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第2話:二番機の帰還

 1174年、京。五条大橋。 月光が白く照らす欄干に、遮那王(菅野直)は腰掛けていた。 手に持った林檎を無造作にかじり、眼下の暗がりを睨み据える。

「……ケッ、どいつもこいつも『平家、平家』ってよ。目障りな編隊がのさばりやがって。制空権そらの使い方も知らねえ素人ルーキーどもが」

 その言葉は、ガソリンの匂いと高度一万メートルの冷気、そして死線を越えてきた者だけが持つ鋭さを帯びていた。

 そこへ、地鳴りのような足音が近づいてきた。 現れたのは、並外れた巨躯の僧・弁慶。その背には七つ道具を背負い、月光を浴びた大長刀が鈍く光る。

「……九百九十九本。あと一本で、千本の刀が揃う」

 地鳴りのような低い声。だが、その声が鼓膜に触れた瞬間、菅野の背筋に奇妙な電流が走った。

(……この、腹に響く声。どこかで……?)

「おい、そこのデカブツ」

 菅野は欄干からひらりと飛び降り、僧の前に立ちはだかった。

「その長刀、俺が墜としてやろうか?」

 弁慶が足を止めた。面頬の奥で、鋭い眼光が遮那王を射抜く。

「……小癪な童よ。その腰の太刀、千本目の供物にさせてもらおう」

 弁慶が大長刀を薙ぎ払う。空気を引き裂く凄まじい風圧。 だが、菅野はその場から消えた。

「――遅えんだよ! 爆撃機デカブツが!」

 長刀の柄を足場にして跳躍し、空中で一回転。 左右への急旋回、垂直方向への逃げ、そして重力を嘲笑うような予測不能の再接近。 それは平安の武者が知るはずのない、極限の空で培われた「空の機動マニューバ」だった。

(……間違いない。この、不敵な笑い。無茶苦茶なキレの良さ……!)

 弁慶――杉田庄一の魂が、面頬の奥で激しく震えた。 自分は先に墜ちた。大将を一人残して、地獄へ先回りしてしまった。その悔恨が、今、圧倒的な歓喜へと塗り替えられていく。

(……ダメだ。今はまだバラしちゃいけねえ。大将には、この時代を思い切り暴れ回ってもらう。――今度は、絶対に、俺が先に墜ちたりしねえ……!)

 弁慶は、わざとらしく豪快に笑ってみせた。

「ガハハハッ! 愉快、愉快! これほど自在に動く稚児は見たことがない!」

 弁慶は長刀を捨て、その場に膝をついた。

「負けた。完敗だ。……これよりこの弁慶、貴殿の家来となり、その背中を守る盾となりましょうぞ!」

 菅野は拍子抜けしたように眉を寄せ、鼻を鳴らした。

「……へっ、物好きなデカブツだな。いいか、俺のケツを守るってんなら、相当な覚悟が必要だぜ?」

「望むところでございます……殿!」

 弁慶は深く頭を垂れた。菅野には見えないその顔は、再会の涙でぐしゃぐしゃになっていた。 前世で果たせなかった「一番機を最後まで守り抜く」という誓い。 今、平安の空の下で、最強の二番機がその翼を再び広げた。


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