第6話:デストロイヤーの要求
富士川の戦い、前夜。 頼朝の本陣周辺は、決戦を前にした緊張感と、規律を重んじる鎌倉武士たちの静粛な空気に包まれていた。だが、その静寂を切り裂くように、一人の男が土足同然で踏み込んできた。
「おい、兄貴。……いや、鎌倉殿。あんたの命令通り、俺たちは死地へ飛び込む『囮』を引き受けてやるよ」
菅野(義経)は、並み居る御家人たちの視線を鼻で笑い飛ばし、頼朝の目の前で地図の置かれた机を叩いた。 「だがな、タダで命を張れるほど、俺の部下たちはお人好しじゃねえんだ。……あいつらは、俺が奥州から連れてきた最高の機体を持った野郎どもだ」
「……何が望みだ、九郎」 頼朝の冷徹な瞳が、弟を射抜く。
「最高にうまい飯と、本物の酒を用意しろ! 死ぬ前の景気づけだ。腹が減ってりゃ、まともな旋回もできねえんだよ!」
周囲の武士たちが「無礼千万」「戦を何だと思っている」と騒ぎ立てるが、菅野は意に介さない。 かつての三四三空でも、彼は出撃前に部下たちへ最高の食事を出すことに執着した。命を懸けて空へ上がる男たちに、飢えたまま墜ちる(しぬ)ことだけは許せなかったのだ。
「……よかろう。望むだけの酒と食料を、九郎の陣へ運べ」 頼朝は短く応じた。この型破りな要求が、部下たちの士気を極限まで高めるための「指揮官としての狂おしいほどの情」であることを、冷徹な頼朝だけは見抜いていた。
義経の陣に戻ると、酒樽と肉の山が積み上げられていた。 「野郎ども! 遠慮なく食え、浴びるほど飲め! ……これは、俺が鎌倉の司令部から分捕ってきた『褒美』だ!」
歓声が上がる。名もなき足軽たちが、初めて口にする贅沢な食事に目を輝かせる。 「……ただし、明日の夜明けには全員、酒を抜いて機体を仕上げとけよ。……墜ちる奴は、俺が叩き斬る!」
菅野の怒声に近い激励に、兵たちは「応ッ!」と地鳴りのような声を上げた。 隅でそれを見ていた弁慶(庄一)は、目頭を熱くして呟いた。 (……あんたのそういうところが、俺たちはたまらなく好きだったんだ。……大将。今度は、あんたを一人で未帰還にはさせねえ)
一方、与一(鴛淵)は、届いたばかりの良質な矢の束を一本ずつ吟味しながら、静かに微笑んだ。 「……最高級の燃料に、整備の行き届いた機材。……これなら、目標を外す言い訳はできませんね、隊長」
酒の香りと笑い声。 鎌倉の軍勢の中で、そこだけがまるで異質な「空戦部隊の待機所」のような、熱く、そして研ぎ澄まされた空気に満たされていた。




