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第13話:孤独な操縦士・頼朝 第14話:アウトレンジの扇(屋島)

 寿永三年、二月。鎌倉、大倉御所。  一ノ谷からの勝報が届いた深夜。頼朝は一人、蝋燭の火が揺れる自室で、広大な作戦図を見つめていた。

 報告書には信じがたい一節があった。『義経、精鋭とともに断崖を駆け下り、平家の背後を衝く』。  並の武将であれば「神懸かり的な武勇」と称えるだろう。だが、頼朝の冷徹な知性は、その裏にある恐るべき「ことわり」を正確に抽出していた。

「……重力か。九郎、お前は地の利を重さ(エネルギー)に変えて墜ちてきたのだな」

 頼朝は、指先で地図上の一ノ谷をなぞった。  彼は知っている。九郎の戦い方は、この時代の武士たちが守ってきた「礼節」や「均衡」という名の安全装置を、根底から破壊デストロイするものだ。一騎打ちを否定し、三次元の機動で敵の脆弱な一点を食い破る。それは組織を統べる政治家にとって、最も制御困難な「劇薬」に他ならない。

「九郎……。お前がただの弟であったなら、どれほど心強かったか」

 頼朝は、窓の外に広がる漆黒の鎌倉の空を見上げた。  自分は一度も泥にまみれず、部下と笑い合ったこともない。法という名の管制塔に籠もり、盤上の駒を動かす孤独な操縦士。対して九郎は、常に高度ゼロの爆音の中に身を置き、兵たちの熱狂をその身に浴びている。

「お前は、あまりに高く、速く飛びすぎる。……この地上システムに、お前の居場所はもう作れぬぞ」

 頼朝は静かに筆を執り、次なる命令を記した。行き先は四国、屋島。  それは賞賛の形を借りた、さらなる「死地」への転進命令だった。  弟を愛しながらも、己が構築する「秩序システム」のために、その翼を折らねばならない。頼朝の瞳に宿るのは、非情な管制官としての覚悟だった。

 

第14話:アウトレンジの扇(屋島)

 元暦二年(1185年)二月。讃岐国、屋島。  海上に陣を敷く平家軍は、無数の軍船を並べて源氏を挑発していた。波間に揺れる一艘の小舟。その竿の先に掲げられたのは、真っ赤な日の丸を描いた一本の扇。

「……ケッ。あんな高度きょりから見せびらかしやがって。挑発のつもりかよ」

 海岸線に馬を止めた菅野(義経)は、眩しそうに目を細めて海を睨んだ。  平家の狙いは明白だ。源氏の武士を誘い出し、波打ち際で機動力を奪ってから、船上から一斉射撃で叩き落とす。まさに「対空砲火」の陣形だ。

「殿。あんなの無視して突っ込みませぬか? 拙僧が潜って船底からぶち抜いてやりましょうぞ」

 弁慶(庄一)が、重い長刀を肩に担いで豪快に笑う。その瞳には、かつての大将へ向けた「二番機」としての信頼が燃えていたが、言葉だけはあくまで忠実な「家来」を演じきっていた。

「待て、弁慶。……ここは『専門家』の出番だ」

 菅野は、背後で静かに愛弓の弦を弾いていた男を振り返った。那須与一――否、三四三空戦闘七〇一飛行隊長、鴛淵孝。

「与一。……あのアウトレンジ(射程外)からの挑発、叩き落とせるか?」

 与一(鴛淵)は、海面を走る風の揺らぎをじっと見つめていた。その瞳は、かつて高度一万メートルでB-29の迎撃ポイントを計算していた時と同じ、氷のような冷静さに満ちている。

「風速三メートル、右から左へ。……潮の満ち引きによる船の上下動は、三秒周期。……問題ありません、殿。あのような静止目標、外す理由が見当たりません」

 与一はゆっくりと馬を海中へと進めた。波が馬の腹を洗う。  周囲の源氏の武士たちが「無謀だ」と騒ぎ立てる中、与一の周囲だけが真空のような静寂に包まれた。彼が引き絞ったのは、ただの弓ではない。それは彼の魂が投影された、一門の「高射砲」だった。

「……シュート」

 放たれた一矢は、物理法則を嘲笑うかのような美しい放物線を描いた。海を渡る風を切り裂き、加速しながら扇の要へと吸い込まれていく。

 ――パァンッ!!

 乾いた音と共に、扇の要が粉砕された。  真っ赤な扇が、まるで撃墜された敵機が火を吹いて落ちるように、夕闇の海へと舞い落ちる。

「……命中ヒット。戦果確認、目標完全破壊です」

 与一が静かに弓を下げると、海の両岸から地鳴りのような歓声が沸き起こった。  弁慶は、心中で「さすがだ、鴛淵隊長……!」と快哉を叫びながらも、表向きは義経の家来として、大音声で敵を煽ってみせた。

「ガハハハ! 見たか平家の野郎ども! これが我が主の誇る、無双の狙撃よッ!!」

 菅野は不敵に吊り上がった口元を隠さず、海を指差した。 「……よし。敵の『プライド』は潰した。……野郎ども、残りの『艦隊』を掃討しに行くぞ。全機、発艦とつげきだ!」


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