カスカラ_07
ゲトーシュの背後十歩ほどに生えていた低木が、動いた。
〝あれ?〟と思って意識をやって、驚きに身体が跳ねる。
――グリューンさん!
「どうしたの?」
ゲトーシュが振り返った時には、グリューンさんは消えている。
「な、何でもない。動物だったみたいだよ」
誤魔化しながら、考える。グリューンさんが現われたの、〝確認に来た〟んだろうなあ。初めてだもん、反乱軍の女の人と対話が成立したの。僕だけとはいえ。
ゲトーシュが飛び込んだ時の様子も知ってて、僕だけに接触しようとしてるんだろうな。
またグリューンさんが現われた時には、身体を動かさず目線だけを送れた。
「その、ゲトーシュ。僕、仲間と連絡を取らないといけないんだ。しばらく、外すよ。その間、ここで待っててくれる?」
「うん」と頷いたゲトーシュが、そっと申し出る。
「あの……私も一緒に行ったら、駄目かしら……」
「ご、ごめんね。その人は、顔を見られる訳には、いかないんだ。こればっかりは、僕が一人で実行しなきゃいけない使命、だから。だから、ゲトーシュはここにいてくれないかな。あ、何か危険があるといけないから、待ってる間はなるべく、この家の中にいてくれるかな」
ゲトーシュをここまで連れてきておいて、互いの背中を守ろうって言っておいて、変だよね。でも、合わせる訳にいかないし。
ゲトーシュは「分かった……」と頷いてくれた。
「有り難う。それじゃ、待ってて!」
駆け出して、グリューンさんが現われた方向のゲトーシュがいる家から死角になる位置に廻り込む。
すぐに、グリューンさんに捕まった。
「抜け出してきた風情だね。時間は取れるかい?」
頷く。満足そうな貌が返される。
「あ、あの。一人で来て、大丈夫なんですか? ゲトーシュは魔術が使えるんですよ」
「大丈夫。俺は魔戦士だから。それに、一人じゃない」
「え?」と訊き返した瞬間、硬い靴の足音。グリューンさんと同じ格好が二人現われて、なるほど一人じゃなかった。
そのまま僕への質問が始まると思ったが、素振りはない。ただ、顔を向けて遠方を示された。
「急ぐよ。あちらで、魔法師様が君を待っている」
「遠いんですか? ゲトーシュを長くは、待たせられないんです」
「近いよ。君たち二人を追って、派遣軍もすぐそこまで来ているんだ」
そんな状態……それだけ、ゲトーシュが僕の手を取ったのは、重要なんだ。
「君はまず、ボワイヤ様に会うんだ」