第18話:腰越状と「最後通牒」
元暦二年(1185年)五月。相模国、腰越。 鎌倉まであと一歩という砂浜で、義経隊は進軍を阻まれた。目の前に広がるのは、頼朝の命を受けた北条時政の軍勢。実の兄による、事実上の「入域拒否」だった。
「……ケッ。着陸許可が降りねえってか」
菅野(義経)は、波打ち際に馬を止め、潮風に吹かれながら鎌倉の方角を睨み据えた。 傍らには、代筆の文官が震える手で筆を握っている。世にいう「腰越状」の執筆だ。通常ならば、兄への情を乞い、忠誠を誓う悲痛な嘆願書になるはずだった。
「おい、書け。……『鎌倉殿。あんたの高度制限(ルールの押し付け)には、もう辟易してる』とな」
文官が絶句した。「そ、そのような文面では、火に油を注ぐも同然……!」 だが、菅野の瞳には、かつて理不尽な命令を下す大本営に対し、報告書で「バカ野郎」と叩きつけたデストロイヤーの魂が再燃していた。
「構わねえ。続けろ。……『俺たちは、地上の命令で飛んでるんじゃねえ。この空を守るために、自らの意思で旋回を決めてるんだ』。……それから、最後にこう付け加えろ。……『これ以上、俺の編隊の進路を塞ぐなら、……次は墜としに行くぞ』」
それは嘆願書ではない。現場の指揮官が、後方の管制塔へ突きつけた**「最後通牒」**だった。
「殿……。……それでこそ、我らが一番機」 弁慶(庄一)が、面頬の奥で低く笑った。彼は知っている。大将が誰かに膝を屈して生き延びることなど、エンジンを止めて墜落するのと同じ苦痛であることを。
「……了解いたしました。……これで、我らと鎌倉の『周波数』は完全に断絶しましたね」 与一(鴛淵)が、静かに弓を構え直す。彼の視界には、もはや身内としての頼朝軍ではなく、排除すべき「敵機」のシルエットが映っていた。
届けられた書状を読み終えた頼朝は、あまりの不遜さに震え、その紙を握り潰したという。 「……九郎。お前は、どこまでも一人で飛び続けるつもりか」
鎌倉の空を覆う暗雲。 義経隊は、兄との決別を告げ、馬首を北へと返した。向かうは、かつて自分たちを受け入れた唯一の「母艦」、奥州・平泉。
「野郎ども、進路変更だ! ……針路、北北東! ……高度を上げろ、平泉まで全速で突っ走るぞッ!!」
源氏の英雄から、国家の叛逆者へ。 デストロイヤーたちの翼は、ついに既存の歴史という名の滑走路を飛び出し、未知の空へと舞い上がった。




