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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
4章 15歳、王国内乱編
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恋と愛






「ただいま」



家へ帰ったわけでもないのに、ついこんな言葉が零れてしまった。

ああ、だけど、血のつながった家族は家族と思えないせいで、親しい悪友にも似た者達がいっぱいいるこの空間こそが俺の帰るべき場所だと思うと、やはりこの言葉は間違ってないのかもしれない。

普段は隠れ里に住ませているから、ここに顔馴染みなんて数えるほどしかいないはずなのに。



現に、見知らぬ顔が多く見えるというのに、それ以上に見知った顔があった。

貧民街にある、その拠点には懐かしい顔ぶれが勢ぞろいしていた。



だけど一人一人の顔を見る余裕すらないほどに、ただただ自然とそこだけを見ていた。



「遅いのじゃ!」



そしてまっさきに気付いて声を上げたのは、やはり彼女だった。



「――――」



時が、止まる。


何か返そうとして、だけど言葉が出ない。


一際強く高鳴る鼓動だけが、全身に響いた。


ただただ、驚いた。


三年ぶりだからだろうか。


あの時でさえ上限に達していたと思っていた。少なくとも人では到底並べないと思えた程の美しさだったが、成長した姿はそれを更に上回っていた。


上回るだろうなと思いつつ、でもそれ以上なんて想像できなかったからこその衝撃。


雰囲気も姿形も大人になっているが、しかし僅かに残る幼さとでも言うべきものが、アンバランスでありながら絶妙な色を醸し出し、アーシェスの美しさをより際立たせている。



「……あ、ああ、いや、違う……。そ、その、こんな事が言いたかったわけじゃなくて……その……な、なにか言ったらどうじゃ……」



「いや……ああ、うん、まああれだ。その……綺麗になった」



「…………」



「…………」



だからだろうか、言い淀んだ末に出てきた言葉はあまりにもシンプルで、僅か一言だけ。

どう表現しようと本当の意味でアーシェスを表現しきれる言葉などないから、その言葉は陳腐なものに成り下がってしまうほどだ。

ただお互いその顔を直視できず、視線を逸らす。



「なんだ、この茶番は……」

「もう、あれが分からないからエミリオはダメなんだよ」

「ええ、ホントにそうね。これだからエミリオは……」

「……だめにゃ」



思わずエミリオの口から零れた、この状況に呆れた言葉に、しかし女性陣から猛反発が返ってくる。



「え、なにこれ俺がおかしいのか?」

「リーズも苦労するわね。なにかあったら相談に乗るわよ。その時には、また女子会でも開きましょう?」

「……まかせるにゃ」

「うん、ありがと」



「いや、ほんとなんで俺が悪者扱いされなきゃいけねえんだ」

「……はあ」

「なあおい、なんだよその溜め息は…………いや、やっぱいい……」



色々と言いたい事はあったが、口を開いた所で災いにしかならないと察したエミリオは憮然としつつも、横にいたジェナス達男衆を見習ってただ黙る。



「ふ、ふんっ。いつの間にそのような歯が浮くセリフが出るようになったのじゃ。まさかとは思うが、王都で他の女に手を出してはないのじゃろうな?」

「いや……その……」



この時に、なぜだかリヴィアとフィオナの顔が浮かんだせいで言い淀む。

そして、その隙を見逃してくれるほど甘い相手ではなかったようで。



「ほう、中々に面白いことになっておるようじゃな。妾の知らぬ場所に長い事おったのじゃ。色々と経験したじゃろうし、積もる話もあるじゃろう。それで、どういう事じゃ?」



今までの空気が霧散し、まるで一気に罪人にでもなって気分にさせられる。

法廷に立つ気分を、法を作る側になったこの世界で味わう事になるとは思いもよらなかった。



「いや、別に誰かを好きになったとか手を出したとかそういうのはないけどその……、半分だけ……っていうのも違うけど、なんと言うか友人として気に入った奴と、なぜだか変に気に入られてしまった人がいてだな……」



二人共、なぜか俺に気があるようだったし。



「ほう」



アーシェスの目が据わる。



「いっ、イタッ、ちょ、アーヘフ、ひはいひはい」



すっと伸びてきた手でむんずと頬を摘まみ、その状態のまま近くにあった無人の小屋の中へと連れ込まれる。



「これだから男は……」

「……ダメにゃ」

「イザークももっとはっきりしないと……」



女衆の呆れた声は、事態を良く分からないなりに犠牲になったイザークの無事を祈る男衆にしか届かなかった。







「痛い……」



ようやく抓っていた指を離されたが、鏡を見れば赤く腫れている事間違いなしだ。



「ふん、半分、と言うのが許せぬ。妾がおらぬ間に他の女に手を出すというのも気に入らぬ」

「いや、俺から手は出してないし、実際あの二人が美人であることは一応誰もが認めてる事でだな……」

「待つのじゃ、まだ半分は終わっておらぬ」



わりと痛かったのだが、それでは気が収まらないということか。


反対側の頬に伸びる手。すぐにそちら側にも痛みが走る事を覚悟し、思わず言い訳をした数瞬後。



「え、いや、今のも結構痛かったんだけど――――え?」



それは、まったく予想していなかった不意打ちの一撃。

あまりにも自然に近づいて来たから、そしてあまりにも予想外だったから、まるでどこか他人事めいた気持で、ただただ眺めることしかできなかった。

何が起こったのか、頭で理解していながら理解できない。目で追い、実際に見ていながら、何が起こったのか分からない。そんな矛盾めいた事が起こっていた。



「……こ、これが残りの半分じゃ。お、お主が残る半分を失くしてその気になれば、これ以上でも……その、か、構わぬ……ぞ?」

「……………………」



だから、アーシェスの言っている事が理解できているのに、少しも頭に入ってこない。

夢心地というのはこういう事なのだと、身をもって思い知る。



「気分が良い。お主はそうやって、妾の事だけを考えておればよいのじゃ」



碌な反応も返せていないから簡単に内心を悟られ、満足したとばかりに満面の笑みを浮かべられれば、そしてだけどどうしようもなく照れ臭いと頬を真っ赤に染めていなければ。同様にアーシェスのその内心を簡単に悟る事も出来なかっただろう。


何か分かるはずもないというのに、思わず唇を触って確かめる。

触れるだけの、しかし確かに触れたという感触が僅かに残っている。

ただ、目で見た光景が今でも信じられなくて、ついその唇に視線がいく。



「ああ、いや、なんだ……その……うん」



間を繋ぐためだけに紡がれた、意味を成さない、形にならない言葉。



「た、ただいま……」

「う、うむ……、おかえり、なのじゃ」



目が合わせられないのに、どうしても気になって見てしまうから、お互い目が合うのは必然で。

恥ずかしくて目も合わせられないのに、傍を離れるという選択肢は全く浮かばない。

気を抜いてしまえば思わずその唇に吸い寄せられてしまいそうで、それを必死の自制心で押しとどめる。



「あ、あんまり長いと変に勘繰られそうだから、そろそろ出るか!」

「う、うむ、そうじゃな! 不甲斐ないお主への説教だけじゃから、あまり長引くと可哀想だしの!」



そんな何とも言えない空気を無理やり振り払い、すぐにこの小屋を後にする。







ここを出てすぐ、何かあったのだろうという事は間違いなく仲間にも悟られたはずだが、からかわれたりはしなかった。



……ただ、誰も見ていないはずなのに、生温かい目とニヤニヤした笑みでみられただけで。






1,2時間後に続けて投稿予定です。

一応続きも書けてはいますが、またしばらく空くかも?しれません。。。

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