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カスカラ_02

 僕とゲトーシュは幼馴染。ただ同郷の同い年なんじゃなくて、もっと密接な関係だ。家なんて、ほんの三軒隣の近さだ。……まあ、田舎の家は、点在してるけど。

 とにかく。

 僕が思い出せる限りの幼い記憶に、必ずゲトーシュはいた。

 幼い頃、僕とゲトーシュは本当によく遊んだ。ちょっと成長してからは、僕は次第に同性の友達と遊ぶほうが多くなっていったけれど。それでも、他の女の子と比べて、ゲトーシュとはかなり大きくなるまで遊んだと思う。

 ゲトーシュは普段は控えめで大人しいけれど、遊ぶ時は積極的に僕の手を取って、笑い掛けてくれた、と思う。あの頃、僕も照れることなくゲトーシュに笑い返していた。

 でも、その後、僕は本当に、同性の友達としか遊ばなくなった。そのほうが面白かったんだ。基礎学校を卒業する頃にはもう全然、ゲトーシュと遊ばなくなっていた、と思う。

 僕は、あの頃のゲトーシュがどんな顔をしていたのか、よく憶えていない。あの頃の僕はゲトーシュを意識していなかった。

 その後、応用学校に進学してからは、確実にゲトーシュと没交渉になった。あの頃の僕は同性と遊ぶのが何より楽しかった。この世で最上だと信じていた。同じクラスには、一部、女の子とどうやって親しくなるかに血道を上げていた連中もいたけど、僕は内心で馬鹿にしていた。〝どうしてそんなことをするんだ〟って思っていた。

 あの頃ゲトーシュと会ったのは、学校の長期休みで家に帰った時、たまたま擦れ違ってくらいだったはず……本当に、あの頃の僕は、見るべき物をみてなかったんだなあ。

 久し振りにゲトーシュを見たのは、応用学校を卒業した時だった。

 実は、僕はその時、それがゲトーシュだと気付かなかった。僕は〝ゲトーシュにこんな姉さんか従兄弟がいたっけ?〟などと本気で考えた。……つまり、何て言うか、それくらい唐突に、気付いたら、ゲトーシュは綺麗な女の子になっていた。

 気付いたら、花が咲いていたんだ。

 僕は、もっとマメに実家に帰ってくるんだったって後悔した。といっても、その時はひたすら見惚れちゃって舞い上がってたんだけれど。〝何となく、実家に戻るのは気が滅入るなあ〟などと思っていた気分は吹き飛んでいた。

 次の日から僕は、理由や用事を作っては何気ない風を装い、近所を歩き回った。少しでもゲトーシュに会えるように。悲しいことに、数年の空隙は埋めがたかった。昔はあんなに当たり前に接していたのに、今は碌に世間話もできない。〝どれくらい経ったら自然に話し掛けられるようになるかな〟なんて思いながら、日々を過していた。

 そんな感じで〝今日は会えるかな?〟と気にしているだけの内は、まだ良かった……

 生家で家族と共に暮らしていれば、自然、近所の噂が耳に入る。噂話には「誰それの家の誰それがこんど婚礼だ」とか「そろそろ年頃で……」とか「そろそろ縁談が……」とかが、当たり前に含まれている訳で……そんな話の最中にゲトーシュの名前を聞いて、僕は愕然とした。

 当たり前だけれど、男と女では結婚適齢期がズレている。見習い先が決まって修行を始めたばかりの僕は、あと数年――少なく見積もっても二・三年は結婚しないのが普通。対して、ゲトーシュは来月に結婚が決まってもおかしくない。しかも、女の人の結婚相手は同い年とは限らない。っていうか、年上で普通。

 今この瞬間にも、ゲトーシュの家族がその気になって縁談が持ち上がってたり、どこかの一人前の男がゲトーシュを見初めて結婚を申し込んでいるかも! ゲトーシュはあんなに、綺麗で可愛くて性格も良さそうなんだから!

 ……応用学校時代に女の子と仲良くなろうと血道を上げていた奴等を、本気で羨んだ。内の数人は、今では親も認める公認の間柄になっている。ゲトーシュとそういう関係を築けていれば、あと数年、僕が一人前に成るまで、とは言わないけれど。せめて、見習いから卒業するまで待ってくれた。……それも厚かましいけど。

 せめて、ゲトーシュと普通に会話して、ゲトーシュを訪ねていける程度の関係を作っておけば。そうすれば、ゲトーシュの周囲に〝僕って男〟の存在を主張できていたのに!

 それからの僕は、より一層とゲトーシュと会う切っ掛けを増やそうと、努力した。ゲトーシュに会いたい。ゲトーシュに僕を見て欲しい。今のゲトーシュがどんな風に成長して何を考えているのか、知りたい。今の僕が何を考えているのか、知って欲しい。

 だけれど、〝単なる知り合い〟から発展しないまま時間は過ぎた。過ぎて……王女様の反乱が起こった。





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