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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
1章 5歳、革命決意
10/112

幕間

「ふう」



 部屋いっぱいに聞こえるほどの大きなため息。

 これほど疲れたのはいつ振りだろうか。

 たった一時間にも満たないやりとりだけで、かなりの疲労が溜まっている。だが、疲れに比例するように強い充足感を覚えた。



 思えば大した元手のない行商人から始め、幾つかの幸運にも恵まれて今や店舗を構えるまでになった。商人としてはかなりの成功を収めたといえるだろうが、それがもたらした安定はいつしか楽な方向へと流されるだけの平穏な毎日に取って代わった。

 この国一番の商会を作ると息巻いた自分のことを、いつから忘れてしまっていたのだろうか。

 今の生活でも充分に満足していた。しかし、あれほどのものを見せられ、忘れ去っていた胸の内に秘めていた情熱が湧き上がらないようであればそれはもはや商人でさえないだろう。



「…………まるで悪魔との取引だな。だが、賭けるには悪くない」



 あれほどの発明品の数々を捨てるのは商人としてあまりに惜しい。

 すべてが、今まできっと誰もが考え付きもしなかった画期的なアイディアだ。

ましてそれを独占販売できるとなると、その利益はいかほどになるのか、莫大すぎて予測もつかない。



 そして話していて分かったが、懐の深さを見せながらも抑えるべき点を抑えてそこだけは譲らない。きっと他にも未発表の発明品を数多く隠しているだろうし、あの年齢にして駆け引きのポイントを心得ている。

 味方でいるうちは多少の失敗も大目に見るくらいには甘いのかもしれないが、もし敵対した時は、情け容赦の欠片もなく潰しにかかるだろう。



 あれほどの人間と敵対などすれば、その末路は悲惨なものになるのも目に見えている。そんな展開は死んでもごめんこうむりたいものだ。

 それに、あれほどの人間に認められたとあっては、その期待に応えたいという思いもある。いや、期待を上回れば、もしかすれば驚く様を見られるかもしれない。

あの人物から期待した以上だと言われれば、それは間違いなく偉業を成し遂げたと言っても良いのではないだろうか。



 そう思うと、言わせてみたいという衝動が湧きあがる。

 きっかけは確かにあの少年がもたらしたアイディアから始まるかもしれないが、それを形にし、売りさばくのは全てが自分の手腕なのだ。



 ああ、でも。やはりこんな風に人を誑かすあたり、まるで本当におとぎ話の悪魔のようではないかと思ってしまうのは仕方がないだろう。



 四十を過ぎて今更こんなことになるとは思わなかったが、ここまでくればやってやるしかないだろう。


「レナード! レナードはいるか!!」


「どうかされましたか、旦那様?」


 この館中に聞こえるであろう大声で叫んだ。しばらくして来たのは、理知的な顔立ちをしたどこか冷たそうな青年だ。


 もっとも、年相応に熱い心を秘めたまだまだ青い青年でもあるのだが。

今は亡き友人の息子であり、行商人時代に一から鍛え上げたほど長い付き合いでもあるため、この店の副店長も任せてある。


「しばらく店の一切をお前に任せる。何か非常時の場合のみ儂を頼れ」


「なっ!? それは今日からですか? 旦那様はこれから何を?」


「儂は儂でやることができた。この商会をこの国一番の……いや、大陸一番にしなければならんからこれから忙しくなる」


「…………は?」


 急過ぎる言葉の連続に、理解を超えたときは皆あんな顔をするのだろう。


 中堅程度の商会が語るには分不相応な目標であり、正気を疑われてもおかしくないのだから仕方がないが。

 普段冷静な男が見せる間抜けな顔は滅多に見れるものではなく、恐らく先ほどは自分も同じ顔をしていなければ声を出して笑っていただろう。


「ほら、呆けてないでとっとと動かんか」


 口元を緩めるくらいで留めて、あとは軽く尻を叩くくらいで済ませておいたが。

やることは多い。

 現状で資金にそれほど余裕があるわけではない。

 少なくとも複数の商品を同時に手掛けるにはまだ資金が足りないだろう。

 まず最初に取り掛かるべきは、あまり元手がかからない効率的な商売。

 新商品を出すタイミングなど、考え、やらなければならないことは山積みになっている。



 これから訪れるであろう自分自身と社会にもたらされる波乱を思い、胸の内に秘めた熱を感じずにはいられなかった。



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