番外編 不良騎士とメイド
一時間前にも投稿してます。
見ていない方はそちらからどうぞ。
勢いだけで書いてしまったら、思いのほかクレイのキャラががが・・・
「クレイ、今日も外に出るから留守番頼む」
「りょーかいです」
返事は聞こえたのだろうか、最近手に入れた奴隷と裏門からあっという間に駆けていったせいで分からない。
最近になって、年相応の無邪気な顔を見せるようになった。それと同時に、今まで以上に深みのある、どこか凄絶な雰囲気を滲ませることもあったが。
それが街に出た影響のせいか、それともあの奴隷のせいか。
ただ、やはり同年代の友達は多い方がいいだろう。だとすれば、自分がいれば周囲は遠慮してしまうし、あの年齢では破格の強さを誇るのだから、心配する必要はそれほどない。
それに、不審に思われないよう保険も兼ねて自分に頼んでいるのだろうが、きっと無駄だろう。
ライル様ならどうせ気付かないだろうから。
何せ子育てには興味がないのだろうし、どうせ自分に忠実な跡継ぎを作れれば問題はないのだ。
基本的な教育は他の者に任せ、自分自身は幾つか貴族らしい思想の教育をするだけで、あとは女の尻でも追いかけているのだろうから。
その点では役者が違うのだろうな。
ライル様に染められる前に、既に何か一本の芯が通った強さを見せつけている。
どうせ親の前ではしおらしく従っているのだろうが、ライル様如きに御せるものではない。
思い返してみればみるだけ、不思議な少年だった。
ふつうあの年頃の貴族の息子など、際限知らずのわがままで傲慢。君臨すること、そして他者をいたぶる快楽を覚えた直後だから、歯止めも効かない。ある意味一番面倒な時期のはずだ。もっとも、貴族というものはどの年代も面倒この上ないのだが。
しかしそれにしても、イザーク様に気に入られてよかった。
何せ名目がある以上、裏庭でさぼり放題。
裏庭に差し込む麗らかな日差しの中で寝っ転がり、自由を謳歌する。
そう、これは惰眠ではなく、直々に与えられた重要な任務。
これで給料がもらえるのだからホント最高。
「またサボりですか?」
なんてヘレナの声が頭上から聞こえてきたが、これも最近のお決まりだった。
今日こそは勝ってみせると密かに心に決め、一歩も動かないとばかりに目も瞑ったまま。
「サボりなんて恐れ多い。坊ちゃんの命令に従って、ただただ忠実なる騎士らしくしているだけですよ」
「それをサボりと言うんです。暇なら力仕事を手伝ってください」
「暇ならレディのお手伝いをしてもいいんだけどね。いや、ホント。勅命だから仕方なくここにいないといけないんだよ」
「いいから、行きますよ!」
「ちょっ、痛いからやめてくれ。分かった! 行くから!」
嘘は一切言っていないのだが、やはり勝てない。
わざわざしゃがんで、容赦なく耳を引っ張るのはやめてほしいものだ。これだとどうやっても眠れそうにない。
あのイザーク様でさえもどこかハイエルフの少女に振り回されている節があるようだし、男の完全無欠な理論が、女の勢いだけの感情に勝つための有効な戦術は何があるだろうかと思う。
「そういえば、奥様のご要望で先ほど厨房でクッキーを焼いたみたいなんですよね。ええ、偶然にも分量を間違ったみたいで多めに……」
細かい部分に目が回らない、と言うより回そうとしないせいで、使用人たちによる多少の好き勝手はもはや日常茶飯事だ。
「ですが、いち早く仕事を終わらせたメイドによる早い者勝ちに――」
「よし、俺は何をすればいい? レディの困難を打ち払うのも騎士の務めだから、遠慮なく言ってくれ」
「口調、変わってません?」
「いやいやいや、ははっ、まさかそんな。それで、仕事は何なんだ?」
砂糖が使われたお菓子なんて高級品、めったに口にできるものじゃあない。
あれほどおいしい物が女性だけが食べるものなんてどう考えてもおかしいのだ。いや、きっと女性たちが自分たちだけで独占するためにそんな風潮を作り上げたに違いない。おのれ、策士め。
だがそんなのは知ったこっちゃない。そもそも、食べたことを知られなければ問題ないのだ。
「ではまず、洗濯物からお願いします。量が多いとかなり力を使うので」
「任せろ」
返事をしてすぐに駆け出すクレイ。
「ホント、男の人って意外と単純なんですね」
その背中を、どこか微笑ましいものを見るように笑顔を浮かべたヘレナがゆっくりと後を追っていった。