Sランク勇者の俺、無能なやつらに代わって少女救出クエストを最速で終わらせてしまう......だけなら良かったのに
1. 『Sランク勇者の俺、無能なやつらに代わって少女救出クエストを最速で終わらせてしまう』
「アルトさん、ちょうどよかった! 急ぎの依頼が入ってるんです」
ギルドの扉を開けたとたん、受付嬢のフィーナがカウンターから身を乗り出してきた。カウンターの上に胸が乗っているのはたぶんわざとじゃないので、俺は紳士として依頼書のほうへ目を逃がす。
依頼内容は「娘の救出」。ハーゼル村の北にある森で、八歳の娘が盗賊に攫われたらしい。報酬は銀貨十二枚で、Sランクの俺が受けるにはぶっちゃけしょぼい。
「昨日の晩に受けた依頼なんですけど、依頼主さんが今朝もう一度来られて急ぎにしてほしいって。こちらが依頼主のマルタさんです」
フィーナの後ろに痩せた女の人が立っていた。
「リーゼを、娘を助けてください。お願いです!」
「任せてくれ。日が暮れる前に連れて帰る」
俺がそう言うと、奥のテーブルでエールを飲んでいた冒険者たちがざわついた。
「おい、アルトが銀貨十二枚の依頼を受けたぞ」
「マジかよ、あいつがか? 金なんて有り余ってるだろうに」
やれやれ、報酬で仕事を選ぶようになったら、勇者なんて名乗れないだろ。
※ ※ ※
一応、パーティーメンバーを紹介しておこう。
魔法使いのミレイユ。魔法の天才で口数は少ないけど、俺の言うことにはだいたい頷いてくれる。もう一人は僧侶のアンセルムで、三十すぎの小太りのおっさんなんだが......今回は寝坊したせいで付いてきていない。
森に入って半刻ほどしたところで、俺の【気配察知】が四つの反応を拾った。
木立の奥に炭焼き小屋があった。煙突から細い煙が上がっていて、木の焦げる匂いが風に乗って流れてくる。小屋の前では斧を持った男が三人、顔まで真っ黒にして呑気に薪を割っていた。
「盗賊のアジトにしては地味だな」
ミレイユが何か言いかけたが、ちょうどそのとき小屋の窓から金髪の女の子が顔をのぞかせた。依頼書の特徴と一致している。リーゼだ。
「確定だな。行くぞ」
俺は聖剣エクスカリバーを抜いた。刀身が白く輝き、男たちがこっちに気づいて斧を構える。
「待て、話を――
遅い。ミレイユが杖を振ると青い光が男たちに向かっていったのに合わせて、俺もスキルを唱えた。
【スキル発動:神速一閃】
一人目の斧を柄ごと斬り飛ばし、二人目の胴は峰で打つつもりだったのに、ちょっと加減を間違えた。悪党に手加減してやる義理もないけど、子どもの目の前で倒したのは反省点だったな。
残ったのはリーダーらしい髭の男だけだった。片膝をついて、それでもまっすぐ俺を見上げてくる。
「頼む、聞いてくれ――
「言い訳ならあの世でしな」
柄頭で額を打つと、男はそのまま仰向けに倒れて、経験値とアイテムが残った。
「ふ~これで一丁あがりかな。ステータス!」
そう言ってステータス画面を開くと【経験値+12】【錆びた斧】と出ていた。しょぼいが、簡単なクエストならこんなものだろう。
※ ※ ※
小屋の中で、リーゼは藁の上に座っていた。膝を抱えたまま木の椀を両手で持っていて、中の麦のスープからはまだ湯気が立っている。
「もう大丈夫だ。助けに来たぞ」
リーゼは俺の顔を見て、それから戸口の外に倒れている男たちのほうを見た。お礼の言葉は出てこなかったけど、怖い目にあったんだから仕方ない。
遅れてやってきた僧侶がしゃがみ込み、リーゼに【診断】をかけた。
「怪我はひどいのか?」
「いや怪我"は"してないです」
そうか、無事ならそれでいい。村に戻ると、マルタさんが井戸の前で待っていた。リーゼを引き渡すとマルタさんは娘の両肩をつかんだあと、俺のほうを向いて何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございました」
リーゼはお母さんのスカートを握ったまま、一度だけ振り返った。
やれやれ、勇者ってのは報われない仕事だ。
それでもギルドに戻ればフィーナが目を輝かせて駆け寄ってくる。
「さすがアルトさんです! 今回もギルド最速記録ですよ!」
まあ、こういうのも悪くない。
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2.『私が魔法を信じ、魔法をやめるまでの15年』
私は魔女をしていたことがありますと言うと、たいていの人は笑います。冗談だと思うのでしょうし、本気だと分かると今度は少し困った顔をされます。無理もない話です。私自身、いまでは魔法というものをまったく信じていません。
それでもかつての私は、自分の指先から青い光が出ると本気で信じていました。今日はそのころのことを、できるだけ正直に書いてみようと思います。
私は川沿いの小さな村で生まれました。父の顔は知らず、母は私が七つのときに熱病で亡くなってしまいました。
遺産があったのでしばらくは寝る場所と食べるものには困らなかったものの、話し相手はほとんどいませんでした。夜に藁の寝床で天井を見上げながら、自分はこのまま誰にも覚えられずに死ぬのだろうと考えていたのを覚えています。
あの教会に出会ったのは十七の春でした。
市場でとある女性に誘われて、ふらりと集会に入ったのが始まりです。そこでは誰もが私の名前を呼び、私の話を最後まで聞いてくれました。それだけで当時の私には十分すぎるほどだったのです。
そこの教会には「天の粉」と呼ばれるものがありました。葡萄酒に溶かして飲む灰色の粉です。
はじめて飲んだ夜のことは、いまでもはっきり思い出せます。目を閉じると指の先がじんわり熱くなり、開けると手のひらから青い光がこぼれていました。牧師は私の肩に手を置いて、あなたには才があると言ってくれました。
あの粉が何だったのか今なら見当がつきます。けれど当時の私はようやく自分にも特別な何かがあったのだと、泣きながら喜んでいました。
それから長いあいだ、私は教会の魔女として村々を回りました。
頼まれるのは雨乞いや病気の牛の手当て、失くした指輪探しといった小さな仕事です。うまくいったこともあれば、まったく駄目だったこともあります。雨はたいてい三日も待てば降りますし、牛は放っておいても治るときは治るものです。そういう当たり前のことに、私は一度も気づきませんでした。
会にいた十五年の、最後の年のことです。私は領主様の三男坊のお供をすることになりました。
領主様と教会のあいだにどんな取り決めがあったのか、下っ端の私には知らされていません。ある日牧師に呼ばれて、これからはあの若様について回るようにと言われただけでした。
若様は勇者を名乗っていました。自分には神に選ばれた剣の才があると本気で信じていて、酒場で隣に座った人には誰彼かまわずその話をします。正直に言うと、私は若様が剣を振るところをほとんど見たことがありません。
リーゼという女の子が森で行方知れずになったのは、ちょうどその頃です。
あの朝も私は粉を飲んでいます。若様がリーゼを助けると言って急かされて森へ入ったときには、もう足元の草がうっすら青く光って見えていたはずです。
森の奥の小屋に、男が三人いました。女の子の腕を掴んでいるのが見えて、私は考えるより先に前へ出ていました。魔法が使えると信じていたからこそできた、まったく無謀なふるまいです。相手が本物の悪党だったなら、私はあそこで死んでいたでしょう。
ところがそのときは、なんとか偶々その男たちを倒すことができました。いま振り返っても、あれはあまりにあっけなかったと思います。粉で頭のぼやけた女が両手を掲げただけで、大の男が三人も倒れるものでしょうか。
そのことを考えるうちに、私はひとつの疑いを持つようになりました。もしかしたら領主様は、跡を継げない三男に何か箔をつけてやりたかったのではないか。そのために教会と組んで、若様が手柄を立てられる依頼をわざわざ用意していたのではないか。そう考えると、若様の受ける依頼がいつも妙に都合よく片づくことにも説明がつきます。
若様によれば、倒したのは自分なのだそうです。私が覚えているかぎり若様はずっと私の後ろにいたのですが、それを言い出す気にはなれませんでした。
あの男たちがその後どうなったのか、私は知りません。女の子が何を持っていたのか、どんな顔をしていたのかもほとんど覚えていません。だけれど青い光ばかりがいまでも妙にくっきりと目の奥に残っています。
教会を抜けたのは、それからひと月ほど後のことです。
あの草地で、私は初めて自分の魔法が怖くなりました。人を助けるつもりで飛び出したのに自分が何をしたのかが分からない。それからはまたあの粉を使うのがたまらなく恐ろしかったのです。
粉を断つのは簡単ではありませんでした。最初の冬は手の震えが止まらず、夜になると部屋の隅が青く光って見えます。それでも春が来るころには、少しずつ眠れるようになっていきました。
いまの私は、隣村の別の教会で写字室で帳簿や手紙の清書をして暮らしています。地味な仕事ですが、自分の書いた字が紙の上に残っているのを見ると、ここにいていいのだと思えるのです。
魔法は使えませんでした。それでもあの十五年がなければ、私はこの仕事にも、この文章にもたどり着いていなかったでしょう。
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3.『よりみちしたリーゼ』
ある村に、リーゼという女の子がすんでいました。
リーゼはお母さんとふたりぐらしです。お母さんはいつもやさしくて、リーゼはお母さんのことが大すきでした。
とある日、私がねぼけてベッドのはしにうでをぶつけてあざができた日のことです。お母さんはリーゼにかごをわたして言いました。
「森のむこうのおばあさんのところへ、パンとぶどう酒をとどけておくれ。ただし森の道からはずれてはいけないよ」
「はあい」
リーゼは元気よくへんじをして、かごをうでにかけました。森の道を歩いていくと、道のわきに青い花がさいているのが見えました。
「すこしだけなら、いいよね」
リーゼは道からはずれて、花をつみはじめました。一本つむとそのむこうにももっときれいな花が見えます。かごをおいて、もう一本、もう一本とつんでいるうちに、リーゼは森のずっとおくまで来てしまいました。
すると、木のかげから男の人がふたりあらわれます。
「おじょうちゃん、もっときれいな花がさいているところを知っているよ。いっしょにおいで」
リーゼは男の人たちについていきました。
しらない人についていっちゃだめって、がっこうでならったのに。
しばらく歩くと、男の人たちはきゅうにリーゼのうでをぎゅっとつかみました。
「いたい、はなして」
リーゼがないても、男の人たちははなしてくれません。そのうちに日がくれて、森はまっくらになってしまいます。リーゼはつれられた小屋のなかで、お母さんのことを考えながら夜をすごしました。
つぎの日の朝、森のおくにべつの人たちがやってきました。
その人の一人が男の人たちへむかって走ると森いっぱいに青い光がひろがります。まほうです。わるい男の人たちは、光のなかでぱっときえてしまいました。
リーゼがびっくりしていると、男の人はリーゼの前にしゃがんで言いました。
「だいじょうぶかい? もうあんしんだよ」
それからもうひとり、くしゃっとしたお顔の男の人がやってきて、リーゼの手首にそっとさわり、かおをじっと見ました。その人はリーゼのうでのあざを見ると、すこしこまったかおをします。
村にもどると、お母さんが走ってきます。お母さんはリーゼのそばへ来ると、いつものようににっこりわらいました。
「ああ、よかった。帰ってきたのね」
それからお母さんは男の人たちのほうをむいて、何回もおれいを言いました。そのあいだも、お母さんの手はリーゼのあたまをずっとなでています。
リーゼは、お母さんがとてもしんぱいしてくれていたのだと思いました。
かごは、森のどこかにおいてきてしまいました。パンとぶどう酒は、おばあさんのところへとどかないままです。
その夜、リーゼはベッドの中でかんがえました。
お母さんの言うことをちゃんときいていれば、こわいことはおこらなかったのです。わるかったのは、よりみちをしたリーゼでした。
リーゼは、もう二どとよりみちはしないと心にきめました。
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4.『Abuse』
私が森の中の小屋へ辿り着いた時には、事はもう済んでいた。
領主家の三男は抜身の剣を提げたまま、幕の下り損ねた舞台に取り残された役者のように、草地の真中に突っ立っていた。私の方を振り返ると、遅いと唯一言云った。朝になって急に呼び出したのは三男のほうで、到底間に合うわけがない。尤もそれを口にしたところで、彼の頭は雨を弾く油紙のようなものであるから、私は黙って息の整うのを待った。
私が此の三男に関っているのは父の代から領主家の世話になっているという、唯それだけの因縁による。三男が物語で読んだと云う勇者の真似事を始めた折、医者を用意して置けと提案したのは領主夫人であったらしい。
草地には死骸がなかった。
血の痕もない。踏み拉かれた草の具合から見て、何人かが此処で揉み合ったことは確かである。が、斬り合いがあったにしては地面が余りに綺麗すぎた。三男は三人も斬ったと云い、わざわざ刃を私の眼の前へ差し出して見せさえした。しかし、その刃は今朝研がれた時のまま、曇り一つ帯びていないように見える。
見栄の為に斬ったと云ったが、男たちは恐らく逃げたのであろう。剣を振り廻す若者を前にして、命を賭けてまで子供を抱えていようとする人攫いなどは、先ずこの世にあるまい。
少女は草の上に、置き忘れられた人形のようにぺたりと坐り込んでいた。
私は薬籠から酒精の小瓶を取り出し、自分の両手に振りかけて丹念に擦り合わせた。手首に指を当てると、脈は籠の中の小鳥のように速いが乱れはない。顔色も悪くはなかった。三男はこれを回復魔法と呼んでいるが私はまだ一度もそれを訂正したことがない。
気にかかったのは寧ろ腕の痣の方である。
左の二の腕に、痣が点々とある。中心は熟れ過ぎた李のような紫に沈んでいるものの、縁はもう枯葉の色に黄ばみかけていた。少くとも五日、恐らくは七日ほど前のものに違いない。森で男に掴まれて出来た痣が一晩で此の色に変る筈はないのである。
「これはどうしたのかね」
そう尋ねると、少女は少し考えてから、今朝寝惚けて寝台にぶつけたのだと答えた。少女はまだ何か云い足そうとして唇を動かしたが、私はもう痣の数を数えていた。子供の言葉というものは、医者にとっては熱に浮かされた譫言と大差がない。
小屋の中には、少女のものらしい籠が一つ転がっていた。
覆いの布を捲って見ると、子供の肌着と替えの上着とが畳んで入れてあり、その下には銅貨が十枚ばかり端切れに包んで押し込んである。それは雛鳥が巣の底に隠した木の実のように慎ましく、また必死であった。三男が云うような祖母の家へ届ける筈だったというパンと葡萄酒は、何処にも見当らない。
祖母を訪ねる子供に、着替えや銭の要る道理はない。それが要るのは、帰らぬつもりの子供だけである。
少女は自ら家を出たのだ。森で男たちに見つかったのが災難だったのか、それとも銭を払って彼等に連れ出して貰うつもりだったのか、いずれであっても大した違いはない。彼女が逃れようとしたのは母親である。腕の痣がもう雄弁に語っている以上、それ以外の答えを探すのは解けた謎を態々もう一度結び直すような徒労に過ぎまい。
村へ戻ると、母親が泣きながら駆けて来て娘を抱きしめた。
三男は此の光景にすっかり満足したらしく、凱旋将軍のように胸を反らせて礼を受けている。母親は何度も頭を下げ、その度に娘の頭をも下げさせたが、その母親の眼は始終男の顔の上から離れなかった。娘は母親の腕の中で暴れもせず泣きもせず、風の止んだ後の旗のように唯おとなしく抱かれている。
子供というものは奇妙な生き物で、火に集る虫のように、自分を傷つけた相手の許に帰る場所を求めるらしい。或は、帰る場所がそこにしかなかったのかも知れない。私にはどちらも同じことのように思われる。
※ ※ ※
三日の後、私は経過を診るという名目でその家を訪ねた。
母親は井戸端で洗い物をしていたが、私に気がつくと、濡れた手を前掛けで拭った。娘は家の中にいると云う。戸口から覗いて見ると、リーゼは竈の前に踏台を据え、その上に乗って鍋を掻き廻していた。
「リーゼ、火の傍へ寄るなと云ったでしょう」
母親の声は鞭の鳴るように鋭く戸の外まで響き、言葉の終らぬうちに娘を踏台から下ろしている。右手の人差指の先には小さな水脹れが出来ていた。どうしたのかと訊くと、鍋の縁に触ったのだと云う。痣のことを訊いた時と同じく答えるまでに少しの間があった。予め教えられた答えを思い出すには、それだけの手間が要るのである。
「お母さんがね、熱いから触っちゃだめって――
娘はそう続けかけたが母親の口真似をする子供ほど、母親の拵えた筋書を忠実に演じている者はない。母親は私の問いの一つ一つに丁寧に答えたが、腰を下ろすよう勧めることは遂に最後までなかった。
二度目に訪ねたのは、それから四日の後である。
家の裏手でリーゼは隣家の男の子と並んでしゃがみ、木の枝で地面に何か描いていた。私が此の子の笑い声を聞いたのは、その時が始めてである。が、私が近づくと、その笑いは指で摘まれた蝋燭の火のようにふっと消え、娘は枝を握ったまま立ち上った。
髪に枯葉がついていたので、取ってやろうと手を伸ばすと、娘は打たれ慣れた仔犬のように肩を竦めて半歩退いた。手を上げる大人の前でどう身を縮めればいいか、此の子の体はもう覚えてしまっているのである。
「......ごめんなさい。先生の手、知らない匂いがしたから。」
娘は小さな声でそう云った。そんな云い訳まで用意されていることが、却って私の確信を深めた。殴られる子供は、殴られる理由と同じくらい怯える理由をも上手に拵えるものだ。
三度目は、丁度夕餉の時分に行き合せた。
卓の上には黒パンが一つきりしかない。母親はそれを二つに割り、大きい方を娘の椀の傍に置き、自分は小さい方を少し齧っただけだ。私が訪問するからと咄嗟に食事を変えたのだろうが誤魔化せていない。人の眼のある所でだけ見せる手つきというものは、大抵こういう形をしているものだ。
帰り際に、母親は戸口まで私を送って来た。
「先生、申し訳ないのですけれど、もうお越しにならないでいただけませんか。先生がいらした晩は、この子がうなされるんです。」
母親の肩越しに、卓の傍の娘が此方を見ていた。その眼が何を訴えていたのか私は考えるまでもなく知っていた。
私は承知したと答えた。隠すもののある者ほど、戸を閉すのも早い。うなされるのは、私が来た晩に限って母親の機嫌が悪くなるからであろう。やはりそうかと思いながら、私は近いうちに此の事を村の者へ話して置こうと考えた。




