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カスカラ_04

 しばらく進んで、僕たちの隊は止まった。徐々に上がっていく傾斜の手前だ。指示があったらすぐ動ける姿勢で待機。

 前方には、反乱軍の女の人たちが見える。顔が分からない程度の距離だ。まだまだ遠いな……と思っていたら。

 不意に、強い風が頬を打った気がした。

 ――え?

 と思った時には、既に前方が騒がしくなっている。

 前から派遣軍の兵士がバラポロと駆け降りてくる。始めは数人で、あっという間に集団。集団は流れになってこっちに来る……って、これって逃げてる?!

 と思った次の瞬間、近くの地面が空間ごと割れた。

 バジャヴ!

 衝撃の余波は、音になって僕たちを舐めていく。肌が服が、切り裂かれそうだ!

 庇っていた腕を降ろすと、抉り跡が見える。農家一件分くらい向こうの一本線は、始点・終点共に僕の視界内にない。つまり、それだけ長い。魔法の攻撃だ。

 こんな近距離で体験したの初めてだけど、僕が普通に知っている魔術とは段違いの威力だ。だから、多分、派遣軍は崩れたんだ。

 などと考えた瞬間、

「魔法戦士……」

〝山火事だ!〟ノリの言葉が途切れがちに聞こえる。釣られて前に向き直ると、隊の先頭に、逃げてきた兵士たちが到達しだしている。隊列が崩れ始めていた。

 その、兵士たちの後ろ。ちょっとした隆起を越えて、反乱軍の女の人たちが現われる。

 これまでで一番間近、間近い距離だ。みな同じような格好だけれど、一人だけは〝動き重視〟らしいデザイン。現に、剣を手にしている。ってことは、あの人が〝魔法戦士〟なのだろう……

 兵士たちはみんな、魔法戦士の人から逃げようとしてるみたいだった。ってことは、今の衝撃はあの人なのだろう。

 周囲の連中も反転し始めていた。僕も逃げなきゃ。足を踏み換えて、振り向こうと……

「カスカラ……」

 不意に名前を呼ばれて振り返った。細くて途切れ途切れだったけれど、確かに僕を呼んだ女声。この状況で男でなく女の人に呼ばれるって、どういうこと?!

 視線を飛ばし巡らせて声の主を捜す。隆起の上、女の人たちの中に、僕に向けられている顔を見付けた。

 ――ゲトーシュ!

 ゲトーシュは女の人の集団から一人飛び出し、こちら――僕に向かって駆けてこようとしている。

「ゲトーシュ!」

 僕は叫ぶと、ゲトーシュに向かって駆け出す。が、撤退しようとする兵士の流れとぶつかる。まともに前進しない。

 それでも何とか進もうとする僕に向かって、ゲトーシュはどんどん近付いてくる。

 危ない、ゲトーシュ! 浮き足立ってるとはいえ派遣軍はいちおう対峙している相手なんだし! 一人で突出しちゃったら後ろから味方の攻撃を受けるかもだし!

 ひたすらゲトーシュに注目し、寄ろうとする。幸い、ゲトーシュの近辺で魔法が炸裂する気配はない。今のところは。ゲトーシュは単身で派遣軍に追い付くと、割り込む。どんどん進む。

 派遣軍の兵士たちは次第にゲトーシュに気付いていった。これまでになかった事態だ。訝しさと不可解さを湛えてゲトーシュを注視しつつも、距離を取り始める。ゲトーシュの周囲は徐々に空白地帯になり、最後には目指されている僕周りからも人が消える。

 人波が引けても勢いが付いてなくて碌に進まないうちに、ゲトーシュが僕に辿り着いた。

「カスカラ!」

 ゲトーシュは僕の手を取る。間近で見た貌は、本当に必死だ。問答無用な様子といい、初めて見る。って、ゲトーシュ! 何をしようとしてる?!

 僕を掴んでいない、もう片方の手。構えているなと思ったら、振り被ろうとする。周囲の連中を、攻撃するつもりだ!

「待ってゲトーシュ!」

 二の腕を掴んだ僕の静止にゲトーシュが動作を止め、狙われていた兵士がぎょっと退がる。

 安心した……のも束の間。また構えた。

「ちょ、ちょっと、ゲトーシュ?」

 不明を訪ねようと顔を寄せようとすると、ゲトーシュが引っ張る。接近する身体と身体。耳元に漂わせるように囁かれた。

「カスカラ、走れる?」

「走れる、けど……」

 どういうこと? 走って逃げようって? そりゃ、周囲の兵士、ゲトーシュにとっては敵だろうけど。

 僕とゲトーシュが寄り添う様子に、質問を投げようとしたのだろう。兵士の一人が半歩、出る。

 その途端、またゲトーシュが魔術を撃とうとした。

「待って、ゲトーシュ!」

 僕は掴まれていた手を解くと、反対にゲトーシュの手首を掴む。そのまま、ゲトーシュを牽いた。

「逃げるよ、ゲトーシュ!」

 返事は待たない。人垣が切れている一角、ゲトーシュの来た方角に走り出す。ゲトーシュは僕と同じ速度で従いてきてくれる。

 何が起こっているのかサッパリ分からない。ただ、僕もゲトーシュも、この場から離れたほうが良いみたいだ。

 おっと、このまま進んじゃ駄目だ。反乱軍の女の人たちがいる。

 ゲトーシュの手首を握る手だけを意識しながら、僕は誰もいない荒れ地を見据えて走り続けた。


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