第5話:一撃離脱(ヒット・アンド・ラン)の軍議
黄瀬川、義経隊の天幕。 頼朝の本陣から離れた、軍の端に追いやられた粗末な幕舎。その中には、灯明の僅かな光に照らされた三人の男たちがいた。
「……まともに『囮』なんてやる気はねえ。これは、一撃離脱だ」
菅野(義経)が、広げられた粗末な地図を拳で叩いた。その瞳には、勝ち目のない空戦を幾度も覆してきたエースパイロットの冷徹な計算が宿っている。
「殿。……鎌倉殿の命は、我らが正面に陣を張り、敵を釘付けにすること。……文字通り、肉の壁となれと仰せです。それでは、足軽たちが……」
弁慶が、太い眉を潜めて低く唸った。その脳裏には、かつて大将を逃がすために盾となって散った、自分自身の最期がよぎっていた。今度は、大将にも、そしてこの名もなき兵たちにも、そんな真似はさせたくない。
「分かってる。だから、正面からぶつかるなんて馬鹿な真似はしねえ」 菅野は、懐から取り出した南部十六年式の銃身を弄びながら、不敵に笑った。
「いいか。……与一(鴛淵)。お前は、敵の有効射程外から、指揮官の喉元だけを狙い撃て。……混乱が起きたその一瞬、俺と弁慶が最大出力で中央を食い破る。……敵が体制を立て直す前に、俺たちは反転して離脱するんだ」
与一は静かに頷き、愛弓の弦を指先で弾いた。 「……精密な一撃。……了解いたしました。敵の『指揮官機』、必ずや沈めてご覧に入れましょう」
「殿。……それは武士の誉れある一騎打ちを、根底から否定する戦い方。……鎌倉の御家人たちが黙ってはおりますまい」 弁慶が懸念を口にするが、その声には、かつての指揮官の無茶苦茶な合理主義に対する、隠しきれない歓喜が混じっていた。
「誉れだぁ? ……そんなもんで腹は膨れねえし、墜ちた(死んだ)奴らは生き返らねえ。……俺の作戦はたった一つだ。『全機(全兵)、生還せよ』。……頼朝の野郎には、俺たちが全滅したように見せかけて、実際には敵の首を獲って悠々と帰還してやる」
菅野は立ち上がり、天幕の隙間から見える夜空を仰いだ。 「……おい、野郎ども。離陸の準備はいいか。……俺たちが描く軌跡が、そのままこの時代の『教科書』になるんだ。……墜ちる暇もねえくらい、速く駆け抜けるぞ!」
「……了解いたしました、隊長」 与一(鴛淵)が、前世の階級を胸に秘めたまま、静かに頭を垂れた。
「ガハハハッ! 承知いたしましたぞ、殿! ……二番機、弁慶。……地獄の果てまで、その背中を守り抜きましょう!」
暗雲漂う富士川の夜。 平安の戦の常識を根底から破壊する「デストロイヤー」の、最初にして最大の反逆が始まろうとしていた。




