めぐりあひて
茶の間の灯りはつけっぱなしだった。
昼間と同じに晶太が寝転がっているものと思った女は、虚を突かれた気分で、誰もいない室内を見渡した。
「晶太、ただいまあ。いないの?」
……あんなにいったのに。
買い物袋を卓上に置く。階段を上がる、彼の部屋を覗く。真っ暗だ、誰もいない。夜も八時を回った家の中は、ただしんと静まり返っていた。
「シャラ、シャラ、ごはんだよ。なーお」
鳴き真似をしてみる。ねこも姿を見せない。
玄関の引き戸も、少し開いたままだった。蚊は入るしシャラは出るし、いったいどういうつもりなんだろう。
茶の間に戻る。床に雑誌、樫のテーブルに炭酸飲料のペットボトル、カップ麺の容器。怒りというより溜息しか出て来ない。あんなにふらふらだったのに、結局半日とじっとしていられない体質なのだろうか。
だが、今彼と顔を合わせるのが気まずいのも事実だった。
行動するなら、調べるなら今日の今日。そう決心して、ひと巡りした。
瑠梨から聞いたキーワード、憔悴した姉から病院で聞いた曖昧な情報、それらを検索ワードとしてネットで調べ、図書館に行き、過去の新聞をあさった。
何のためかもわからず、……最後に、その男の顔写真に行きつくまで。
切れ長の酷薄な目、高い鼻、薄い唇、整った顔。
暴力事件で何度か逮捕され、殺人未遂で懲役十年。
被害者、妻。妊娠中だったが胎児は死亡。
……見てしまったその顔が、今度は忘れられない。見るんじゃなかった、どうしてたどり着いてしまったんだろう。晶太に申し訳がない。一番知ってほしくないことを、わたしはこの手で掘り出したのだ。
玄関に戻ってみる。
と、スリッパ立ての脇に放り出されている、電話の子機に気づく。
こんなところに、なぜ?
形にならない不安が、足を締め付けるような痛みとなって一気に心臓めがけて駆け上がってきた。
そのとき、外で門扉ががちゃんと鳴る音がした。つま先でサンダルをひっかけて、あわただしく引き戸を開ける。
「晶太!?」
「あら」
二人同時に声を出した。暗闇の中、目に入った小柄な老婆はお向かいの、おせっかい好きの森本さんだった。
「ごめんなさいね、おたくの甥っ子さんだと思ったものだから、ちょっと確かめにね」ばつが悪そうに、さきに向こうから話しかけてきた。
「……あの子が、どうかしたんですか?」
「今、おうちにいないわよねえ?」
「そうみたいですけど」
「ちょっとね、……気になることがあったものだから」
「気になること? ……なんでしょうか?」
高まる動悸を押さえながら、女は尋ねた。
「今から一時間ほど前、七時ぐらいかしら。なんかね、車内灯を消してエンジンを切ったタクシーが、お客を乗せたままずっとおたくの前に止まってたんで、変だなーと思ってたのよ。
で、主人のビールの買い置きが切れてたんで、まあ近所のコンビニに行こうと家を出たのね。そしたらそのタクシーが急発進してね。そのあとを、門から飛び出したおたくのぼっちゃんが、すごい勢いで追いかけていったのよ」
「晶太がですか?」
「ええ、大きな声で叫びながら。 お母さん、お母さん!って」
「………」
どん、と胸を殴られた気がした。情景が、一気に脳裏に押し寄せた。
茶色い髪を振り乱して必死にタクシーの後を追っていく晶太。その叫び声、夕闇の中に小さくなっていく後姿。
「あたしもね、気になったもんだから、あとを見てたの。何しろすごい足の速さでねえ、追いつきそうな勢いだったわよ。
タクシーは突き当りのI通りに出てそのまま左に曲がって、坊ちゃんもあとを追って行って、まあ、あの通りに出ちゃえば後は追いつけるわけないからね。すぐ戻ってくると思って、ここでちょっと見てたのよ。
でも戻ってこないじゃない。それで大通りまで出て行って、見まわしてみたの。
でも、見えなかったわ。タクシーはもちろん、坊ちゃんも」
「………」
「どこへ行っちゃったのかしらねえ。もうあれから一時間だからね、あたりも真っ暗だし、ちょっと気になってたのよ」
相槌の打ちようがなく、なにをどうしていいかわからず、女はただ震える両手を握り合わせた。老婆は呟くように言った。
「もしかして、タクシーに追いついちゃったのかしらね」
「えっ」
「あの子の足の速さなら、あるかもと思ったわ」
「………」
突然、気が遠くなるような思いがした。あるかもしれない。走る、走る、信号で車が止まる。母親が、窓を開ける。そして……
……晶太。あなたは、お母さんに会えたの?
「ちょっと今まで聞きにくくてお聞きしなかったんだけどね。夏の間だけ、甥っ子さんを預かってらっしゃるってお話だったわよね。あの子のお母さん……て、その、どういう事情で……」老婆は急に口調を変えて、下から見上げるようにしてきた。女は乱れた前髪をかきあげると、早口で言った。
「いえ、あの、お母さんの具合が悪いとかで、一時的に預かっているだけなんです。多分あの子の見違いだと思います。どうもありがとうございました、戻ってきたらお知らせしますから」
「そう? あまり遅くなるようなら警察に届けたほうがいいわよ」
半分、声は背中で聞いた。
引き戸を閉めると、玄関にへたり込んだ。
……もう、会えないかもしれない。もう、二度と。
背中の寒くなるような予感が女をとらえていた。
いつも不機嫌な顔をした、茶色い髪の、まっすぐな目をした、少年の顔が浮かぶ。
こんな風に突然、何もかもが終わりになるのだろうか……何もかもが。
ふらりと立ち上がり、ダイニングに入る。さっき自分が取り込んだ新聞と手紙の束が、テーブルの上に乗っている。
がさがさと新聞をどけ、呆然と手紙を手に取る。ダイレクトメール、銀行からのお知らせ、残暑見舞い、そして、
……女文字の知らない名前からの、切手を貼っていない、分厚い封書。
女はがたんと音を立てて立ちあがった。そしてあわただしく引出しをあけると、古いペーパーナイフでばりばりと封を切った。
薄いレターペーパーと、……通帳と、印鑑?
レターペーパーには、小さな右上がりの字がびっしりと並んでいた。
奈津子さんへ。
偽名を表に書いたこと、お許しください。
晶太宛てにしようと思ったのですが、めんと向かっていえないことを、最後に字にして押し付けるのも母として卑怯だと思い、あなた宛てにしました。
晶太の母、柚木ほのかです。
息子を一方的に押し付ける結果になって、本当に申し訳なく思っています。
あの子には、ひどいことをしてきました。謝っても謝りきれない、ひどいことを。
それでもあの子は、頑張って生きてきました。たいへんな思いをしてきたから、その分、扱いにくいと思います。その彼の今を引き受けてくださっているあなたには、どんなに頭を下げても、下げきれません。
無言電話なんかして、ごめんなさい。晶太をとても大事にしてくださっていることが、あなたの口調からわかって、わたしは泣きました。そして、あなたにだけは、わたしたちの本当のことを知っておいてほしいと思い、お手紙したのです。
わたしたち夫婦が不和だったことは、お聞きになっていると思います。わたしがあの子を連れて島を出た理由も、推測であれこれいわれていることでしょう。
わたしは賢治さんと結婚する前に、たくさんの男性とお付き合いしていました。家族というものを知らず、十五まで施設で育ったわたしは、頼りになる強い男性像ばかりを無意識に求めていたと思います。
九州から上京した二十歳のころ、見てくれがよくて遊び上手で金回りのいい、怖いもの知らずの男にのめりこんでいました。彼が勧めるまま水商売につき、彼にたくさんのお金を渡せるということだけで満足していました。
けれど彼は女にだらしなく、脅しては他人からお金を巻き上げる、最低の人種でした。おまけに暴力団員で妻帯者であることを知り、わたしは別れ話を切り出しました。彼は激怒し、立てなくなるまでわたしを殴りつけ、自分から逃げたら殺すと言いました。さらにわたしへの愛のあかしだと言って、あろうことか自分の妻を刺してしまったのです。
彼女は妊娠中でした。赤ちゃんは、助かりませんでした。
わたしは震えあがりました。この人は普通じゃない。
そんなとき相談に乗ってくれたのが、当時勤めていたキャバレーのお客だった、賢治さんでした。
彼は以前からわたしに、熱心にプロポーズをしてくれていたのです。賢治さんから励まされて、わたしは警察に彼のことを通報し、他人に罪をなすりつけていた彼は逮捕されました。
そしてわたしは賢治さんと結婚し、島へ渡りました。
彼はわたしを妻にすることで、多くのものを失いました。そのことは本当に、申し訳なく思っています。彼の気持ちを利用しただけとも周囲から言われました。でもそのとき、わたしが賢治さんに心を寄せていたのは本当です。彼の為に、一生尽くすつもりでした。
ほどなく、妊娠がわかりました。父親がどちらかはっきりしません。彼はそれでも受け入れると言ってくれました。どんな子が生まれても、自分の子として育てると。わたしは涙が出るほどありがたかった。
けれど成長につれて、あの子の個性がはっきりしてきました。
いちばん似て欲しくない男に、容姿がどんどん似てきたのです。
わたしは島の退屈な生活に飽き飽きしていたし、彼は自分と似ていない、扱いにくい息子を遠ざけるようになりました。島の若い男性とお話ししただけで嫌味を言う彼との間に喧嘩が絶えず、しまいに父親として許せない暴言を晶太に吐くまでになっていました。耐えられずにわたしは二年前、あの子を連れて島を出たのです。
東京には嫌な思い出しかなかったので、故郷である九州に戻り、地味なパートにつきました。そしてそこで、出所後、わたしの出身地でわたしを探していたあの男に見つかったのです。
裏切りの罪を一生かけて償えと彼は言いました。もう、逃げられませんでした。わたしは結局過去の悪夢の中に戻ったのです。
違うのは、晶太がいたことでした。
わたしは夜昼となく風俗店で働かされ、次々となじみの客がアパートに出入りするようになりました。 今度逃げればどこまででも追いかけて、親子二人とも殺してやる、島の診療所もめちゃくちゃにしてやると言われました。晶太が少しでも口答えすると、問答無用で殴りつけていました。
わたしは自分から夫に電話で言いました。もう会いたくない、連絡もいらないと。島の人と診療所にだけは迷惑をかけるわけにはいきません。
賢治さんは私たちを無視していたのではありません。電話もときどきくれていました。こちらからかかわりを拒否していたのです。
晶太にはどう見えていたでしょう。しょっちゅう部屋から追い出され、戻るたびに違う男のいる母親の生活が。
晶太への報復が怖くて、わたしはあいつに抵抗できませんでした。わたしが今の仕事を嫌がると、なら息子でもいい、あいつは見てくれがいいし年齢からいっても結構いい金が稼げる、女と違って妊娠もしない、と信じられないことを言うのです。 あんたの息子かもしれないのに、というと、だったら父親権限で俺の自由だ、と堂々と言いました。
一年前、わたしを殴りつけるあいつに、晶太が立ち向かったことがあります。これ以上お母さんをいじめるなと。
あいつは本気で晶太にナイフを振り上げました。顔を覆う晶太の手が血で染まったのを見て、わたしは晶太に覆いかぶさりました。殴られはしましたが、金づるのわたしをあいつは刺しませんでした。わたしはいいました。よけいなことしないで。邪魔なのはあんたのほうよ、晶太。あたしは好きでこの人といるんだから余計なお世話なの!
子どもにはわからないかもしれないがお母さんはこうされるのが好きなんだよと、あの男はすごい顔で笑って見せました。わたしはずっとあいつと仲のいいふりをしました。そうでないと、次に何かあったら、あの男は晶太を殺すかもしれません。
晶太はどんなに傷ついたでしょう。わたしを守ろうとした彼を、わたしは踏みにじりました。それ以来晶太は、わたしとほとんど話をしなくなりました。
あの子はずっと孤独でした。
たぶん、あなたに会うまで。
……便箋を持つ手が細かく震えた。女は頬の涙をぬぐうと、最後の便箋をめくった。
このままではいけない、こんな人生の中に晶太を置いてはおけない。そう考えるぐらいの気力はわたしにもありました。彼は晶太さえ食い物にするつもりでいるのです。このままでは彼も無事には済まないでしょう。
ちょうど、属していた組の薬の売上金に手を付けて追われる身となっていた男が、高跳びの用意をし始めていました。 外国にわたしを連れて行く気でした。足手まといになる息子はおいて行けと彼は言い、わたしは承知しました。
なんといっても晶太には許されないことでしょうが、すべてはあの子のためでした。
けれど、すでに恐喝や薬物売買で手配のかかっていた彼は、国外に出ることができませんでした。
現在わたしたちは追われる身です。行くあてもありません。晶太の前に姿を現すこともできません。ただ、あの子が、両親に捨てられたという気持ちで一生を送るのを、わたしは本当に申し訳なく思います。でも、そうではないのだと説明する時間も資格も、わたしにはありません。
ただ、心からお願いします。
どうか、あの子に教えてやってください。
愛されること、大事にされること、普通の生活、当たり前の幸せと、笑顔を。
奈津子さん、あなたなら、きっとできます。
こんなことを申し上げられる立場でないのは十分承知しています。
でも、お願いです。土下座して、お願いします。晶太を、あの子を、どうかどうか、よろしくお願いします。
同封の通帳は、必死に隠し通したわたしのささやかな貯金です。カードは晶太が持っています。
そしてお願いがもう一つ。お読みになったら、この手紙はどうか焼き捨ててください。そしてすべてを、あなたの心の中だけにしまってください。
あの男もわたしも、二度と晶太の足かせにはなりません。それだけのために、わたしは命を懸けます。 それがわたしからの、晶太への最後のお詫びです。
柚木 ほのか
女は便箋を置いた。
胸が震え、全身がわなないていた。
目を上げると、ダイニングの漆喰の壁の隅に飾った、晶太の書が目に入った。
「永遠」
個展のあと、恩師が特にほめていた、晶太の字。のびやかで力強く、自由で、そしてどこかが、悲しい。
こんな字を書ける何を、いつ、すさんだ日々を送っていた彼が手に入れたのだろうと一時は思った。
だけど、今はわかる。子どもはゼロ歳から物心つくまでの間に、愛情の基礎を手に入れると聞いたことがある。その土台を与えられていないと、まっすぐに家を建てるのは難しい……
晶太はとにもかくにも、その期間、きちんと愛を与えられていたのだ。
柚木ほのかさんは、晶太を愛している。昔も今も、愛している。いまははっきりと、それがわかる。それをどこかで信じていたから、彼は基本がまっすぐなのだ。
昔島で見た、彼女の面影が浮かび上がる。幼い晶太を抱いて微笑んでいた、透き通るように色の白い、長い亜麻色の髪の女性。そのやわらかな笑み。
……それだけのために、わたしは命を懸けます……
ほのかさん。お母さん。なにをするつもりなの?
晶太の字の隣には、自分の書が飾ってあった。これは彼が唯一、好きだと言ってくれた字だ。ひらひらとしたひらがなが、美しいと。
―― めぐりあひて見しやそれとも分かぬまに 雲がくれにし夜半の月かげ ――
玄関に放り出してあったあの電話。彼は母親と何か話したのだろう、そしてその真実の一部に触れたのだろう。だから、一度は見送った彼女を、今度は全力で追ったのだ。
おそらくは、母親の危機を察して……
「晶太が危ない」
声に出して呟いてみた。だが、何をどうしていいのかわからない。
彼がもし母親とともにいるのなら、自分がどう手を出せるだろう。
母親とともに過ごす、それこそが本来最もあるべき姿だったのだ。
そこに、あの男の魔手がなければ……
考えろ、考えなさい。いまできることはそれだけ。余計な感情はいらないの。焦燥とせつなさが固まりとなって溢れ、流れ落ちて頬を濡らす。女は携帯を探して鞄をかき回した。そして、国会図書館でコピーしてきた晶太の父親の資料を取り出しじっと見つめたあと、手元でぐしゃぐしゃに丸めた。
暗証番号、島を出た日付。
ATMからお札が出てくるまでがいやに長く思える。手元にそろえて、ポケットに乱暴に入れる。
あの夜、母親が置手紙とともに、こっそりとおいていった、預金のカード。
『生きていくのにどうしても必要になったら使いなさい』
今がそのときかどうかわからない。でも常に身に着けていたのが幸いした。とりあえず、おろして常に手元に持っていた金はさっき、確実に役に立った。またまとまったお金が必要になるだろう。
ぎりぎりまで追ったタクシーが信号で止まったとき、窓にすがりながら、ナンバーと運転手の名前を確認した。
振り切られた後、同系列の会社のタクシーを探して止め、片っ端から尋ねた。この運転手が午後八時からどこへ客を乗せたか、無線のやり取りで聞いて。人の命がかかってるんだ。
まとまったお札を渡すと、ある運転手が教えてくれた。そういやあ、偶然聞いた無線で、その時間帯に都内のSホテルに向かってると聞いたな。
ありがとうおじさん、このやり取りはオフだよ。
これから何が起きるかわからない。必要になるのはお金か、この命かも。
ふと、奈津子の顔が浮かんだ。
……日ごろのモットーとして、疲れないでいいことだけをして、気分が暗くなることは考えないで、自分だけの為に、気持ちよく過ごそう。って決めてるの。あなたにもこれは勧められると思う。どう?
……ほんのちょっと、ほんの少しの間、そんな日々を味わった。
焼肉もいちじくヨーグルトも、じゃことねぎの卵焼きも、朝いつも置いてあったじゃがいもやおあげやもずくのたっぷりはいった味噌汁も、おいしかった。
もうあれで十分だ。
川のほとりに立つSホテルは、周りをぐるりと緑に囲まれ、人影も少ない。少年は駐車場の出口の脇の植え込みに身をひそめ、ただ時を待った。ホテルの玄関と、駐車場の出口と、交互に目を配る。
母とあの男は、おそらくここにいる。ここを出たら、もう二度と自分と連絡の取れるところに現れないだろう。
植込みの周りで、ごそごそと石を探す。大きさの目安は、アンモナイト以上。
……フロントガラスは一点突破が原則。
反発係数。衝突前と衝突後の相対速度の比。
静止した面に球を当てるとすると、衝突前後で球の速度が変わらない弾性衝突の場合は反発係数e=1。壁にくっついて跳ね返らない完全非弾性衝突ではe=0。だが硬いものと柔らかいものを衝突させれば柔らかいほうが弾き飛ばされるか、静止しているなら破壊される。
ふと目を上げた先、ホテルの脇の部分に、シースルーエレベーターがあった。ゆっくりと箱のかたちのイルミネーションが下りてくる。
乗っているのは、……男女の人影……
少年は背を屈めると、見つけた石をぐっと掌の中に握りこんだ。
e=0。
この楔を引き抜け。