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黒雪姫

作者: 音無

 昔々あるところに、とても美しいお姫様がいました。

この姫は大層色白だったので皆から白雪姫と呼ばれ、大切に育てられていました。

しかし何時の時代も甘やかし過ぎは良くないもの、姫は段々非行に走り十六の誕生日を迎える頃には髪は金、肌は真っ黒に焼いた姿―そう、今は懐かしきヤマンバスタイルになっていました。

白雪姫ならぬ黒雪姫は働きもせず学校にも行かないという、いわゆるニートの様な生活を送っていたので、とうとう母親であるお后様に城を出ていけと言われてしまいました。

「黒ゆ…じゃない、白雪や。お前が姫と呼ばれるに相応しい人間になったら戻っておいで。」

娘の名前をいい間違えかけつつお后は優しく諭します。

しかし、白雪は言う事を聞こうとしません。

「マジありえないんですけどぉ~。っていうか親には扶養義務トカあるしぃ~」

「白雪や、一国の姫たるもの言葉遣いを…」

「っていうかー、お母様の喋り方が堅苦しすぎるんだしぃ~」

「白雪、いい加減にしないと…」

「ぶっちゃけ城を出るとかめんどいしぃ~」

何度言っても直らない白雪のギャル語に、とうとうお后はキレてしまいました。仏の顔は三度までですが、お后の顔は二度までだったようです。

「城出て修行して来いっつってんだよ!分かったらさっさと行きな!」

流石は白雪の母。彼女もきっと若い頃は言葉遣いで苦労したのでしょう。一国の后とは思えない喋り方です。

その気迫に押されて白雪は城を後にしました。


 「っていうかぁ、いきなり出てけトカお母様マジ最悪なんですけど~」

城を出た白雪はブツブツ文句を言いつつ歩いて行きます。もちろんその途中、じろじろと眺めてくる愚民共にガンをとばしながら。

「・・・あれ?ぶっちゃけ、ココどこ?」

気が付くと白雪は見知らぬ森の中にいました。

そろそろ日も暮れそうですが、怖いもの知らずの白雪はずんずん森の奥へと進んでいってしまいます。

「すべての道はローマに通じるって言うしぃ~、歩いてればそのうちローマ辺りに着くっしょ」

若干意味は違いますが白雪は気にかけません。典型的な方向音痴らしく分かりもしない道を自信満々で進んで行きました。


 その頃お城では、出ていけと言ったものの不安で堪らないお后が一人悩んでいました。

「あぁ、白雪の事が心配だわ。民にガン飛ばして怖がられていたらどうしましょう。もしくは何処に行こうとも考えずにぶらぶら歩いていて森に迷い込むとか…。いえ、いくらあの子でもまさかそんな事は…」

残念ながらお后の心配は全て的中しています。

「いいわ。いっそ白雪の様子を見に行きましょう。そうすればこの不安も消えるもの。」

そう決心したお后が人々に尋ねながら森に入ると、そこには案の定がっつり迷子になっている白雪がいました。

(…ったくあの子は、見事に私の嫌な予感を再現しているじゃない!さっきの村人も凄い眼で睨まれたと言っていたし・・・違う!そこは右よ。右の道を行けば小人達の家に…)

しかしお后のテレパシーも虚しく、白雪は左の道へ進んでしまいました。

(こうなったら日が暮れる前に何とかして小人達の家に行かせなくては!)

辺りは既に暗く、流石の白雪も不安になってきました。

そこで携帯を取りだしましたが、森の中はもちろん圏外です。

「電波無いとかマジありえないんですケド、マジど田舎っていうかぁ~。城に帰ったら国内の通信網の発展が必要?みたいなぁ」

腐っても一国の姫、白雪は変なところで真面目です。

 「電波無いとか電話できないしナビもつかえな…うぎゃ!」

およそ姫らしからぬ叫び声をあげて転んだ白雪が足元を見ると

「パソコン…ってコトは近くに人がいるってコトじゃん!」

道端にパソコンが落ちているなんて明らかに怪しい状況ですが、そんな事全く気にしていない白雪は意気揚々と歩き出しました。

(よし!第一ポイント通過。次は第二ポイントのラジカセに気付きなさい!)

お后の思惑通り白雪はずんずん小人の家に近付いていきます。

しかしあと一歩で到着、という時になって白雪は立ち止まってしまいました。

(一体何なの?小人の家は目と鼻の先だというのに)

「ていうかなんかおかしいんですけどぉ、今の時期に林檎とかありえないしぃ~」

白雪の視線の先には彼女の大好物の林檎、しかし林檎は普通こんな時期には収穫されないもの。一級品のフルーツしか口に入れたことのなかった白雪は大好物の旬には詳しかったようです。

(世の中には温室というものがあるのよ!そんな事気にせず先に進みなさい!)

温室栽培の林檎が森に落ちている事自体既におかしいですが、お后は念を送り続けます。そのお陰か白雪は、まぁいいやコレもうまいし、と言って林檎をかじりながら再び歩き出し、ようやく小人達の家を見付けました。

「っていうか民家発見~みたいな。あたしってば天才~」

お后の努力を知らない白雪は、自画自賛をしつつ家の中に入って行きました。

「私の出番もここでおしまいだわ。城に帰って仕事をしなければ。」

本日の功労者であるお后は疲労困憊でもと来た道をたどり城に帰って行きました。


 一方家の中へと入った白雪は、何の遠慮も無く小人達の夕食を食べていました。

「ていうかこれめっちゃ美味いんですけどぉ。こっちのも食っちゃお。」

一人分の食事では足りず隣の席からも皿を取ろうとした時、仕事を終えた小人達が帰ってきました。

彼等は荒らされている食卓よりも何より、侵入者の色の黒さに驚きました。

「なんだあの真っ黒な肌は。」

「異国の人間ではないのか?」

「っていうかそこのちっちゃいおっさん達この家の人?メシちょー美味かったんですケド。チョベリグみたいな?」

白雪としてはお礼を言ったつもりだったのでしょうが、残念ながらギャル語は老人である小人達には通じなかったようです。

「矢張異国の方のようだ。何を喋っているのか全く分からぬ。」

「ていうかぁ、あたしこの国の姫なんですけどぉ」

「帰る所が無いのかもしれん。ここに置いてやったらどうだね」

小人達は言葉の通じない白雪に身振り手振りを交えつつ、ここで暮らしても良いという事を伝えました。その親切も虚しく小人達の言葉を理解している白雪からには、その様子はじたばたと暴れる変なおっさんとしか映りません。

しかし何はともあれ白雪は、小人達の家で生活する事になりました。


 一方その頃城に着いたお后は、小人達の家にいる白雪が心配で毎日気が気ではありません。

「小人達に失礼な事をして追い出されてたらどうしましょう。いえ、彼等は優しいからそんな事はない筈。きっと白雪の事を異国の人間か何かだと思って家に置いてくれているわ。」

―その通り。

またもやお后は野生の勘を発揮したようです。

妙にリアルに想像できる白雪の無礼の数々に不安になってきたお后は、小人達に手紙を書く事にしました。


『拝啓 秋風の涼しい今日この頃ですが如何お過ごしですか。

 さて、先日皆様の家に訪れた色の黒い娘の事なのですが、実はあの子は我が娘でありこの国の王女白雪なのです。

一国の姫らしからぬ口と態度の悪さを矯正するために城を追い出した次第なのですが、いかんせん我々が甘やかしすぎたため、普通の娘がとしての常識すら知らない娘へと成長してしまいました。

 就きましては森の賢人と名高い皆様のお力で我が娘を改心させ、姫と呼ばれるにふさわしい人間に更正させていただきたい所存であります。

皆様の成功を陰ながらお祈り申し上げます

     后より   』

これまで手紙などすべて家臣らに任せきりで書いた事も無いお后ですが、さすがにわが子の恥を吹聴するような真似はできなかったので、四苦八苦しながら「正しい手紙の書き方‐基本編‐」を参考になんとか書き上げ小人達に届けました。


 さて、驚いたのは手紙を読んだ小人達。

まさかあんなに真っ黒な娘の名前が白雪だなんて予想外の出来事です。

「まったく今まで生きてきた中で最大の驚きだ。一体全体なんでまた白雪なんて名を付けたのだろう。」

白雪の過去の姿を知らない小人達は、首を捻りました。

「そんな事より、どうやってあの娘を姫らしくするかが問題だ。」

「姫らしいと言えば女らしい、女らしいと言えば矢張り料理ができることじゃないか?」

大した偏見ですが、小人達は考え方が古いのだから仕様がありません。彼等はひそひそと相談して、とりあえず白雪に料理を任せてみる事にしました。

 最初こそトーストすら作れなかった白雪でしたが、元々器用だったからでしょう、一ヶ月もするとビーフストロガノフを作れる程に腕が上がりました。

それに日の当らない森の中で過ごし日焼けサロンにも美容院にも行かなくなったので、しばらくすると肌は白く戻り、髪も黒く生え変わり、すっかり白雪姫の名ににふさわしい外見になっていました。

さて、残すはあの生意気な性格と喋り方さえ直せば完璧ですが、人の性格というのは簡単には変わらないもの。

『黒雪を白雪に改造計画(仮)』は最後の仕上げが中々巧くいきませんでした。


 そんなある日、白雪が床に落ちていた空き缶を踏んで転び、机に頭をぶつけてしまいました。すると

「あいやー頭痛いアルね」

突然白雪の喋り方が変わりました。

(そうか、頭を強くぶつけると性格が変わるのか!)

新たな発見をした小人達は早速白雪の頭を強く殴り出しました。

ぼか

「いて!」

ごん

「アウチ!」

どか

「い…痛いですわ」

遂にやりました!三度目の正直です。

殴られた白雪はなにをなさいますの、と頭を押さえ首を傾げました。

「おお!姫っぽいぞ!」

「わしらは遂に計画に成功したのじゃ。」

小人達は喜び勇んでお后に連絡しました。

知らせを聞き駆けつけたお后も白雪の姫らしい喋り方に大喜びし、急いで城へ連れて帰りました。


 それから数日後、やっと肩の荷がおりたとほっとしていた小人達の元に、またもやお后からの手紙が届きました。

「何々?先日壁に頭をぶつけた白雪が急にフランス語を話し始めた。皆様の力で元に戻していただきたい…だと!」


小人達の戦いはこれからも続くのでした。

まずはじめにタイトルが思い浮かび、白雪の反対ってどんなだ?というとこからこの話ができました。

王子は微塵も出てきませんがこの姫様ならきっと自分の道を切り開いていくでしょう

おそらく高校時代に書いた小説のひとつ

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