ゴールデンウィーク特別企画
ちょっとした小話を。
書く予定はなかったのですが、感想を見てささっと書いちゃいました。
ということでかつてないほどに短めですが、ゴールデンウィークの暇つぶしにでもといったところです。
(注)本来、アーシェスは顔を合わせないよう避難しており、ここにはいません。革命とか関係なしに、読んでください。
あくまでもifストーリーですので、細かいツッコミはご容赦を。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889244190
再び宣伝です。
トレジャーハンターの映画とラノベを足して割った感じの内容となっております。
カクヨムでの投稿ですが、よろしければこちらの方もどうぞ。
「……あら?」
「……ほう?」
この地の領主の館。
その執務室の前で、出会うはずのない二人が出会った。
用もなければ見識すらない間柄だ。
ただ、お互いが一目見た瞬間、互いに互いが気に食わない奴だと直感した。
自然と二人は用事も忘れて足を止める。
「貴方は誰かしら?」
「お主は、何者じゃ?」
「…………フィオナよ。将来、この家に正妻として嫁ぐ予定だから今回はその下見に来たの」
「…………妾はアーシェスじゃ。あの男の正妻として、幼い頃よりずっと傍におる。毎晩の」
まず自己紹介を兼ねたけん制から始まった。
「……夢の中でしか会えないなんて、可哀想ね。私が結婚したら、一年に一度くらいは会う機会を作ってあげようかしら?」
「……ストーカー紛いの女が来ておると聞いておったが、なるほどお主の事か」
「「…………」」
そしてすぐ、そんな物ではけりがつかないと本格的な口撃へ変貌を遂げる。
どちらも満面の作り笑顔を浮かべ、世間話の一環とばかりの雰囲気を保ち、その実負けられない戦争がここに始まった。
「……へえ。ハイエルフとはいえ、亜人種が貴族の妻だなんて、妄想が激しいのね。不審者かしら? 警備体制を改めた方がいいわね。妄想と現実の区別がつかない女が寄りつかないように」
「フン、相手にされないからと自分から迫らねばならんのは大変じゃのぅ、ストーカーは。妾は毎夜毎夜あ奴の方からきおるのじゃから、愛が重くて敵わんのじゃ」
「あら、愛が足りないんじゃないかしら。お姉さんなら彼がどんなに甘えてきても受けとめるわよ。まあ尤も、そんな胸で包容力を語ろうなんて片腹痛いわね、不審者さん?」
「フン、無駄な脂肪の塊なぞ不要じゃ。心で結ばれておるのじゃから、体の差異なぞ誤差に過ぎぬ、ストーカー女」
「心で結ばれているだなんて、思い込みの激しい女に限ってそう言うのよね。お子様はいいわね。都合の良いことしか見えなくて。事実、私は彼のそういう視線を何度も感じたわ。だって、貴方にはないものね?」
「ぬ……」
「ふうん……」
一転して、無言でにらみ合う二人。
その間に思考を張り巡らせ、そして結論に至る。
互いに譲らない事からこのままでは埒が明かないと察し、次なる突破口を必要とした。
そして結論はすぐに下された。
「では――」
「なら――」
「イザークの奴に直接聞くしかあるまい」
「彼の口から直接言ってもらうしかないわね」
イザークの口から出た言葉なら、相手も敗北を悟るだろうと。
皮肉なことに、両者揃ってそう思った。
アーシェスは心からの確信を抱いて。
フィオナは自分の望む方向へとコントロール出来るという自負を以て。
そして揃って二人、90度ほど向きを変える。
なぜならここはイザークの執務室の前だ。
答えはすぐそこにあった。
部屋にいるはずのイザークがいればの話だが。
部屋の前であれだけ堂々と喧嘩を始めれば、嫌でも気付く。
故にイザークが選んだのは窓から抜け出す事。
どっちを選んでも碌な結果にならず、そしてどちらも選べないというのは論外。
心に従ってアーシェスを選んでも、余計にフィオナを燃え上がらせるだけだと分かっているからこそ。いや、フィオナのことだから、それを織り込んだ上で何か仕掛けてくるに違いないという確信があった。
そして、あの様子ではその場でアーシェスを挑発し、より一層面倒な事態になっただろう。
ほとぼりが冷めてから個別に説得した方がまだマシだ。
「三十六計なんとやら……」
早足に部屋から距離を取っていた時、背後からは怒鳴り声。
逃げ出したことを悟られた瞬間に部屋から死角になるルートを選び、更に足を速めたのは言うまでもなかった。