第4話:黄瀬川の乱気流
**1180年10月。駿河国、黄瀬川の陣。**
富士川の戦いを目前に控え、源氏の白旗が秋風に激しくたなびいていた。
菅野(義経)は、生まれて初めて対面する「兄」源頼朝の前に平伏していた。
奥州から一気に駆け抜けてきた熱量は、頼朝から発せられる零下十度の冷気によって、瞬時に凍りついた。再会の喜びを期待していたわけではない。だが、頼朝の瞳にあるのは肉親への情ではなく、新しく届いた「兵器」を検品するような、事務的で冷徹な視線だった。
「よく来た、九郎。お前の働き、期待しているぞ」
頼朝の声は、冬の高度八〇〇〇メートルで結晶化した氷のようだった。
彼が提示した初陣の作戦――それは、義経の部隊を「囮」として敵の正面に晒し、平家を誘い出すという、非情な消耗戦だった。
「……兄上。この作戦では、俺の部下の半分が戻ってこれません」
菅野は顔を上げ、頼朝を凝視した。その瞳には、かつて理不尽な命令を下す上層部を睨みつけた「デストロイヤー」の鋭さが宿っている。だが、頼朝は眉一つ動かさず言い放った。
「戦に犠牲はつきものだ。組織を作るには、個の命など塵に等しい」
菅野の右拳が、怒りに震える。
(……ケッ、どいつもこいつも、安全な管制室に引きこもって、現場の高度を無視しやがって……!)
このまま、この冷え切った「司令官」を壊し、弁慶たちを連れてどこか遠い空へ飛んでやる。その考えがよぎった瞬間、背後に控える弁慶(庄一)の、震えるような忠義の気配が伝わってきた。
(……俺一人なら、今すぐブチ壊して逃げられる。だが、こいつらはどうなる。俺が墜ちれば、この『編隊』は全滅だ)
菅野は、深く、長く、吐息をついた。そして再び、額を土に擦りつける。
「……承知いたしました、鎌倉殿。この九郎、貴殿の命に従いましょう」
頼朝が去った後、菅野は無言で陣を後にした。その歩みは、かつて出撃前に整備員たちの顔を見つめて歩いたあの時のように、重く、切実だった。
陣の端。一振りの強弓を抱え、夜空の月を眺める一人の武者がいた。
「那須の与一と申します。……九郎殿、あなたの『風』は、とても悲しい音がしますね」
その声。静寂の中にありながら、針の穴を通すような精密な響き。
菅野の脳裏に、かつて厚木の空で編隊を組み、常に冷静に敵を撃墜し続けた、あの高潔な戦友――**鴛淵孝**の姿が重なった。
「……与一、か」
菅野は不敵に口角を上げた。
「悲しい音、だと? ……だったら、今すぐ爆音に変えてやるよ。……おい、お前。俺の『一番機』に付いてくる勇気はあるか?」
与一――鴛淵は、静かに弓を構え直し、月を射抜くように目を細めた。
「……了解いたしました。高度、速度、共に……殿(隊長)に合わせましょう」
ここに、平安の世を震撼させる最強の三機編隊が、ついに完成した。




