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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
4章 15歳、王国内乱編
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恋と愛2

一時間前にも一話投稿してます。





「アーシェス、ここの隣に部屋を用意させておいたから、今日からはそっちで寝てくれ」



自室の部屋の前までついて来たアーシェスに、隣の部屋を示してそちらで寝るように告げる。



「ふん、妾は建前とはいえ奴隷じゃぞ? 他の使用人達の目もある。同じ部屋で寝るのが当たり前じゃ」



だと言うのに、何をバカな事をと言わんばかりにアーシェスは言う。

ただ、その意見は尤もだったので、足りなかった言葉を補足する。



「いや、使用人のある程度はこちらの息が掛かっているし、主人は俺になったんだから他の者に関してもそこまでの警戒は必要ない」



近い者は暗殺対策も兼ねて、ある程度事情を理解している者で固めた。

新参者がと、古参の者からの風当たりは多少強くなるだろうが、それだけは諦めてもらう他ない。



「臆病なくらいに慎重でいようとしておるお主らしくない発言じゃの? それほど分かりやすい事をすれば、知らぬ者も勘繰るのではと思うのじゃが?」

「いや、だけどな……」



さすがに、今までのようにするのはマズイ。


お互い、子供じゃないのだ。三年前、分かれる直前でさえ割と意識していたと言うのに、この年齢になって意識するなと言う方が無理だろう。


いや、まあだからこそ、この年齢になってアーシェスと別の部屋というのは本来不自然に映るのだろうが、そこは信頼のおけない者は近づけなければ良いだけの話だ。


貴族ならば婚姻全盛期だ。


周囲にも卒業と同時に、なんてカップルは特別珍しくもなかった。


と言うかアーシェスがあんなことするから、もはやそればかりを意識してしまう。



「そんな事で疑われて露見させるのもいかぬ。いいから、お主の部屋で寝るぞ」

「いや、ちょっと……」



引き止める声には見向きもせず、まるでこの屋敷の主の如く堂々と寝室の扉を開ける。

その声音には、多少とはいえ怒りが含まれているような気がするのは気のせいだろうか。


男よりも男らしく、堂々とベッドに入り込むのはどうかと思う。幾ら幼いころからの仲とは言え、自分の容姿だとかを自覚してもう少しばかり警戒してくれても良いのに。


とは言え、このまま突っ立っていた所で何も進まない。なぜなら早く来いとばかりにアーシェスが睨みつけているのだから。



「……お、お邪魔します」



正当に受け継いだはずの我が家が、まるで他人の家だ。

と言うか俺が布団に入ってすぐにアーシェスの耳は先端まで赤く染まる。そんな背中向けるくらいなら、やっぱり素直に隣の部屋で寝れば良かったのにと思わなくもないが、今それを言うのはきっとよくない。

もしそれを言えば、八つ当たり気味に色々と小言を言われる光景が目に浮かぶ。


ほんの僅かに身じろいだだけで腕がアーシェスの背中に当たり、ビクッと体を硬直させたのが良く伝わる。



「……………………」

「……………………」



ただ何を話していいのか分からず、お互いがただただ無言。いや、寝るのだからこれで良いはずだ。何も間違ってなんかいない。話す事などあるわけがないのだからこのまま寝ようそうしよう。

そう決めて、どれほど経ったか。



「アーシェス……。もう、寝た……のか?」

「…………」



思わず、ぼそぼそと出た声に返事はない。

意識しないよう一度だけ寝返りを打ち、背を向けて横たわっているため、その顔も見れない。

ただ小声とはいえ、これだけ部屋が静かなのだから、もし起きているのなら確実に耳には届いていよう。



「はあ……」



そうやって溜め息を一つ。

さっさと寝てしまえれば何も考えずにあっという間に時間が過ぎるので助かるのだが、このまま眠れるわけがない。



意識せずに呼吸をすれば花のような香りを吸い込むために口呼吸を心掛け、意図的に嗅覚を遮断。その上で目を瞑って理性が蕩けそうになるのを必死で抑え込み続ける。


生殺しの状態と言うかいっそトドメを指してほしいとさえ思うような状況だった。


完全に目が冴えてしまうようなこんな状況で眠れるのなら、そいつは間違いなくゲイだろうと確信出来る。


南無阿弥陀仏だの色即是空だのと、突拍子もない事まで考え始めていい加減ヤバいと思いながらも何かを考え続けないとマズイ。


そのまま思いつく限りの歌や数式、果ては訳の分からない呪文まで脳内再生を繰り返し続け、どれほど経ったかも分からない時間ばかりが過ぎて行く。



「…………ようやく朝か」



いつの間にか窓から差し込んできた朝日に、重い溜め息をつく。下手な訓練よりよっぽど……いや、生涯で最も疲れたと言っても良い。

実際、それがもうなのか、ようやくなのかも分からない。しかし、とにかく待ち望んだ念願の朝日が顔を出した事だけは事実。

これほど朝日に感謝したくなったのはあの日のフィオナとの件以来二回目の事で、思わず朝日を拝み倒しそうになってしまう程。隣で眠るアーシェスを置いて、コソ泥のようにそそくさと部屋を後にする。



布団から出る際、僅かにアーシェスが動いたような気がして気が気じゃなかったが、起きてこなかったので助かった。








「アーシェス」

「なんじゃ」



彼女にしては珍しく、ぶっきらぼうな物言いに、思わずたじろぐ。



「あ、いや、えと……なんでもない」

「ふん、だったら呼ぶでない」

「あ、ああ……、悪かった」



一晩でこのありさまだった。

連日続けば間違いなく心身共に限界を迎えるから、やはり部屋を分けないかと言おうと呼び止めたが、不機嫌さを隠しもしないアーシェスを前にしてはそれすら出来なかった。

だって、言えば言ったで間違いなく機嫌が悪くなる事が分かり切っていたからだ。



「ねえ、なんかアーシェス、機嫌悪くない?」



こそこそと、まるでアーシェスに聞かれる事を恐れているかのようにリーズが話しかけてくる。



「……やっぱりそう見えるよな」



だがそれは俺としても同感だ。


下手に触れてしまえばいつ爆発するかも分からないからこそ、取り扱いは慎重でなければならない。



「イザーク、なんかしたの?」

「いや、何もしてない……と思う」



何か不機嫌になるような理由があるのかと考えて、しかしどうしても何も思い浮かばないのだ。

とは言え、やはり不機嫌そうなのだから歯切れが悪くなるのも仕方あるまい。



「うーん…………ん? ねえ、ホントに何もしてないの?」

「くどいぞ。何かやったら、さすがに俺でも分かる」

「え、ホントに何もやってないの!?」

「だからさっきからやってないって言ってるだろ!」



驚きの中に呆れが混ざっているように見えるのは気のせいだろうか。

リーズにさえ呆れられるようなつまらないミスはしていないはずなのに。



「あー……うん。そりゃアーシェスも怒るよ」

「…………は?」



まるで今のやりとりに答えがあり、リーズはそれが簡単に解ったと言うかのような言い草だ。

むしろちょっと気まずげで、この程度の事が分からない俺に対して何か明確に答えを言い難いと言っているかのようなほど。



「まさかとは思うけど、なにか分かったのか?」

「ふふん、百戦錬磨のリーズさんなら、このくらいお見通しだよ」



思わせぶり、というだけではあるまい。

いつものように見当外れの自信とは違う、何らかの確信がある自信満々の様子だ。

根拠も何もないくせに理不尽なくらいに当たる、女の勘でも発動したのか。



「……あのぽんこつリーズでも、腐っても女と言うわけか」

「なにおー! て言うかぽんこつもそうだけど、腐ってもって何!? アタシだってピチピチの19歳だよ!」



あのリーズに頭を使う問題の解決が出来るとは思ってもみなかったからこそ、思わず本音が零れ出た。



「……参考までに、エミリオは何か分かったか?」

「あれだけで分かるわけねえだろ」



あきれ気味に言うエミリオは、やはり自分と同意見。



「だよなあ……。うん、やっぱりリーズの気のせいか。ここにクレスタでもいれば意見でも聞いてみるんだが……」


「無視すんなー!」



なんてぎゃーぎゃー騒ぐリーズをこのまま無視しても良かったが、実際ずっと騒がれるのもアレだし、何より藁にもすがりたい気持ちなのだ。ダメ元で聞いてみるのも悪くはない。



「まあ溺れる者は藁をも掴むものだし、念の為リーズ、聞いといてやる」


「誰が藁っ!? て言うかそんな上から目線でほんとに教えてほしいと思ってる!? なんか聞く気が全く感じられないんだけど!」


「だってなあ……」


「まあなあ……」



エミリオと二人して、明確な言葉は避けつつも視線や言葉で意思の共有を図る。

だって、二人でさえ分からない問題を、あのリーズが果たして的を射た答えを出せるのか。そんな疑問が尽きないのだ。



と言うより十中八九、頓珍漢な答えしか出てこないだろう。



「ふ~んだ、今のイザークには教えられないよ。と言うかどの道アーシェスの立場もあるから、アタシからは言えないし」


「結局見栄を張らないで、分からないなら分からないって最初から言えば良いんだ。まあやっぱり藁は藁でしかないか。期待するだけ無駄だったようだな」


「もうあったまきた! イザークなんてアーシェスに怒られちゃえ!」


「う……」



せっかく僅かな時間とはいえ現実逃避出来ていたというのに、すぐ現実に追いつかれた。

流石は藁。縋った所で一瞬しかもたないと言うことか。

今晩の事を考えると頭が痛くなるが、もうこうなったら後はなるようになれしかないだろう。

――結局、何も考えないようにしようとして、しかしそう思ってしまっている時点であれこれ考えるという負の連鎖を断ち切ることなど出来ず、今日一日そのことばかりを考えて過ごした。





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