表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

第17話:翼の故郷(肥前・大村)

 壇ノ浦の波が静まり、平家という巨大な編隊が海に沈んだ後。  菅野(義経)は軍勢を東へ返す前に、吸い寄せられるように西へと馬を向けた。辿り着いたのは、肥前の国――大村の地。

「……ここだ。……間違いない。……ここには、最高の『鉄の翼』を作る野郎どもがいたんだ」

 菅野は馬を降り、大村の土を無造作に掴んだ。  かつてこの地には、大村海軍航空隊があり、そして何より自分たちの愛機「紫電改」を産み出した工廠があった。風の中に、微かに油の匂いと、鋼を叩く鎚の音が混じっているような気がした。

「殿。……この肥前の地、何か特別ないわれでもございますか?」

 弁慶(庄一)が、馬の手綱を握り締めながら問いかける。その瞳もまた、大村の空を泳いでいた。 (……大村。……俺たちの機体からだを、あんなに強く、速く造ってくれた、職人おやじたちの街だ……!)  弁慶は心中で叫びたい衝動を、武士の無骨な面構えで押し殺していた。

「……ああ。ここにはな、俺の『一番機』を、最高に仕上げてくれた野郎どもがいたんだ。……そいつらが叩いた鋼は、どんな弾丸つぶても跳ね返した。……その鋼の魂が、今でもこの地面の下で眠ってやがる」

 菅野は、腰に差した太刀の柄を愛おしそうに撫でた。それは武士の魂としての刀ではなく、自分を空へ運んでくれた「機械」への、技術者たちへの、最大級の敬意だった。

「……殿。この地の風は、他とは違います。……まるで、目に見えぬ職人の手が一振り一振りを研ぎ澄ましているような、そんな研鑽の気配を感じます」

 与一(鴛淵)が、静かに弓の調子を確かめながら告げる。彼もまた、大村で調整された己の機体が、いかに精密な一撃を支えてくれたかを忘れてはいなかった。

 三人は、大村の空を黙って見上げた。かつては爆音と共に銀翼が舞ったその空には、今はただ、穏やかな春の雲が流れているだけだ。

「……よし。挨拶は済んだ。……弁慶。……与一。……俺たちは、ここで生まれた『翼』を背負って、最後まで飛び続けるぞ。……頼朝の野郎が、どんなに高度を下げようとしてもな」

 大村の地を後にする菅野の背中は、もはや一人の武将のそれではなく、故郷の工場で最後の一機を見送ったテストパイロットのような、静かな覚悟に満ちていた。

 しかし、その「翼」が向かう先――鎌倉の空には、彼らを撃墜しようとする政治という名の巨大な「防空網」が張り巡らされていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ