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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
2章 10歳、王都へ行く
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旅支度


「フリードさんのパーティーと亜人種の各リーダー、エミリオとリーズを除く孤児のリーダーは集まってくれ」


 しばらくこの街を留守にするため、その間の指示を出す為に拠点へと出向いた。

 エミリオ達がいないせいで、孤児を統率するリーダーが欠ける事になるのだ。サブリーダーは他にも四人いるし、自立性も充分にあるから目立った問題はないが、それでも緊急事態が起こった場合に備えて指揮系統は整備しておくべきだろう。


「最初に結論から言っておくが、俺はしばらくこの街を離れる事になる」


 それに関しては、エミリオ達を通して伝わっていたのだろう。特に驚きもなく受け入れられた。


「その際の指揮権だが、フリードさん。ここにいる者達全員のリーダーを務めてほしいのですが、大丈夫ですか?」

「なっ、俺がか!?」

「ええ、とはいえ、特別何かをする必要はありません。万が一にでも緊急事態が起こった場合のみ、リーダーとして対処してほしいのです。ここにいる誰もが経験不足、ここで経験を積ませるのも悪くはないですが、もしリーダーとして行動しなければならない時は最悪の事態が起こった時です。その時が来た場合は他の者では荷が重すぎます」

「…………」


 渋面を隠さないフリードだが、言葉ほどの重荷はない。


「とはいえ、これはあくまで保険。今回、私はそれほど長く王都に留まる事はないはずですし、親も私と一緒に行くのですから大きな問題はないはずです」


 実際、この領地は親がいない方が上手く回る。いなければ問題は起きないだろうし、問題が起こるとすれば、その原因はほぼ間違いなく思いつきで行動する親のせいだろうから。


 ただ、エミリオ達は恐らく二年は王都にいることになる。

 そうであれば、やはり皆をまとめるリーダー役が必要なのだ。

 普段何かをする必要はないし、エミリオ達がいないからと言って何か内輪で大きな問題が起こる事もないだろう。


「……分かった。引きうけよう」

「お願いします。まぁ問題は起きないでしょうから、気を抜いてもらっても構いませんよ。……それと、フリードさん以外で誰か一人王都への引率をお願いしたいのですが希望者はいますか?」

「へぇ……王都ね。参考までに聞くが何をすりゃいいんだ?」



 フリードが率いたダラスの牙の一人、その中で最も社交性があり、こういったことに目敏い、気さくな短剣使いのレイスが随分と乗り気な態度で質問する。

 いや、どうせこれは周囲への牽制と確認を兼ねているのだろうけど。



「簡単ですよ、道中で必要な野営等がキチンと出来ているかどうか、魔物との戦闘で問題がないかを見守っていただければいいだけです。ああ、それと……当然ながら必要経費として王都で多少の遊ぶお金くらいは出しますよ」

「よっしゃ決まりだな、俺に任せろ!」


 両手を叩いて俺に任せろと言わんばかりに勢いよく一歩前に出るが、そうはいかない。


「いやいやいや、ちょっと待てよレイス。指揮というならここはサブリーダーの俺がだな……」

「いえいえ、それには及びません。万が一の援護の場合、弓使いの私の方が一番有利なのではないですかな? つまりここは私が引き受け……」

「おいおい、お前ら、王都に行ったことがないのだろう? だったらやっぱり、ここは経験者の俺が……」


「「「経験者ならすっ込んでろ!!」」」


 四級になったら王都へ行くという目標があったらしいが、怪我などの理由でそれを断念していたせいでその想いが再燃したのだろう。他のメンバー達もこれだけは譲らないとばかりにアピールを始めた。


 周囲の孤児達がドン引きしたり、亜人達が呆れたような目で見ているが、それに気付く気配もない。


 欲望の街はこうも容易く人を変えるといういい例だった。


「なぁ、おい。お前ら落ち着けって」

「自分だけいけないからって僻むのはみっともないぞ!」

「そうだそうだ。お前はおとなしくここでリーダーやってりゃいいんだよ!」


「…………俺たちはチームワークが強みのはずだったんだがなぁ」


 そうぽつりと呟くフリードを気にする者など誰もいなかった。

哀愁漂う背中のは目もくれず、喧々諤々と議論は熱中し、しかし決着する雰囲気ではとうていない。


「それじゃイッチョやるか?」

「結局、冒険者らしく決めるしかねぇか」

「後で文句を言っても受け付けませんよ」

「僕はいつでもいいですよ」

「隙ありィ!」


 その言葉を合図に、容赦なくレイスが真っ先に殴りかかる。

 標的は弓使いの細長い体躯をした彼。

 そこには仲間だからこその遠慮や、四人いることでの駆け引きなど存在しない。自身で挑発しておきながらさすがにその電光石火は想定していなかったようで、あっさりと顎先に攻撃をくらい、ダウンする。


「これで一人脱落、っと」

「おまっ!」

「クソッ、油断した!」


 それから半歩遅れて、残りの二人もようやく反応する。

 その二人の標的は当然ながら真っ先に動いたレイス……ではなく、レイスを狙ったと見せかけてレイスを狙ったもう一人の隙を突く。が、視線が交錯したことで考えが同じだと言う事を悟り、反射的に後ろへ跳んで距離をとる。


「おいおい、お前、まさか今俺を狙ったとか?」

「冗談はよせよ。むしろそういうお前こそ俺を狙ったか?」

「いやいやいや、お二人さんはお互いを狙ってたね。ということで、ここは勝ち抜き戦よろしく、先に二人で潰し合ってくれ」


「「お前は黙ってろ!!」」


 そのまま三人共、漁夫の利を警戒して動くに動けない膠着状態が続く。

 周囲にはいつの間にやら観戦者が集い、ささやかな小遣いを賭けている者まで出ている。

 真っ先に動いた者が不利になるのは、ここにいる誰もが感じていた。

 かと言って、このまま膠着状態が続くのも良くないだろう。


「あと五分以内に勝負を決められなければ、独断と偏見で決めさせてもらいますね」


 ここで仕方なしに発せられた、イザークの鶴の一声。

 自分が選ばれる保証が何もないから、三人共が一気に勝負をかけた。

 その結果、勝負は僅か二分で決着した。

 結局、最初と最後以外にはほとんど攻撃を仕掛けず、ダメージを受けないよう小狡く立ち回ったレイスの一人勝ちだった。


「っしゃ! これで王都のネーチャンと楽しく遊べるぜ!!」


 もし三人で決着がつかなければ、レイスを選ぶつもりだったからちょうど良かったが。

 初対面の相手にも物怖じせず、いつの間にか懐に入り込む技術は見習わせたいものがあったからだ。


「それじゃレイスさんはさっそく準備してエミリオ達の引率をお願いします」

「おうよ、任せろ! それじゃお前達、悪いな。お土産くらいは買ってきてやっからよ~」


 まったく悪いと思っている風には聞こえない。それどころか嬉しくて仕方がないと言う風に、走り去っていった。








「シエラ」

「……あ」


 会計簿と睨めっこしているシエラに、後ろからイザークが声をかける。

 その声に反応し、はにかみながら席を立ってイザークの傍へと駆け寄る。

 こうして、シエラに会う度に頭を撫でるのも恒例になった。

 その度に白い肌を真っ赤に染め、俯きつつ、恥ずかしそうにしながらも和んだ表情をするからこっちまで癒されてくる。

 とはいえ、以前そろそろ年齢的にやめてみないかと言ってみたが、その時に猛反発されたので、二度目が中々言いだせないでいるが。



 思えば、シエラもこの五年で大きく変わった。

 ここに連れてきた始めの方はまだまだ遠慮があったし周囲の孤児達ともギスギスした空気だったが、それも一年もしない内に打ち解けていった。


 内向的な性格はそう変ってないが、あんな風に柔らかく笑えるようになったのも他の孤児達と仲良くなれたからだ。

 そのおかげで会えない日があっても耐えられるようになったようで、罪悪感の軽減に一役買ってくれた。


 シエラには仕入先との交渉こそ無理だが、会計管理を始めとするこの拠点の運営を一手に任せている。

 始めは敢えて少なめに見積もった金額でやりくりさせたが、何度か月日を重ねたことで何が無駄かを把握し、今では堅実にこの拠点を運営していくだけの能力は身についていた。

 たまに普段と違う状況を作ったりしてみるのだが、それらもキチンとこなすので安心してここの運営を任せられる。

 シエラはまだ分からないだろう。ただ、安定して一つの集団を運営していくことの難しさとその重要性を。


 目立つ必要などない。

 特別な事など必要ない。

 だと言うのに、それが中々上手くいかない。

 

 簡単なようで様々な不確定要素が埋まっている運営を堅実にこなしてくれる存在がどれだけありがたいかを。


 だからこそ、長期的にここを留守にしても安心できるのだ。



「もう聞いていると思うけど、俺とエミリオ達十人はしばらく王都へ行くことになる。たぶん俺は数ヶ月くらいで帰ってこれると思うけど、エミリオ達は最長で二年は帰ってこれないからそのつもりでいてほしい」

「…………あの……」

「大丈夫だよ。俺は貴族だから、質はともかくそれなりの人数が護衛につくんだ。お土産、買って帰るから楽しみにしててくれ」



 安心させるように、ゆっくりとシエラの頭を撫でる。

 首から下げられたチェーンには、今もまだあの日渡した指輪が覗く。

 これがある限りは必ず帰ってくるという、気休めでしかないかもしれないけど大切な約束の証。


「…………でしたら、色んなお話を聞かせてください」


 シエラは人一倍、色々な話を聞きたがる。

 なんでもない外の風景から荒唐無稽な童話の話まで、本当に何でも。


 それは、持ち前の謙虚さもあるが、簡単には外に出られないシエラがきっと何よりも欲していることだろう。

 体のことを考慮しても、多少の時間なら出歩いても問題はないはずなのだ。それでも、呪いという迷信が邪魔をする。


「いつか必ず、シエラが何の遠慮もなく外を出歩ける日が来ることを約束するよ」

「……はい。お待ちしてます」


 これからしばらく会えないこともあって、今日はいつもより少し長い時間頭を撫で続けた。




次回からようやく王都編に入ります。

とはいえまだまだ修行段階のため、一部稼働でさえ次章からになりますが。。。

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