第15話:海上の乱気流(壇ノ浦)
元暦二年(1185年)三月。関門海峡、壇ノ浦。 潮の流れが激しく入れ替わるこの海域で、平家と源氏の最後にして最大の激突が始まろうとしていた。
「……ケッ。この潮目、まるで着陸前の乱気流じゃねえか。機体が持っていかれやがる」
船の舳先に立ち、荒れる海面を睨み据える菅野(義経)。 対する平家軍は、潮流を熟知し、巨大な軍船を巧みに操って源氏を包囲しようとしていた。
「殿。潮の流れが変わり、我が軍の舟が押し戻されております。このままでは包囲を許しましょう」
弁慶(庄一)が、重い長刀を構えて静かに告げる。その瞳には「二番機」としての冷静な戦況分析が宿っていたが、口にするのは飽くまで武士としての言葉だ。
「……関係ねえ。潮目が変わらねえなら、俺たちが変えてやるよ。……与一。あいつらの『脚(漕ぎ手)』、全部ブチ抜け。機動力を奪え」
与一(鴛淵)は、激しく揺れる船上で、吸い付くように愛弓を構えた。 「承知いたしました。……水手の腕、ことごとく射抜いてご覧に入れましょう」
与一の放つ一矢一矢が、平家の舟の漕ぎ手を正確に射抜いていく。それは武士の誉れある一騎打ちを否定する、あまりに合理的で冷徹な「機関停止」の狙撃だった。
動けなくなった平家の巨大な軍船に対し、菅野は不敵な笑みを浮かべた。
「よし、敵は『失速』した。……弁慶! 俺のケツにしっかり付いてこい。……これより、高度ゼロの格闘戦を開始するッ!」
菅野は軽々と船の縁を蹴り、隣の舟へと跳んだ。 一艘、また一艘。重力を無視したその躍動は、後に「八艘飛び」と称えられる伝説の機動。だが、その本質は、敵の死角から死角へと潜り込み、致命傷を与えるエースパイロットの「三次元旋回」そのものだった。
「……ははっ! さすがは大将、いや我が殿……! どこまでも付いていきましょうぞ!」
弁慶は、心中でかつての編隊空戦を思い出しながら、その巨躯に似合わぬ軽やかな身のこなしで、主人の背後を死守した。菅野が斬れば、弁慶が叩き伏せる。その完璧な連携の前に、平家の猛者たちが次々と海へと沈んでいく。
「……あいつ、何者だ! 舟から舟へ、まるで鳥のように飛びおるわ!」 「源氏の九郎、人の子にあらず! 鬼神か、それとも……!」
平家軍の最期。 幼き安徳天皇と共に三種の神器が海に沈み、平家一門が波間に消えていく中、菅野は一人、返り血を拭いながら西の空を見上げた。
「……終わったか。……これで、少しは静かな空になるのかよ」
壇ノ浦の勝利。 それは武士の世の始まりを告げる合図であり、同時に、あまりに強くなりすぎた「異端の編隊」を、鎌倉の主が排除しにかかるカウントダウンでもあった。




