第12話:背面急降下(ダイブ)、再現
寿永三年(1184年)二月。摂津国、一ノ谷。 北は鉄拐山の断崖絶壁、南は瀬戸内の海。平家が築いたこの要塞は、まさに「不落」の二文字を具現化していた。東西の街道は強固な防壁で閉ざされ、源氏の主力部隊は攻めあぐね、山裾で立ち往生を余儀なくされている。
「……ケッ。正面からドッグファイトを挑むなんて、芸がねえな」
菅野(義経)は、鵯越の峻険な山頂に立ち、眼下に広がる平家の一ノ谷本陣を見下ろしていた。 彼の視界には、垂直に近い角度で切り立った崖など映っていない。それは、敵の防空網(防壁)を完全に無力化できる、唯一の「進入経路」だった。
「殿。……この崖、馬で下るなど、正気の沙汰ではございませぬ」
弁慶(庄一)が、愛馬の手綱を握り締めながら、冷や汗を拭った。その巨躯に似合わぬ慎重さ。だが、それは主への忠義ゆえの進言だった。
「……重力を味方にしろ。手綱は引くな、押し込め」
菅野は、懐から南部十六年式を取り出し、その冷たい銃身を頬に当てた。 かつて高度一万メートルから、敵機の死角――真上から背面(反転)して急降下した、あの瞬間の感覚が、全身の血を沸騰させる。
「おい、与一。……準備はいいか」 「……了解いたしました。隊長。……風、微弱。視界、良好です」
与一(鴛淵)は、激しく揺れる山頂で、吸い付くように愛弓を構えた。 彼もまた、かつて迎撃機(零戦)で急降下し、敵機(B-29)の銃座をアウトレンジから撃穿(ブチ抜)いた、あの精緻な射撃を思い起こしていた。
「――全機、突入ッ!!」
菅野は、愛馬の腹を蹴り、崖の縁からダイブした。 一艘、また一艘。重力を無視したその躍動は、後に「八艘飛び」と称えられる伝説の機動。だが、その本質は、敵の死角から死角へと潜り込み、致命傷を与えるエースパイロットの「三次元旋回」そのものだった。
「ひ、卑怯なり源氏! 崖の上から――」 平家の兵たちが、上空の異変に気づいた時には、すでに義経隊が本陣の中央へ、破壊の弾丸となって着弾していた。
「背面(反転)……急降下! ……再現、完了だッ!!」
菅野の一閃が、平家の本陣を内側から崩壊させる。 それは、武士の誉れある戦いを否定する、あまりに合理的で冷徹な、未来の空戦術だった。




