豪華絢爛腐乱包蔵の王城にて
今日はかなり短目です(汗)
代わりと言っては何ですが、明日も投稿するのでご容赦を。。。
「お前ももう知っておるだろうが、十歳になれば王城への登城が認められる。今夜、そこで開催される舞踏会に出て社交界デビューを果たしてもらう。いいか、くれぐれも粗相のないようにしろ。それと、もしも公爵家や王家の人間と接する機会があれば率先して自分を売り込め」
そろそろ食べ終わろうかと言う朝食の席で、例の如く何の前触れもなくライルが決定事項を告げる。
相変わらずの計画性のなさを問うべきか、計画を立てられないその頭の中身を残念に思うべきか。
こちらの日頃の行動をどこまで把握しているのか怪しい所ではあるが、知っていていたとしてもどうせ街に遊びに行っているだけだという認識なのだろう。
今日はエミリオの報告にあったさまざまな新薬を開発しているという研究色の強い薬屋の人間に会いに行く予定だったのだが。
「分かりました」
「ああ、期待しているぞ」
今日は仕方がないだろう。
どうせ相手側にはアポをとったわけではないのだから問題はない。
それに、いずれは多くの貴族と会ってから情報収集をしておきたいとも思っていたのだし、そういう機会はかなり少ない。そう思えば、渡りに船とも言える。
未だに気は乗らないが、礼儀作法やダンス等の授業は一通り行ってきたのだ。無難にこなせる程度の実力もある。
「何時頃に出立の予定ですか?」
「開催時刻は夕方六時となっておるが、本当に賢い者は一時間前には着いておる。その方が他の者達と情報交換を兼ねた話が出来るからだ。お前も覚えておけ」
「はい」
つまりは四時三十分ごろには出ると言う事なのだろう。
自分を賢く見せたいだけなのだろう。それも今更のような気もするが。
もう言う事もないと判断したのか、ライルは席を立って奥へと消えて行った。
その日は衣装の僅かなサイズ調整や小物の選択等、着て行く服装を選んだりしているだけで他には何もできないまま、あっという間に時間が過ぎた。
馬車に揺られておよそ二十分。
城へと到着して馬車を降りる。
近くで見る城は王都へ着いた時以上の畏敬の念を抱かせ、その荘厳を見せつける。
だがもはや見馴れているのか、そんな物など見向きもせずに、続々と着飾った人が城内へと向かう。
入口に立つ門番さえも貴族が着ていてもおかしくない程の礼装で着飾り、ある者は愛想よく、またある者は石像のように佇んだまま、来訪客を迎え入れる。
そんな人並みに流されるまま、イザークとライルも中へと入って行った。
内装もまた、外観に負けじと贅を凝らした調度品が置かれている。
それら一つ一つが、きっと自宅にある中でもほんの一握り、最高級の調度品でようやく肩を並べられるほど。
深紅の絨毯は足が沈み込むと錯覚するほどであり、侯爵家と比較してでさえ圧倒的な財力の違いを見せつけられる。
「ワシはワシで他の者らと話がある。探せば同年代の者もいよう。お前はワシに付いてくるなり、このホール内を勝手に歩き回るなり好きにしろ」
「分かりました」
言うだけ言って、ライルは十人程の貴族が雑談をしている場へと入って行った。
どうしたものかと周囲を見渡す。
あちこちで見られるのは、やはり成人した男性貴族のグループ。
そんな彼らとはまた離れた場所で、男と比べると数は少ないながらも婦女子のグループが。
そして最後に、大きく三つに分かれた子供たちのグループがある。
その中でも明らかに群を抜いて大きな派閥。
どうせライルのことだからあの最大派閥に関係しているのだろうが、すぐにはとび込まずに様子を見ていた方がいいだろう。
「田舎者が、分を弁えずに参加して……」
「農民たちと一緒に畑でも耕しておればよいものを。泥臭さが移ってしまう。まったく、勘弁してほしいものだ」
「ハハハ、まったくですな」
「ヒューゲル公爵が主宰された狩りは最高でしたな。逃げ回る奴隷の亜人を狩るというのはやみつきになる。とは言え、さすがに私程度では財力が足りずに破産してしまうから叶わないのが残念ですが」
「たしかに。私などは的が大きく、足の遅いドワーフしか仕留められませんでしたが、ヒューゲル公爵はあの素早い獣人を仕留められておいでだ。いつもながら、狩りの腕は見事の一言でしたな」
下級貴族を蔑む声や、亜人たちを狩りの獲物として楽しんでいる複数の貴族グループの会話を聞きながらも心を殺して情報収集に徹し、どこか特定のグループに入ることなくふらふらとうろつく。
さすがに少し離れた場所にいる女だけのグループには近づけないから彼女たちから情報は聞き取れない。
子供たちのグループへ所属するのはもう少し周辺から情報を集めた後でも構わないだろう。
ゆっくりと歩きまわり、それとなく今度は子供たちの会話を耳に入れる。
「僕のパパが五歳に買ってくれた奴隷が潰れちゃってね。自宅内を移動する際の馬として使っていたから早く新しい奴隷を買ってほしいんだよね」
「僕はこの前馬に乗れるようになったから、今度狩りに連れて行ってくれるって約束をしてもらったんだ。その日が楽しみだよ」
同年代の子供を知るための情報収集のためとはいえ、近づきすぎたのだろう。
不意に、子供たちの数人と目があった。
子供たちから送られる視線は、自分がどこの派閥なのかを確認しようとでもしているのだろうか。
このままなら、すぐにそれぞれのグループから誰かが来て、どこかの派閥に入れられるだろう。
少し後ならそれでも構わないが、今はもう少し自由に動きたい。
向こうが動く前にそれとなく他の貴族のグループを盾にし、すぐに元来た道を引き返した。