カスカラ_06
村は無人だった。この辺の人たちは、女の人たちが攻撃を始めてすぐ逃げたって聞いてるから、ここもなんだろう。
僕とゲトーシュは適当な家の軒先を選んで、置かれていた長椅子に並んで座った。
とりあえず、ゲトーシュを王女様のもとに戻さないで済んだ。次は、〝何とかできる人〟に頼らないと。
この場合頼るべきは、魔法師様、だよね。
派遣軍には、王女様の魔法対策のため、偉い魔法師様が派遣されてるって聞いた。何とかその人に連絡を取って、魔法を解いてもらうんだ。
そのためにも、もう少しゲトーシュに話を訊いて……
「ゲトーシュ。王女様に会ったこと、ある?」
「いいえ、ないわ」
ないのか、残念。まあ、王女様だし。
「どんな人なのかな? 噂とか、聴いてる?」
「噂なら……綺麗な人で、とても責任感の強い人なんですって」
何も分からないに等しいよ……
「その……王女様はどうやって、ゲトーシュたちが魔術を行使できるように、したのかな? 〝力を与えられた〟って、言ってたよね」
僕の問いに、ゲトーシュは困惑で眉を顰める。答えも、歪んでいた。
「服も、そうだし……言葉……いえ、温情を、懸けてくださって……全部。全部が関係してるの。ええと、服と、格好……格好……」
捻れている。本人の思考と口から出す言葉が一致せず、けっか拗くれてしまった感じ。
「あ、あれ? おかしい……私たち、分かってたのに……みんな、理解してたのに……せ、説明が、上手く……」
「え、ええと。これまで〝説明しよう〟って機会がなかったから、上手く行かないんじゃないかな? ゲトーシュも他の人たちも、今日までずっと同じ体験をした仲間とだけ、一緒にいたんだもの。えっと。ゆっくり少しずつでいいから、話してみてくれないかな」
その後、ゲトーシュは何度も説明しようとしはまた僕が訊き返して、を続けたけれど……十回ぐらい繰り返して、止めた。ちゃんとした説明に辿り着けなかったんじゃ、ない。言葉を重ね方向を変えるほど、具体が見えそうだった。
でも、核心に触れそうになる度、ゲトーシュが無理解になる。
「素晴らしい王女様。私たちは王女様のもと、敵に対抗しています」
感情も自意識も排除して、擦り込まれた事柄をただ繰り返す。〝制限が、掛かってるんだ〟と実感。そんな、操り人形のようなゲトーシュは見たくない。
となると、次はどこから踏み込めばいいだろう? この服や角飾りが、魔術が使えるようになった事実と関係してるってだけは……って、あれ?
「ゲトーシュ。頭、見ていい?」
飾りだと思ってたけど、そうじゃない?
「うん……」
ゲトーシュが控えめに返事するのを待って、頭に手を伸ばす。軽く髪に触れて、その間から伸びている角の根本に、注目。やっぱり……地肌から生えてる……よね、これ。少なくとも、地肌にくっついている。
「ゲトーシュ。頭のこれは、何なの?」
付け根に注目したまま尋ねた。
「あのっ……へ、変よね。こんな格好、したことないし……」
震える声だ。なんだか、凄く緊張してる。僕の質問はまたも違う意味に取られちゃったらしい。って、格好……
「わっ!」
気付いて、慌てて距離を取った。
ゲトーシュは黙って俯いている。
いつの間にか、剥き出しの肩に触れるくらいに、近付いていたんだ。
今まで他が気掛かりで気にしてなかったけど、ゲトーシュの格好って、かなり眩しい。角が出るようにして頭を包む布が、股まで垂れてる。下は、足首までのロングだし。一見は、被われてるんだけど。
捲れると、上半身がビスチェ型だから腕も肩も剥き出しだ。それに、実は、身体のラインがハッキリ出てるし……む、胸の谷間も、見えちゃったり……いや、ほんの少しだけど!
う、うん。綺麗で、色っぽいっていうか、艶めかしいっていうか……ふ、不謹慎だけど、僕の知る限り、ゲトーシュは清楚な服装しかしてなかったらか!
「ご、ごめん! べ、別に変な気はなくって! それに、その格好のほうが魅力的、あ、いや、意外だったけど好み、ってその!」
不味い! 上がっちゃってる! 言えば言うほど変な意味になりそうだ!
「う、ううん。私も、カスカラの格好に、その……びっくり。って言うか、慣れてなくて……」
え? 僕の? 格好?
「あ、あの、カスカラのそんな姿、初めて、見たから……」
姿って、召集兵の姿? こんなの規格生産品で、みんな同じ格好だけど……?
「似合ってる。けっこう、見違えちゃった……」
「そ、そう? 有り難う。ゲトーシュも、その、けっこう、ずいぶん、見違えたよ」
う、うーん。何だか幸せな時間。何してるんだ僕。今は焦らないといけないじゃないか。