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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
4章 15歳、王国内乱編
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手紙

本日2話めです。




「まったく、ブラック企業など愚の骨頂だと思っていたんだがなあ……」



しみじみと呟くのは、単なる現実逃避でしかない。

非効率的で、他者を蔑ろにする社会に未来はないと知っている。現に、下策の部類だとこうしている今も思っている。



だけど今、あらゆる方面でとにかく人手が足りず、結果としてそうせざるを得なかった。その中でも特に顕著だったのが、文官だ。

武官は今、喫緊の仕事がない。



いざと言う時のために日頃いかに訓練を積むかが大切だ。だけど同時に、いざという時以外は治安維持が出来る程度の人数がいればいい。だから領主になった際、素行調査で引っ掛かった武官を鉱山奴隷にしようと、そう問題にはならなかった。



「いざ~くぅ~。もうダメ。アタシ死ぬ。死んじゃうぅぅ~……」



だが文官は違う。

日頃から常に一定数の仕事をこなし、更には繁忙期や突発的な事案が発生すれば仕事はより増える。

そして今がそうだった。

正直、リーズのようなバカすらこき使わなければならない時点で詰みだ。



学園に通っている間に文官を内偵させた所、実に半数以上が重度の贈賄や税として徴収された物の私物化といた行為が横行していた。

潔白な者を探すのが苦労し、見つかったとしても逆に裏がないかと疑ってしまうほどに少数派だったのだ。



だが、そこで見つかった潔白な者は信頼出来るから地位を上げ、かつ内偵を進めさせていた者達はそのままその部署の現場責任者にしたため、辛うじて現場も回っている。

碌に仕事をしなかった汚職官吏から財産を取り上げ、最低限の衣食住だけで過労死手前までこき使うのは良心が痛まない。だが、上に立つ者にもチェックは勿論、重要な仕事をある程度割り振らざるを得ないのだ。



それを仕方がないと言ってしまえばその一言で済ませられてしまう。



「おい、イザーク。さすがにコレ、なんとかなんねえか?」



普段泣き言を言わないエミリオですら、表情が死んでいた。

実際、こんな世界なら人権なんて言葉もない。

その気になれば一日中働かせた所で、表立った文句も出ないし言える立場でもない。

高い給金を支払えば、それほど不満も出ないだろう。



だが、どうしたって効率は落ちる。



「リーズ、お前は楽な仕事だから良いだろ」

「どこが!? 延々と同じ手紙を書かされる方の身にもなってよ!」


「例文を書いてやってるんだ。楽な方だろ。エミリオ、お前は良くやってくれてる。それが終わったら休んでくれ」

「酷い!?」


「ああ、悪いが、さすがに手伝えねえ」

「同感だ。そのくだらない手紙の相手をしていると、俺も精神がもたない」


「そのくだらない手紙の相手をしているの、アタシなんだよ!?」



リーズが叫ぶ。

だが、こんな仕事を任せられるのはリーズくらいしかいないのだ。



「というか、なんかイザークって女の敵だよね!」

「否定は出来ねえけど、さすがにこの手紙の山はゴメンだな」



エミリオはげんなりとした表情。

そして、それもまた同感だった。



「どいつもこいつも俺の財産目当ての連中ばかりだぞ? モテるってのも考えものだろ」



この手紙の山全部、急きょ当主となった若造の隙に付け入らんとする手紙だった。

中には国外からの手紙まであるのだから驚きだ。

その中でも多いのが、遠回しな娘の紹介だった。



数行で終わる内容を、十倍以上の分量へ変える文才を褒めるべきか、貶すべきか。



「でも何通か、割と本気っぽい子の手紙もあるよ? なんと直筆! ほらほら、これなんか同じクラスの子みたいだしさ。イザークってば、学園で女の子に手出ししていないよね?」

「馬鹿なこと言ってると仕事増やすぞ」

「あ、うそうそゴメン!」



リーズは一瞬で仕事に戻る。

ちらりと、同じクラスという事で過ぎった顔はあったが、盗み見た手紙の主は違った。



「なあ、それで次はいつ来るんだ?」



エミリオの問いは、文官専属で教育中の孤児がいつ仕上がるのかと言う問いだ。

おおよその計算をした上で文官専用に育てた人間を呼び寄せたのだが、実際にやってみると不慣れな仕事という点も相まって、人が全然足りていないのだ。



だから今、こうしてデスマーチをする羽目になっている。

日本と違い、教育を受けた者が少なすぎるせいで補充も簡単ではない。



「一ヶ月後の予定だ」



とはいえ、教育を終えた者が来れば楽になる、というのは早計だ。

無駄を省いた徹底的に合理的なやり方をしても、代々の浪費と放漫な経営でガタついた領地の改革をしなければならないために仕事はいくらでもある。



仕方なく後回しにした件の多さを思えば、やる気が一瞬で消え失せる。

改善し、安定させてもすぐにまた今まで手が回っていなかった事や新しい事業を始めなければならない。

それをするにはやはり人と金、そして時間がいる。

自分がいなくてもちゃんと回っているくらいが理想なのに。



「仕方がない、か」



だけどそれでどうにか出来ればこうして苦労はしていない。故に溜め息はバーゲンセールの如く安売りするし、配下からの悲鳴の声も理解している。



「リーズ。その手紙の中から、結婚以外の手紙。行く当てのない次男三男の売り込みに関しては俺に回せ。面接してやる」



将来の事を見越せば、あまり貴族に関わる者を雇いたくないというのが本音だが、金銭、恩、その他諸々で縛る他あるまい。

忠誠を尽くすかどうかは怪しい所だが、最低限の時間稼ぎに使わせてもらおう。





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