幕間
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変わったやつではある。
いかなる理由があれ孤児を手下にしようなんて物好きが、それも貴族にいるだなんて今でも信じられない。
だが、少なくとも雑に扱うつもりはないようだし、現に今もお腹いっぱいに食べる事が出来ている。
多くの孤児達はアイツについていく事を決めたようだ。
実際、孤児たちにとっては最低限の食事を与えてくれるだけで従う理由としては充分だった。
誰もが生きていくことに必死な中、盗みなどで害することはあっても、何かで利することなどない孤児に価値はない。
だが、あいつは違う。
これほどの食事は間違いなく、そこらの庶民よりも豪勢だろう。
きっとそれなりに裕福な商人レベルの食事内容のはずだ。
それが、二百人分も、今後毎日続く。
俺たちにはそれだけの価値があるのだと、言外にそう告げているのだ。
それは、まるで夢のようだと思った。
きっと皆、そう思っているだろう。
だが同時に、未だに心の奥底で恐れている。
夕食とも呼べない夕食を食べた後、皆で騒ぎながら空腹を紛らわすような毎日を。
酷い時には水さえロクに確保できなかった。
手段を選んでいられないから、罪も犯した。
それでも、今まで誰一人欠けることなく皆で生きてきたし、ギリギリだったとはいえ食べさせてきた自負がある。
だが、あいつと出会った日に全てが変わった。
一週間分の量、金銭的には数ヶ月分にも相当する豊富な食材を、皆が涙を流しながら食べていた。
お腹一杯食べるのも、これほどちゃんとした食材を口にするのもいつぶりだろうか。
ひもじい思いをして眺めているだけしかできなかった食材を見せた時の顔。
あの光景を忘れられない。
もう、今死んでもいい。
クソみたいな人生の中で出会えた家族が幸せな顔をしている。この光景が最期ならそれも悪くないと、本気でそう思った。
夢のような時間は一時じゃなかった。
出会ったあの日から、ずっと夢の時間は続いた。
今はまだ大したことないが、アイツの言う通り、今後厳しい訓練を積むことにもなるのだろう。だが、期待に応えてみせる。
皆で助けあって、アイツの求める人材になってみせよう。
それが、何も持たない孤児である自分に出来る唯一の恩返しなのだろうから。
気付けば、自分の椀にあったスープは空になっていた。
いつもなら、僅かでも余れば小さい子に優先的におかわりをさせていたが、未だに鍋には並々とスープが残っている。
良く分からないが食育とか言ってたんだ。腹いっぱい食べないといけないと言うのなら、いっぱい食べてやろうじゃないか。それで今度、アイツに足りなかったと文句でも言ってやるんだ。
エミリオは小さく笑いながら、お代わりの順番を待つ子供の列の最後尾に足を進めた。