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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
1章 5歳、革命決意
18/112

指南

予想以上に短くなった(汗)

代わりと言ってはあれですが、一時間後にもう一話、勢いだけで書いたやつ投降します。

これで一章終わりです。二章以降もよろしくお願いします。


 案内に従い、軽い足取りで進む少年についていくが、胸中の不安は警戒心と共に膨れ上がっていく。

 見るからに治安の悪い貧民街なのだ。ひしめき合うあばら屋の隙間を縫うように狭い通路を抜ける。

 あちこちに物陰があり、距離も近い。奇襲するにはうってつけであり、人数次第では捌き切れない可能性も出てくる。


 だが此方のそんな警戒をよそに、少年はまるで通い慣れた道とでもいうかのように迷う素振りもなくこの道を抜けていく。

 しばらく歩いた先、そこに信じられない光景が広がっていた。



 何もないのだ。



 あれほど密集していたボロ屋も、その中に詰め込まれるように集まっていた人も。


 貧民街はただでさえ人が多い。

 まともに食べていけない人間などどこにでも溢れており、そんな人間達が寄り集まる場所は自然と密集する。だと言うのに、何もない。


 今まで幾つもの街を渡り歩いてきたし、当然ながら幾度となく貧民街にも足を運んだ経験ならある。

 だからこそ、こんな場所ではあり得ない光景だった。


 更にはその空き地の中央。

 そこに様々な亜人種の子供達が、各々武器を持って佇んでいる。

 敵意こそないが、その数だけで思わず圧倒されそうになるのを必死で隠す。


「よう、この人達がお前の言ってた教師か?」


 そんな時、背後から声が聞こえて反射的に振り向く。

 いつしか人間の、恐らくは孤児達が百人以上、気付かぬうちに現れていた。

 警戒を怠るなと自分自身が仲間達に言った傍からこれだ。


「ああ、期待しとけって言っただろ? 何せ四級だ。これ以上の教師は望めないと思うぞ」


 現実的にも精神的にも次々と退路を塞がれており、もはや逃げ場がなくなっていくのを感じる。



「さて、それでは彼らにご教授の方、お願いします」



 このガキめ。


 口元に笑みを浮かべたままいけしゃあしゃあと抜かした少年に対して、心底そう思う。


 やられた。


 やはり得体のしれない子供が簡単に金貨を差し出した時点で、もっと警戒しておくべきだった。

 こんな場所にこれだけの規模の土地と人員の確保。

 単純すぎるがそれだけで彼らを養っていく財力と権力を有しており、もし裏切れば容赦しないと言う警告も兼ねているはずだ。

 今の自分達に出来る事は、せいぜい機嫌を損ねないようにしながら捨てられない事を願う事くらいか。


 結局の所、呑まれていたのだ。


 この年端も行かない子供に、そんなことにも気付かない程に。

 ああ、ここまで来るといっそ清々しい。ゴチャゴチャと考えていたが、そんな事もバカらしくなってしいまい、変な方向に吹っ切れてしまった。


 そう思うと、興味が湧いた。


「なあ、せめてお前の顔と名前くらい、教えちゃくれねえか?」


 正直、素直に従うとは思っていなかった。

 ただ何か一つでも有力な情報を得たいというのもあったし、それ以上にせめて顔だけは見ておきたいと言う興味があったのだ。

 だからあっさりとフードをとって自己紹介を始めた少年に対し、再び驚いてしまったのも無理はないはずだ。


「イザークです。これからよろしくお願いしますね」

「イザーク……? 聞かない名前だな」

「まぁ今まであまり家の外には出ませんでしたしね」


 これほどのことをやってのけるのだ。知らない筈がないと思っていたせいか、当てが外れた。

 しかし、あと数年もすれば女性達が放っておかないだろう端整な顔立ち、マントの下から覗く服装は清潔なもの。もしかしたら貴族の家系に連なる者かもしれない。

 名前こそ聞かないが、かなりいい所の子供である事だけは疑いようもない。


「一応言っておきますが、あなた方の報酬やこの子供たちを養う金は親や地位は関係なく、全て自分が稼いだものですよ」

「…………」


 背後で、仲間の誰かが呻くような声を上げる。

 普通に考えれば笑い飛ばしているが、この少年が言うと真実味を帯びてしまうから笑えない。


「それではさっそくお願いします。ああ、それと、当然この件に関しては完全に秘密です。そのつもりでお願いしますね?」

「ああ……」


 この状況でお願いとやらを断れる猛者が果たして一体どれだけいるか。

 もしいると言うのなら是非とも人生の師として仰いで見せるから、教えてほしいものだった。





「どの程度出来るか見てやる。先ずは……おい、そこのガキ。来い」


 先程雇い主の少年と親しげに話していた、恐らくは孤児達のリーダー格であろう少年に向けて声を掛ける。

 実際、まったくの素人なのか、それとも最低限は動けるのか。

 その辺りを把握しないと、教育も出来やしない。多少の八つ当たりをしてやろうという気持ちもなくはなかったが。



「なっ!?」



 準備も掛け声も何もない、突然の攻撃。

 振るわれたナイフを紙一重ながら余裕をもってかわし、その隙に自身も剣を抜く。

 こればかりは傭兵や孤児なら汚いも何もない、生きるための策の一つだからそれなりに警戒していた。

 故に奇襲であれそれなりの余裕をもって対処できたが、驚いたのはそこではない。

 ナイフを振る姿は間違いなく素人。

 だと言うのに、身体能力だけが釣り合わない。

 試しに剣を振るってみたが、大きく跳び退って間合いの外へと逃げる。

 実戦に慣れておらず、回避にも無駄が多い。現に、連撃を叩きこめばあっという間に追い詰めることが出来た。


 だが、瞬発力や判断力、身のこなしだけが異様に鋭い。

 あまりもチグハグな印象を抱かせられたが、もしもこれでこのまま訓練を積めば一体どれほどのものになるのか。


 ゾクッと、背筋を悪寒が走りぬける。


 この少年一人だけなら、それもあるだろう。才能があった、その一言で済む。

だが、気付かぬうちにどこからともなく現れた他の孤児達はどう説明する。いくら他の事に気をとられていたとはいえ、ああもあっさりと背後をとられた。

 まだ距離もあったし致命的ではなかったが、皆が同等の力を有しているとなると、このまま鍛え上げればもはや手に負えない化け物集団が出来るのではないか。


 イザークと名乗るあの少年が指揮官だとするなら、これ程の人数の子供たちを育て上げて一体何をするつもりなのか。


 深入りする事の怖さは知っている。


 どれだけ気になる事でも、世の中には知らない方がいい事なんて幾らでもある。


 無知では生きていけないが、かと言って好奇心に従っても駄目なのだ。


 適度な知識と知恵。それこそが、冒険者が長生きするコツだった。


 見馴れない特殊な訓練道具にも驚かされたが、それらは考えてみると合理性の塊だった。

 間違いなく、これもイザークと名乗る少年が開発したのだろう。

 何人かの様子をそれとなく窺ったが、イザークの事を好意的に見ている者ばかりだ。

 冷酷な人間ではそうはいかない。

 少なくとも、下手に敵対はしない方がいいだろう。それならば切り捨てられる可能性は低いだろうから。


 イザークに雇われたことが吉と出るか凶と出るか。どうか吉であってくれと、フリードは信じてもいない神に祈るより他はなかった。




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