。


「ああ、それがリーズの秘密の値段だ」


「…………なっ、まさか!?」


 実際、今回は試作を兼ねての事だったし、アイスクリームを作るのはかなり大変だった。なにせやや南に位置するここでは氷など中々確保出来ず、何より、高級品である砂糖にはかなりのお金もかかる。


 いくら仲間とは言え、それらを無料で全員分にあげられるほどの余裕はない。だから拠点にいる全員分となると不可能だったため、諦めていたのだ。


 それに、キチンと別れ際に忠告はしておいたのだ。


 身内であれ警戒しろ、と。


 これで、まずはリーズと潰しあってくれるだろう。


「所でベルガ、以前渡した刀の調子はどうだ?」

「文句はないでござる。この刀がある限り、某は貴公に対して永遠の忠誠を誓うでござる」


 ベルガには以前大泥棒三世の話しをした時、その中に登場する侍に憧れたせいか、刀を武器にしたいと切望した。


 この世界は一応刀も存在する。が、その特殊な形状からドワーフにしか打てず、ドワーフ自体は自ら刀を使う事はなかった。ただ、刀を使いたいという仲の良かった他種族の者のために刀を打ったとされており、現存する数は恐らく数十本程度。

半ば芸術品扱いであるその中の一本をどうにか確保し、ベルガに持たせている。


 自分が持ち得る浅い知識は全て教えたが、基本的には独学だと言うのに、孤児の中での近接戦闘能力は間違いなくトップ。


 戦闘訓練ばかりを積んできた亜人種のトップレベル帯とも互角に戦う辺り、刀への情熱は本物だろう。


 そのせいで、心理学等はこの十人の中では最低レベルのようだが。


「まさかっ!?」


 この様子ならエミリオも気付いただろう。

 以前ベルガの提案で男連中だけで飲みに行かせ、酔わせた時に、勢いと油断で口走ってはいけない事を話してしまったと言う事に。


「ぬああああああああ!!」


 頭を抱えて悶絶するが、油断した己が悪いのだ。


「チクショウ、お前本気で覚悟しろよ!」



「さあ、総仕上げだ。今まで培ってきた全てを生かして、是非とも生き延びてくれ!」



 まだ開始の合図を告げたわけではない。が、既に一部はじりじりと立ち位置を変え、なるべく集まっている人間の外側へと移動している。


 当然ながらと言うべきか、精神的に大きく乱れているはずのエミリオ達精鋭の十人もきっちりと含まれていた。

 さすがに付き合いが長いだけはある。

 とりあえず勘の良さは合格と言ったところだろう。



「さて、それじゃ開始だ!」



 一瞬生じた空白。


 信じられないタイミングで発せられたその言葉の直後、中心地にいた大量の孤児達は意味を理解した者から背中を見せている者に先制攻撃を仕掛けていく。

 そんな者も、やはり同様に背後からの攻撃を喰らったりという乱戦状態が醸し出され、参加人数の二割が、早くもこの場で脱落した。


 逆に予期していた者や、混戦状態にいち早く対応した者は即座に抜け出し、思い思いに散っていく。その中のおおよそ半数は、何を願うか考えながら。そして残りの半数はイザークに一泡吹かせてやるという想いを胸に秘めながら。




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