天国への切符
家の中に、晶太の姿はなかった。
見上げたダイニングの時計の針は、午前零時を指している。
……また、夜遊びして。
女は和菓子や花や、個展のおこぼれをどさりとテーブルに置いた。飾り棚の留守電の灯りがちかちかしているのが目に入る。
再生を押す。非通知。
無言。また、無言。
珍しい。非通知電話は取らないという方針を徹底してから、こういう電話はあまりかかってこなかったのに。
一応メールを送っても、晶太は相変わらず返信してくれない。何かわたし、へそを曲げさせるようなことをしたかしら。もう面倒くさい、いちいち自分のせいと考えるのはやめようと決めたじゃないの。女は冷蔵庫から冷茶のポットを取り出した。そのとき、ゴミ箱の中に妙なものを見つけた。
かがんで、茶色い紙袋に包まれたそれを見てみる。
緑色の、半球の、……
これは、サボテン……あの、玉サボテン。しかも、半分に切った片割れ?
その時、ふいに電話が鳴った。今度は番号が表示されている。これは……
「もしもし」
『ああ、奈津子ちゃん。起きてた?』
姉だった。弱々しく、しかもどこかせっぱつまった声音。
『ごめんね、深夜に。かけにくくて、迷ってるうち、こんな時間に……』
「ちょっと出かけてて今帰ったところ。どうしたの、何かあったの?」
数秒の沈黙ののち、姉は言った。
『……瑠梨が家出したの』
「えっ……」
『それでね、あの、もしかして、そちらへあの子が行ってないかと思って……』
女の胸に一気にあれこれのことが去来する。その全部を押しとどめて、あえて冷静な声で答えた。
「こっちには来ていないわ。なにか、ここへ向かうようなことを言い残したの?手紙とか?」
『そういうものはないんだけど……』
あとは続かない。口にできないいろんなことが残りの言葉を押しとどめている。それがわかっているから、女はあえて、常識的なことを言うしかなかった。
「じゃあ、どうしてこちらへきていると思ったの。お友達のところじゃないの?」
『お友達のところはひととおりあたったのよ。でも、違うと思うの。だって……』
そのまま数秒、姉は言いよどんだ。
『おととい、親子喧嘩になってね。お父さんが、あの子をぶっちゃったのよ』
「ぶった……。なんで?」
『その、ねえ……』
しばらく言葉を探す風にした後、思い切ったようにつづけた。
「晶太を追い出したのはおとうさんだって、こんな家大嫌いだって、あの子が。まあ、そんなこんなで……」
細かいところはわからなくても、女には風景が見える気がした。風景というより、少年を巡る構図が。
『……晶太くん、うちの子のこと、なにかいってなかった?』
「さあ、そこは、あまり……」
さあ、どうしよう? 多少残酷な心持ちで、女は逡巡した。どこまで知っていると言えば、そしてどこから隠せばいいのだろう。
「その前に、姉さん。わたし、そっちで何があったのか、どうしてあの子を追い出さなきゃならなかったのか、具体的なところをきいてないわよね。確かにいろいろ難しい子だっていうのはわかったけれど、やっぱり知っておきたいの。決定的なことはなんだったの? 瑠梨ちゃんとの間に、何かあったの?」
なんて意地悪な質問だろう。けれど考えてみれば、二人の間のいざこざを、自分は晶太の側からしか聞いていない。物事はかかわった両方の視点から聞いて、バランスを取らなければ、本当のところはつかめないものだ。
少し黙ったあと、貴美子は言った。
『年頃だから、ちょっと心配はしてたんだけどね。晶太くん、うちの瑠梨に興味持っちゃったみたいで、その、わたしたちの留守中にいろいろちょっかい出してきたらしいのよ。最初はわたしもやんわり注意してたんだけど、だんだんひどくなっていってね。しまいには、いやがる瑠梨に暴力までふるったのよ。当然主人がきつく注意したんだけど、腹立ちまぎれにうちの車壊しちゃって、それでしかりつけたの。当然でしょう。追い出したと言われても、親としてはそりゃねえ……』
内心呆れながら、女は答えた。
「じゃあどうして、瑠梨ちゃんがあの子のところに来ていると思うの? 嫌いな相手に暴力まで振るわれていたなら、お父さんが追い出したとか責める必要もないでしょ?」
『それはまあ、年ごろの子ってわからないところもあるから。ほら、晶太くんって、見てくれはかっこいいっていうか、顔だけはきれいじゃない? どこか危険なにおいのする男の子にひかれるのって、十七、八の女の子にはありがちなことだと思うわ』
もういい。女は投げやりな口調で言った。
「何かあったら知らせるわ。きっとお友達のところでしょ。とにかく電話かけまくってみたら?」
電話を切って、時計を見る。午前一時近い。どこで、何をしているのだろう。瑠梨から連絡があったのだろうか。だからといって、晶太には会う理由などないはずだ。
髪を切り落とすほどの激しい怒りが、別のかたちに姿を変えるとは思えない。そんなことがあったら、逆に、危険な気がする。たとえばもし、涼しい顔をして再び会っていたとしたら……
再び電話が鳴る。……公衆電話?
咄嗟に受話器を取った。
「晶太?」
電話の向こうは、無言。
「晶太なの? 今どこにいるの? もう一時よ、電車なくなっちゃうわよ」
『……』
なにか、息遣いのようなものが伝わってくる。女は切られないように慌てて畳みかけた。
「あのね、あれこれいわないから、どこにいるのか知らないけど電車がないならタクシーで帰りなさい。払ってあげるから。で、帰ったら日向夏のゼリー、食べよう。言いたいことがあるなら、その時聞くから。聞こえてる? あなたのために買ったのよ。一緒に食べたくて」
ふうっと、吐息のようなものが聞こえた。細い声のようなものも、聞こえた気がする。泣き声に近い。そして電話は切れた。
……何かが違う。女は直感した。
これは、この気配は、……晶太じゃない。
翌朝、晶太の顔を見ることになったのは、生まれて初めて行く場所だった。
防弾チョッキを身に着け、長い警棒を持った警備の警官に小さく頭を下げて、むっつりと不機嫌そうな灰色の建物の玄関を入る。
衝立の向こうに、俯きがちに椅子に座る、茶色い髪の少年の後姿があった。
「晶太!」
呆れてそのあと声も出ない女に、そばの警官が座るように勧めた。
「どうも朝からご苦労様です。お母さん、ではないですよね?」
「はいあの、叔母です」
晶太はこちらを見ない。青い顔をして、上半身をかすかにふらふらさせている。足元に汚いリュックと、ギターがある。
「連れの女の子のほうは、急性アルコール中毒と、何か妙な幻覚もあるようなので念のため病院のほうに運びました。松本、瑠梨さん……ご存知ですか?」
「はい、わたしの姪…… 晶太の、いとこです」
ひとことひとこと、区切るように女は言って、ぎゅっと唇をかみしめた。
「身元確認に相当難儀したんですよ。何しろ彼女のほうは携帯をホテルのトイレに投げ捨ててしまって」
「保護者、というか、姉とは連絡が取れているんでしょうか」
「今朝お電話しました。捜索願いを出そうとしていたところだそうで、……九州じゃ大変ですよね。とにかくできるだけ早い飛行機でこちらに向かうそうです」
「そうですか……」
晶太は相変わらず下を向いたままだった。心配していた通り、瑠梨と一緒だったのだ。だが、ともかくも怪我をさせたわけではなさそうだというその一点が、とりあえず心のどこかをほっとさせていた。
「で、ホテルというと、あの、どういう……」
「普通のビジネスホテルですよ。なんだか偽名で宿泊している少女がいるとかで、しかも少年が尋ねてきた後、歌ったりわめいたり室内で大騒ぎして、チェーンをかけたままノックにも応答がなかったそうです。で開けてみたら、少女はベッドで嘔吐していて、少年のほうはバスルームでのびてたと、まあそういう」
「……お酒かなにかでしょうか?」
「何かカクテルを作ろうとして、失敗したんですかね。ウィスキーとかテキーラとか、焼酎とかごろごろありましたから。あと、青汁みたいなものも。まあ、自家製カクテル酔いですね」
「……」
女は手短かに少年の家庭環境を説明した。
実の父親が、船でひと晩かかる小笠原在住と聞いて、警察は呼出しをあきらめ、現在の保護者である女に託すことで決着がついた。親ならば説教のひとつやふたつ、という姿勢だったものの、親戚たらいまわしという状況説明に、ああそれなら、という目に見えるような空気ができあがっていた。
「帰るわよ、晶太。そのギター自分で持って」
「どこへ」
「どこへじゃないでしょ。うち以外にどこがあるの」
「面倒臭え」晶太は俯いてふらふらしたまま立ち上がろうとしない。
警官が気の毒そうにやり取りを眺めている、その視線が痛い。
「車で迎えに来てあげたんだから、車まで歩いて」
「気持ち悪いんだよ」
「自分で飲んだんでしょう、自業自得でしょ」
「飲まずにあんなのとやれるか」
いきなり女の頭に血が上った。
「晶太、あなた、避妊はしたんでしょうね!」
周囲の警官がぎょっとした様子でこちらを見た。
「あっちから呼び出したんだから、あっちが用意すればいいだろ。
知るかそんなの」
女はバッグを静かにそばの椅子に置くと、思い切り手を振り上げて晶太の頬を打った。平手は見事にヒットし、ぱちーんという破裂音が部屋中に響いた。
「ふざけるんじゃないわよ!」
静止しようとした警官は、おとなしそうな様子の女の豹変に気おされて言葉を飲み込んだ。
「いくら相手がいけ好かなくても、いくらあんたが子供でも、そんな言い草が許されると思ってるの。やることがやれるなら立派に一人前のオスよ、人間のオスなら繁殖に責任を持ちなさいよ。それができないなら好きでもない女の子に乗っかってんじゃないわよ。偉そうな理屈こねて、結局呼び出されればホイホイ出かけて、やりたいからやってるだけじゃない。なにも考えずにお酒の力を借りて、面倒なことには知らん顔して、あんたなんか子どもどころかチンパンジー以下よ!」
「まあまあ、お母さん」
「お母さんじゃありません!」
「いやあの、叔母さん、いや……」
「無責任なのはそっちだろ」
女と警官のやり取りに晶太が割って入った。どんよりと充血した切れ長の目はこちらに据えられ、叩かれた頬が赤く染まっている。
「責任もって車で家まで送り届けるって言った、あれはどうなったんだよ」
「誰がいつあんたなんか」
「おれじゃないよ、葉月だよ」
「……はづき?」
女は記憶の糸を手繰った。
「あの子を送り届けるって話? あれは、由紀が……」
「自分で責任もって送り届けるって、あの子のお母さんに言っただろ。自分で運転しなかったじゃないか」
「それとこれと何の関係があるの。友だちを信用して何が悪いの」
「結局妻子持ちのおっさんとでれでれしたくてあの子を放り出したんじゃないか。おっさんに誘われなければちゃんと送り届けたんだろ。だらしないのは自分だって同じじゃないか」
「あんたとは違うわよ。でれでれって何。一緒にいて何をしたと思ってるの!?」
女ははっと周りを見回した。止めようとしていた警官たちが、明らかに続き待ちの野次馬顔になっている。
「お世話になりました。この続きはこの人とやりますので。行くわよ、晶太」
女は頬を紅潮させ、若干残念そうな野次馬の前から少年を引き立てて、車へ急いだ。
日陰に止めたのに、プレーリーは熱気で車体ごと膨らんでいるようだ。
いったんエンジンをかけ、エアコンを入れ、しばらくしてエンジンを止めてハンドルに顔を伏せた。窓を開ける。アブラゼミとミンミンゼミとヒグラシの合唱が風と共に入ってくる。
何度不安の塊をほぐそうと思っても、少年の持ち込んでくるごたごたに追いつけない。この上、瑠梨の運ばれた病院にまで自分が行かなければならないのだろうか。疲れた。もう本当に疲れた。この子を引き受けてから落ち着いて過ごせたためしがない。女は顔を伏せたまま後部座席の少年に問いかけた。
「そのギターどうしたの」
「公園で知り合った友達に借りた」
その後、無言の時間が一分ほど経過した。
「……あのひとを、どう思ったの。言われたことは何一つ、心に残らなかったの。あれだけの字を見ても、あなたにとって結局、大森先生はただの妻子持ちのおっさんでしかないの?」
少年は暗く、抑揚のない声で静かに答えた。
「……あの人はすごい人だよ。だけど、あの人には奥さんがいる。病気の、やさしい奥さんが。あのひとは、奥さんのものだ」
女はミラー越しに少年を見た。まっすぐ前を向いた目が、なにか、発熱している晶太の写真を撮ろうとしたときのシャラの目のようだと思った。頭の後ろのほうから、すうっと熱が冷めてゆく気がした。女は小さく息を吸うと、一気に語り始めた。
「……何を、大森犀雨先生と話していたか、教えてあげましょうか。
あの方のお祖父様は、東北の硯職人だったのよ。それで、硯石のことにはお詳しいの。そのことばかり話していたわ。
春に大きな地震があったわね。あれで、M県の雄勝硯が大変な被害を受けたのよ。硯石の切り出し場は崩れ、重機は流されて、工房もすべて津波に襲われたんですって。あそこの硯生産量は全国の八割のシェアを占めていたのよ。
それでも、雄勝硯の生産販売協同組合長さんはおっしゃったというの。先代の人々は一から手作りでやってきた。何もかも失っても、わたしたちも一から始めればいいって」
「……」
「硯はもともと海底の泥が固まってできた粘板岩が材料なの。それが、何千万、いえ、何億年かけて固結化したのよ。そのなかでも、縦に割れる、きめの細かい、硯に向いた石を掘り当てるのは至難の業なの。わたしたちの文化は太古からの地球の歴史とつながっている、何があってもこの文化と、永遠の象徴、墨宝と言われる硯の文化を絶えさせてはならない。そしてこの文化のあとを継ぐ者を育てなければ、と熱心に語っていらっしゃったわ。わたしだけじゃなくてホテルのバーラウンジには先生のお教室の出身のかたが数人同席してたわ」
唇の震えに連れて、声までが震えないよう、一度口元を押さえ、そして目元を押さえてから、女は続けた。
「少しはあなたにも、プライドというものがあると、わたしは買いかぶってた。自分を陥れた女の子の呼び出しにホイホイついてくなんて、正直失望したわよ。
あなたにわかる? わたし、人の顔をたたいたのなんて生まれて初めてなのよ。人前であんなふうに汚い言葉で人をののしったのも。墨と、筆とで、静かに生きていくつもりだったのに。もう、自分がしたこととは思えない」そういうと両手で顔を覆った。
少年は冷静な口調で言った。
「気にすることないよ、こっちは叩かれるのも怒鳴られるのも慣れてるから。あんな言葉なんて汚いうちに入らない。
で今わかったけど、お姉さんは、嫉妬でわけわかんなくなっただけだ」
「何ですって?」気色ばんで振り返る女の目の前で、少年は続けて淡々と言った。
「あのサボテンはペヨーテっていって、幻覚作用があるんだ。アメリカ先住民族が儀式で使ったりする。あの日むしゃくしゃして帰って、買っといたやつを試そうと思って、薄く切って煎じてみた。酒と一緒ならいけるかと思って飲んだら糞苦くてすごい吐き気が来たけど、だんだん気分がハイパーになってった。なんか視覚が別次元に行く感覚があってさ、そしたらあいつから携帯に電話があったんだ」
少年は瑠梨との間にあったことを淡々と語った。
『晶太? あたし。わかる?』
「わかるけど、切るぞ。用ないから」
『待って、ちょっと待って。困ったことが起きたの、あんたに関係あること。ていうか、あんたに製造責任があること』
「……」
『そのために九州から東京に出てきたの。どうしても会ってもらわなくちゃ困るの。わかる? わかるなら、今すぐ来て。場所言うから』
どうやってホテルまでたどり着いたか今となっては思い出せないという。気づくと手元の紙袋には何本かの酒と、煎じたサボテン汁がお茶のペットボトルに入っていた。ドアを開けた少女は長かった髪をショートにして、大人っぽい黒いワンピースを着ていた。
「来てくれたんだ」
何かほっとしたような顔で笑うと、ドアを閉めてベッドに寝転んだ。
「本気にしたんだ、あはは。瑠梨感激」
「お前、……」
「こんなに早くわかるわけないじゃん」
瑠梨は起き上がると言葉を失っている少年の前で髪型を見せるように首を傾けた。
「似合う?」
そして今度は表情をただした。
「晶太。あたし、あんたのこと、怖くないからね」
「………」
「本当よ、怖くない。切りたければまたあたしの髪切ってもいい。
たとえ、あんたの本当のお父さんが、たとえ、あたしの聞いたあの……」
「それ以上言うな。殺すぞ」
「いいよ」
瑠梨は立ちあがると、晶太の首に手を回した。
「殺して、晶太。あんたがそうしてくれるなら、あたしは抵抗しない」
いらいらと激しい吐き気と高揚感が固まりになって襲ってきた。
「親なんて二人とも大嫌い、あたしのこと何にも知らないくせに都合のいいことだけ信じる。偽善者で日和見でバカ」
「気持ち悪い。離せ」
「具合悪いの?」
「吐き気はするけど、吐き気の向こうに行っちまえばこんなもの……」
「なにその紙袋。何もってきたの。あたしと一緒にやるため?」
「お前が邪魔したんだ。もう少しで楽しいとこに行けそうだったのに」
「じゃあ二人で行こうよ、二人で楽しくなろう。ね、楽しいことだけしよう」
それがすべて、本当に瑠梨が言ったことか、自分が考えたことかもよくはわからない。この身はどこへも行けないけれど、どこへでもいける魔法の切符がある。その時の二人にとってはそうだった。謝れと言うなら土下座してでも謝るから、あたしといて。あんたの顔が見たくて、それだけでここまで来たの。好きよ、晶太。あたしの断面が見たいなら、あたしを切り刻んでもいい。……それから、天国行きの切符を粉々にして二人で飲み下した。瑠梨の体はそれを受け付けなかった。手を伸ばしても届かない。死ぬのかな。そう思いながら見ていた。裸身の彼女がベッドに吐きつづけるのを……
そこまで語ると晶太は目を閉じたまま言葉を切った。
「晶太。ねむいの?」
「……なにいってんだか、自分でもわかんなくなってきた」
女は窓を閉じるとエンジンをかけた。
「あなたが呼び出しに応じたわけはわかったわ。いきなり叩いたのも、謝ることにする」
ごうと音を立ててエアコンの冷気が吹き出す。シートに斜めに寄りかかった晶太の体は、今にも横倒しになりそうだ。
「これからいったん帰るけど、あなたを家に置いたらわたしは瑠梨ちゃんの病院に行くわ。でもその間、どこにも行かずにおとなしくしているって約束して。もうくたくたなの。わたしだって眠いのよ、わかる?」
「わかる」目を閉じたままつぶやく。
「シャラにご飯もやってね」
「うん」
「じゃあ、あとトイレのウッドチップも」
ずるずると晶太の頭が下がっていってそのままミラーから消えた。