最終話:不滅のデストロイヤー(衣川の最後の一機)
文治五年(1189年)閏四月。奥州、衣川館。 数百騎の鎌倉勢に包囲された高館は、紅蓮の炎に包まれていた。雨のように降り注ぐ火矢。崩落する屋根。だが、その地獄のような熱気の中にあって、菅野(義経)の心は驚くほど澄み渡っていた。
「……ケッ。燃料漏れ(火災)かよ。……景気がいいじゃねえか」
菅野は、煤けた顔で不敵に笑い、手にした南部十六年式の残弾を確認した。最後の一発。 傍らには、満身創痍の弁慶(庄一)と、矢を使い果たし太刀を抜いた与一(鴛淵)が立っていた。
「殿。……敵の包囲網、十重二十重。……もはや、地上に脱走路はございませぬ」 与一が、静かに報告する。その声は、かつて高度一万メートルで絶望的な数に囲まれた時と同じ、揺るぎない「隊長」の響きだった。
「ガハハハッ! 地上に道がねえなら、空へ跳ぶまでよ! ……大将、今度こそ……今度こそ、あんたを一人で逝かせやしねえ。……俺が、あんたの盾(二番機)だッ!!」
弁慶が、巨大な長刀を振るい、館の門前に立ちはだかった。 押し寄せる鎌倉武士たち。だが、弁慶の放つ「殺気」の圧力に、誰もが一歩も近づけない。 矢が刺さり、刀に斬られ、血反吐を吐きながらも、弁慶は仁王の如く立ち続けた。 それは武士の意地ではない。二度と「一番機」を未帰還にしないという、時空を超えた執念だった。
「……庄一。……お前、最高の二番機だったぜ」
菅野は、背後で動かなくなった弁慶の背中に、静かに声をかけた。 そして、燃え盛る堂の奥。菅野は与一と視線を交わした。
「与一。……準備はいいか。……ここは、俺たちの『離陸地点』だ」 「了解いたしました、隊長。……針路、北北西。……高度、無限大」
二人は、炎の中に飛び込んだ。 鎌倉勢が館に踏み込んだ時、そこには立ち往生を遂げた弁慶の遺体と、もぬけの殻となった奥堂があるだけだった。義経の遺体は見つからず、ただ、床には平安の世には存在し得ない、不思議な「鉄の塊(南部十六年式)」が、一発の空薬莢と共に転がっていたという。
同時刻。衣川の上空。 燃える館を見下ろしながら、夜空を北へと切り裂く「三つの光」があった。 それは、重力を振り切り、歴史という名の高度制限を突破した、不滅のデストロイヤーたちの航跡。
「……よし。全機、離陸成功だ。……これより、我ら義経隊は……誰も知らない空へ向かう」
無線機から聞こえるはずのない、だが確かな菅野の声が、夜風に混じって響いた。
「……一番機、菅野。……二番機、杉田。……三番機、鴛淵。……編隊、異常なし。……司令、見てるかよ。……俺たちは、まだ墜ちちゃいねえぞッ!!」
北の果て。蝦夷、そしてさらにその先の未知なる空へ。 三機編隊のエンジン音(咆哮)は、星々の彼方へと消えていった。
後に人は、これを「義経北行伝説」と呼ぶ。 だがその真実を知る者は、この空のどこかに、今もなお自由な旋回を続ける「最強のデストロイヤー」たちがいることを、信じて疑わない。
【義経伝説、実はデストロイヤーだった件 ― 完】




