第20話:司令官の最期(平泉の黄昏)
文治三年(1187年)冬。奥州、平泉。 辿り着いた母艦は、白銀の世界に包まれていた。だが、出迎えたのはかつての栄華の音ではなく、凍てつくような静寂だった。
奥州の覇者、藤原秀衡(源田実)は、病床に伏していた。かつて数多の若き翼を大空へ解き放ったその眼差しは、今や落ち窪み、命の灯火が消えかけている。
「……九郎。……遅かったな。……燃料が、もう底を突きかけている」
菅野(義経)は、静かに秀衡の枕元に跪いた。その瞳には、かつて厚木の基地で、あるいは大村の工廠で、自分たちを叱咤激励した「司令官」への、言葉にならない敬意が溢れていた。
「……ケッ。……司令。あんたがエンジントラブルなんて、冗談じゃねえぞ。……俺たちの『管制』は、誰がやるんだよ」
秀衡は、枯れ木のような手で、菅野の拳を力強く握り返した。その掌の熱だけは、かつて三四三空を創設したあの情熱のままだった。
「いいか、九郎。……頼朝は、もうすぐここへ攻めてくる。……あいつの作る『システム(鎌倉)』に、お前のような自由な翼は必要ないのだ。……だがな、九郎。……お前がこの時代に墜ちてきたのは、頼朝に屈するためではない」
秀衡(源田)は、傍らに置かれた一振りの太刀と、奥州の全戦力を記した巻物を菅野に託した。
「……お前の『編隊』を、ここで終わらせるな。……さらなる高みへ、誰も届かない高度まで……飛べ。……九郎。……お前は、私の最高傑作だ」
その言葉を最後に、源田実――藤原秀衡の鼓動は静かに止まった。 偉大なる管制官の「沈黙」。それは、義経隊にとって、この平安という時代における唯一の帰還場所を失ったことを意味していた。
「……司令。……了解したぜ」
菅野は、冷たくなった秀衡の手を離し、ゆっくりと立ち上がった。 背後には、同じく涙を堪え、不動の姿勢で敬礼を送る弁慶(庄一)と、静かに弓を抱えて天を仰ぐ与一(鴛淵)の姿があった。
「……野郎ども。……司令からの『最終命令』だ。……これより、我ら義経隊は……既存の歴史を外れる」
菅野は、南部十六年式を抜き放ち、冬の夜空へ向けて一発、乾いた音を響かせた。
「目標、衣川。……そこが、俺たちの最後の『離陸地点(滑走路)』だ。……全機、最大出力! ……誰一人、遅れるんじゃねえぞッ!!」
司令官を失い、孤立無援となった三機編隊。 だが、その魂はかつてないほど高く、熱く、燃え上がっていた。 伝説の終焉にして、真の「デストロイヤー」としての覚醒。




