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転生

無謀ながら、スキルアップ用に戦記ものを。。。

投稿する今からすでに気が重いですが^^;

今日は一話だけですが、書き貯めてる分を明日か明後日くらいにまとめて投稿します。

よろしければ感想や評価お待ちしてます。

「あぁ……」


 意味もなく呟いた声は掠れ、ざらついた音を鼓膜に届かせる。

 もうすぐ自分は死ぬのだと、直視せずとも、誰に言われるまでもなく分かった。

 本来であれば今も感じているはずの激痛は一切ない。そんなまともな感覚が残っていないのがせめてもの幸いか。まだ生きているのが不思議なほどの傷が、それでも体中から鈍い痛みを訴える。



 ノーブレーキで突っ込んできたトラックに対して言いたい事も特にない。こんなものか、それが正直な感想だ。

 ただ死ぬ理由がなかったから生きていただけで、これと言って生きる理由もなかったのだから。

 想像した以上にあっけなく、唐突で、理不尽だ。

 冷めた人間だと思ってはいたが、自分の死に対してまでこうだと、こんな状態でなければきっと笑っていただろう。



 心残りはない。

 特別に親しい友人はいなかった。数はそれなりにいたが、全てが上っ面の薄っぺらい関係でしかなかったし、それ以上を求めようとも思わなかった。

 ましてや恋人などいるはずもない。ただ、強いて言うなら、それなりにまっとうな愛情をそそいでくれた家族に対して別れと、感謝の言葉を告げられなかった事だろうか。

 


 本当の意味で、才能よりも努力が大切だと気付いた時にはもう遅かった。

幾つかの分野で才能は多少なりともあった。でも努力をしない間に置いていかれて、上には上がいたから今から始めても遅い。もっと昔から努力をしている人間には敵わないと諦め、眩しいものから目を逸らし続けた。



 読書、パソコン、ゲーム。そんな、日々をただ無為に過ごすだけの日常に埋もれていたのはいつからだっただろうか。

 胸の内に渦巻く後悔と言えば、もっと生きていたかったと言う事くらいか。

 ただ何もせず、怠惰に一日一日を過ごすだけの日常をどうして生きていると言えようか。

 燻ったまま、燃え上がることなく燃え尽きたような、実に平凡な人生だった。

 だから毎日を懸命に生きてみたかった。

 本気で打ち込めるものを見つけ、何かを残したかった。



 それこそが、自分が生きていたという存在証明に繋がったはずなのだから――




「――っ!」



 目が覚め、反射的に、訳分からなく叫び出したい衝動に駆られるがままに声を上げようとした。

 死んだと思ったが生きていたのだろう。

 腹筋の要領で体を起こそうとしたし、手足を動かそうともした。

 すぐ近くで赤ん坊がぐずるような声が聞こえたが、それは水中にいた時のようにくぐもって聞こえる。

 大人と同じ病室に赤ん坊とかおかしいだろ、とも思ったが、そんなことよりも自分の状態の把握が先だ。



 だが視界はぼやけていてロクに物も見えない。事故直後はそれなりに見えていたのだが、目もやられたのか。

 あれほどの怪我だったのだ。もしかしたら手足もどこかに固定されているのかもしれない。

 誰かいないのか。そう声をあげようとしても、ぐずるような赤ん坊の声が大きくなるばかりだ。

 何も分からない焦りから来るイラつきを感じながらも、事故の後で疲れが残っていたのか、何も分からないままにあっさりと意識は暗闇に沈んだ。





「イザーク様、おしめの時間ですよ~」



 そう言って、見馴れないメイド服に身を包んだ女性が、華奢な腕にも関わらずに軽く体を持ち上げる。

 数か月も経てば、色々と気付くことがある。

 少しだけど、何とか見えるようになった目。

 一向に自由にならない体。

 叫ぼうとする度に聞こえる、赤ん坊のぐずる声。

 何より、見た目三十歳近いメイドさんに抱きあげられた時に確信した。



転生だろう。



 何せ二十過ぎまで生きていた記憶がありながら、どう考えても今の自分は赤ん坊なのだから。

 転生の事を扱った小説等を読んだ事くらいあるし、夢想もしたが、当然ながら転生なんて概念は信じていなかった。だが、現状がそれ以外に当てはまらないのだから受け入れる他はないだろう。

 赤ちゃんプレイに興じる趣味なんて持ち合わせちゃいないし、まともに動かない体では暇を持て余してどうしようもないけど、悪態ではなく感謝の言葉を述べよう。



 チャンスが巡って来たのだ。

 神なんて信じていなかったけど、こんなことがあった今なら少しだけは信じていいのかもしれない。まぁ直接出会わない限り心からいると信じられるほど信心深くはないけれど。

 だからそんなわけで、とりあえずは神様にでも礼を言わせてもらおう。

 どんな世界かは分からないけど、何らかの分野で名を残してみせる。

 人生の全てを捧げるほどの熱意と覚悟を決めよう。

 それが俺の人生だったのだと言えるほどの何かを成し遂げよう。

 仮に多少才能がなくてもスタートが違うのだ。それだけで他人よりもかなり有利な場所に立てているのだから才能の有無に関する高望みはすまい。




 この身は未だに何も出来ない赤ん坊だけれども。

 名前も知らない誰か、届くはずのない地球にいる人達、そして過去の俺。見てろ。必ず結果をだしてやる。

 胸に秘めた想いを新たに、今はただ、力を蓄えるかのように眠りについた。



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