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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
1章 5歳、革命決意
17/112

冒険者

13話「開かれた輪」投稿し忘れてました(汗)

申し訳ない。。。

一応そこそこ重要な部分もありますので、見て頂ければと(滝汗)

それとあれよあれよと言う間にまさかの日間1位。感無量です(驚)

調子良すぎて近いうちに死ぬのかと戦々恐々の日々ですが、これからもお付き合いいただければと思います。

 フリード達一行は危機に瀕していた。


 とは言えそれは、今すぐこの場でどうにかしないといけない、と言うわけではない。

 腕自慢のゴロツキ共が集まる酒場でその喧騒を背景に、普段こんな事に使うことのない頭を使っているだけであり、しかし使い過ぎたせいで今にも発狂しそうだ。

素直に思考を放棄し、机に突っ伏している仲間のレイスが羨ましい。



 どれだけ考えても打開策は見当たらず、かと言って無理をしようものなら間違いなく死ぬ事になるだろう。

 切っ掛けと言うべきものはほとんどない。強いているのなら、ギルドランクが四級にまで上昇したせいで調子に乗ってしまったと言う事なのだろう。


 もっとも、その考え方自体は無理もない。


 例外的な存在の六級を除けば上から二番目の位置にあり、五級でさえ一国に十組もいない。ましてこの街では他に三組しかいない最高位の四級に仲間入りしたのだから。


 それにいきなり四級クラスの敵と戦ったわけではない。ただいつも通り、何度も戦った事のある三級の魔物と戦い、その最中にメンバーの一人が負傷した。

 いつもより少し数も多かったが、充分に対処できるはずだった。

 だが四級に上ったことで、一欠片ほどの油断があったのだろう。


 メンバーが負傷したことで走る動揺。


 それらがもたらした被害は最悪に近いものだった。

 この戦いで一人が死亡。

 一人は片腕を失った。

 他の者も傷を負っていない者などおらず、自分とて例外なく傷を負った。

 その際に受けたのは浅い傷だったが、毒のせいで動きに支障をきたすようになったのだ。

 今ではほんの僅かな違和感でしかなく、まだ四級にふさわしいだけの実力があるのは自分でも分かっている。

 だが同時に、このまま闘い続ければその僅かな違和感で死ぬ事になるだろう事も。



 仲間全員分の治療費は莫大で、蓄えていた資金の大半は底をついた。

 一ヶ月以内には仕事を請け負わないと食べていけなくなるが、メンバーの多くが碌に傷も完治していない今では仕事を受けても死ぬ事になるだろう。

 皆言わなくても分かっているからこそ、この場を取り巻く空気は重い。



「あなた方が、チーム『ダラスの牙』ですか?」



「あ……? チッ」


 考え事をしていたせいか、接近する気配にも気付かなかった。油断していた自分に、そんな事にさえ気が回らなくなった事を自覚させられて舌打ちしてしまう。

 思わず声の方を見ると、マントで体も顔も隠した、やけに背の低い子供がいた。

 その背の低さや見た目から、どうせ冷やかしだろう。

 いつもなら笑いながら相手をしてやるとこだが、生憎今はそんな気分にはなれなかった。


「坊主、悪戯なら今すぐ帰れ。俺達は気が立ってるんだ」


 ドスの利かせた声は、幾度となく山賊達を相手にして身に付けたものだ。

 どんな相手かは見えなくても、この背の低い少年ならすぐにびっくりして逃げ出すだろうとそうタカをくくり、だがフードから僅かに覗く口元だが笑みをたたえている事に気付く。


「……なんなんだ、テメェ」


 その不気味さに思わず呑まれそうになるのを堪え、動揺を隠して問う。


「あなたに仕事を依頼したい」

「……は? …………おい、お前の目は腐ってんのか? 俺達は今すぐに仕事ができる状態じゃねぇンだよ。悪いが、他を当たりな」


 こんな状態で仕事などできるはずもない。

 全員がどこかに包帯を巻き、特に傷が深かった者からはまだ塞がっていない傷口から零れ出た血が渇いているのが見て取れる。それは誰が言わなくても一目で分かることであり、自分たちの愚かさを常に提示し続ける。


「いえ、ギルドに伺ってから、あなた達の事を聞きました。傭兵としては異常なほどに信用を大切にする、まるである種一流の商人のような人間だと」


「チッ」


 その一言で、苦い記憶を思い出す。

 駆けだしの頃に信用を損なってから、苦労した経験が忘れられなかったのだ。

 仕事がなく、誰からも相手にされない日々を過ごし、それでもここまで這い上がって来た。もっとも、その進撃もここで終わりなのだが。


「ですから、あなた方に仕事を頼みたい」

「だから――」

「教師役でも?」


 続く言葉は遮られた。


「私があなた方に依頼したいのは、子供に対する武器の扱い方から始まる戦闘技能の指導です」

「……それはお前のか?」

「いえ、それは違います」


 言っておいて、自分でも違うだろうなとそう思う。

 目の前に佇む少年の度胸も、立つ姿勢も、何も知らない子供のそれではなかった。

 現状を考慮すれば今すぐにでも飛び付きたい依頼だが、怪しさもまた半端ない。

 何より都合が良すぎる。

 先程、この少年が商人のような信頼などと言っていたが、それは相手もまた同じように信頼できる相手ばかりを選んできたからだ。

 命を懸けるに値する人間ばかりを選び、仕事内容を吟味した上で任務を請け負ってきたのだから、それは当然の結果でしかなかった。


 ではこの少年はどうか。


 ギルドから話は聞いてきたようだが、ギルドを通した正式な依頼でもなく、見知った相手の紹介でさえない。

 変わった少年ではあるが、それが逆に警戒させる理由でもある。


「残念だが――」


 惜しくはあるが、やはり断ろう。

 そう思った時、コトリと、硬質な何かが机の上に置かれた音。

 当然ながら子供特有の柔らかい手が置かれたからではなく、その手の中に握られた何かが置かれた音。

 その手が下がった時、今までなかった黄金色のコインが一枚置かれていた。


「っ!」


 少年とのやりとりを見守っていたメンバーの誰もが息を呑んだ。

 これから先の、先程まで全員が抱いていた不安が、この金貨一枚で全て解決するだろう。

 下そうとした苦渋の決断は是非の狭間にて再び、容易く揺れ動く。


 依頼そのものがどの程度危険なのか。傭兵をしている者たちなら、常にそのリスクについて考えなければならない。

 依頼自体に危険はなさそうだし、当然ながら、契約内容が違っていれば途中で放棄しても問題はない。だが言い換えれば、その範囲内であれば身勝手にやめる事も出来ないということだ。

 命の危険がない教育は自然と相場も低めになる。だと言うのに、これほどの大金の意図はなんだ。


 そして何より、この得体の知れない少年は何を考えている。


 言葉の裏に秘められた意図はなんだ。


 手負いとはいえ、これでも四級に上り詰めた身。

 慢心でも何でもなく、客観的事実として自分達に匹敵する相手は数少ない。

 まして、一から教えなければならない子供たちの相手と言う事は、強い人間はいないと言う事のはず。


 勿論、全ては少年の言い分を信じるのなら、だが。


 ここで断れば、こんなおいしい話はもう転がっては来ないだろう。

 恨みは少なからず買っているだろうが、殺されるほど恨みを買った覚えもない。つまり、罠に掛ける必要性もないはずだ。


「ああ、これは勿論前金です」

「っ!!」


 皆の気持ちが傾いていくのを感じる。 


 死にかけたことなら何度もあった。


 でも、仲間の死は初めてなのだ。


 仮に今すぐ傷が完治した所で、きっと頭では余裕で対処できるつもりだが、体に刷り込まれた死への恐怖がこの身を竦ませる。実戦になれば、今までは鼻歌交じりに倒せていた相手でもかなり危険であることくらい分かっている。


 しばらくは戦えないだろう。


 これは時間を掛けたリハビリか、常軌を逸した精神力でもない限り解決しない問題なのだ。


 前者は金銭的に余裕がなく、後者は元よりそれほどのモノを持ち合わせていなかった。


 気付けば自分も、この依頼を受ける方へと傾いているのが分かった。


 だが、ここで素直に受けるわけにはいかない。


「……お前の目的はなんだ?」

「教育をしてほしいと言ったはずですが?」

「そうじゃない。それは過程だろう? その先に、お前は何を見据える?」


 それはとてもとても愉しそうに、目の前に立つ少年の唇が笑みの形を作る。


「あなた達を選んで、本当に良かった」


「なに?」


 思わず聞き返す。

 いや、もしかしたらはぐらかそうとしているのか。

 そうはいかないと聞き正そうとして、しかしその前に少年が二の句を継ぐ。


「生活に窮していても簡単に目の前の報酬に飛び付かない。単純に値段を釣り上げるためではなく、リスクが不明だからだ。あなた方はそれだけの冷静さを持ち合わせている」


 その言葉で、体格的には未だに幼い子供でありながら、正確に相手を見極めている事が分かった。しかもそれを此方へと告げることで牽制の意味合いも持たせている。


 リスクというものを良く知っているから、裏切らないのではなく裏切れない状況に持ち込まれ始めているという事を。


 フリードには、もはや目の前の少年が誰よりも年齢と経験を重ねた老賢者にしか見えなかった。


「だからこそ、私はあなた方に頼みたい。前金はそのまま差し上げます。報酬は月に金貨一枚。しばらくは暇を持て余しそうなあなた方が毎日半日程、子供たちをしごけばいいだけの簡単なお仕事です。どうですか?」


 用心深いと言う事を分かった上で尚、こいつは俺たちに頼みたいと言った。それは言い換えれば俺達を裏切る気がないと言う事だ。

 勘は、危険を告げてはいない。本当に裏切る可能性も低そうだ。ただ、目の前の少年に対する不気味さが、今までに感じた事のない危険とは別種のナニカを告げる。


 仲間の反応をそれとなく窺うが、皆が乗り気ではある。だが、決断を下すのはいつも自分の役目であり、それを分かっているから皆何も言わない。


 ここで断っても、冗談交じりで文句は言ってもそこで止まる程度には信頼されている自負がある。

 だが同時に、この依頼以外でそんな仲間を養う方法が思い浮かばないのも確かなのだ。


 相場よりも遥かに高い金額で関心を持たせ、それだけ此方の腕を買っていると暗に告げる。

 弱点を容赦なく抉りながら従うことへの利益を提示してくる、見事なまでの飴と鞭。


「……………………いいだろう。ただし、契約内容に違反があった場合や不穏な行動をとれば俺達も容赦しない」

「ええ、勿論です。それではさっそくついて来ていただけますか?」

「分かった。行くぞ、お前達」

「おう」

「ええ」

「ああ」

「よっしゃ」


 仲間達の顔に先程まで漂っていた悲壮感はもはやない。

 少なくとも警戒だけは怠るな。

 そんな意味を込めて、先導する少年に悟られないように仲間全員を強く睨んだ。


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