表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第6話:デストロイヤーの要求

 富士川の戦い、前夜。  頼朝の本陣周辺は、決戦を前にした緊張感と、規律を重んじる鎌倉武士たちの静粛な空気に包まれていた。だが、その静寂を切り裂くように、一人の男が土足同然で踏み込んできた。

「おい、兄貴。……いや、鎌倉殿。あんたの命令通り、俺たちは死地へ飛び込む『おとり』を引き受けてやるよ」

 菅野(義経)は、並み居る御家人たちの視線を鼻で笑い飛ばし、頼朝の目の前で地図の置かれた机を叩いた。 「だがな、タダで命を張れるほど、俺の部下たちはお人好しじゃねえんだ。……あいつらは、俺が奥州から連れてきた最高の機体からだを持った野郎どもだ」

「……何が望みだ、九郎」  頼朝の冷徹な瞳が、弟を射抜く。

「最高にうまい飯と、本物の酒を用意しろ! 死ぬ前の景気づけだ。腹が減ってりゃ、まともな旋回うごきもできねえんだよ!」

 周囲の武士たちが「無礼千万」「戦を何だと思っている」と騒ぎ立てるが、菅野は意に介さない。  かつての三四三空でも、彼は出撃前に部下たちへ最高の食事を出すことに執着した。命を懸けて空へ上がる男たちに、飢えたまま墜ちる(しぬ)ことだけは許せなかったのだ。

「……よかろう。望むだけの酒と食料を、九郎の陣へ運べ」  頼朝は短く応じた。この型破りな要求が、部下たちの士気を極限まで高めるための「指揮官としての狂おしいほどの情」であることを、冷徹な頼朝だけは見抜いていた。

 義経の陣に戻ると、酒樽と肉の山が積み上げられていた。 「野郎ども! 遠慮なく食え、浴びるほど飲め! ……これは、俺が鎌倉の司令部から分捕ってきた『褒美ほうび』だ!」

 歓声が上がる。名もなき足軽たちが、初めて口にする贅沢な食事に目を輝かせる。 「……ただし、明日の夜明けには全員、酒を抜いて機体からだを仕上げとけよ。……墜ちる奴は、俺が叩き斬る!」

 菅野の怒声に近い激励に、兵たちは「応ッ!」と地鳴りのような声を上げた。  隅でそれを見ていた弁慶(庄一)は、目頭を熱くして呟いた。 (……あんたのそういうところが、俺たちはたまらなく好きだったんだ。……大将。今度は、あんたを一人で未帰還にはさせねえ)

 一方、与一(鴛淵)は、届いたばかりの良質な矢の束を一本ずつ吟味しながら、静かに微笑んだ。 「……最高級の燃料めしに、整備の行き届いた機材。……これなら、目標ターゲットを外す言い訳はできませんね、隊長」

 酒の香りと笑い声。  鎌倉の軍勢の中で、そこだけがまるで異質な「空戦部隊の待機所」のような、熱く、そして研ぎ澄まされた空気に満たされていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ