第10話:鎌倉の咆哮
元暦元年(1180年)十一月。鎌倉、大倉御所。 富士川の戦いを電撃的な「電子戦」で制した菅野(義経)は、勝利の報告のため、頼朝の待つ鎌倉へと足を踏み入れた。
御所内は、静まり返っていた。居並ぶ宿老や名だたる御家人たちは、奥州から現れたこの「異形の天才」を、期待と、それ以上の恐怖を込めた眼差しで迎えていた。 最奥の座。頼朝は、微動だにせず義経を見下ろしている。
「九郎。……富士川での働き、見事であった。だが……」 頼朝の声が、冷たく、重く響く。 「軍規を乱す行為、看過できぬ。名を名乗らず、闇に乗じて敵を翻弄し、あまつさえ略奪を禁じて敵兵まで編隊に入れるとは。……武士の道とは、秩序そのものだぞ」
菅野は、平伏したまま不敵に口角を上げた。その脳裏には、かつて安全な後方基地で、現場の苦闘も知らずに「精神論」を説き続けた上層部たちの、小奇麗な軍服姿が重なっていた。
「……秩序、だと? 兄貴。……いや、鎌倉殿」 菅野はゆっくりと顔を上げた。その瞳には、高度一万メートルの冷気と、火薬の匂いが宿っている。 「戦場は、勝てる奴が勝つ場所だ。……名乗りだの礼節だの、そんな低高度に構ってりゃ、部下の機体がいくつあっても足りねえんだよ」
ざわめきが広がる。「無礼なり!」「控官!」と叫ぶ御家人たちを無視し、菅野は懐から一丁の鉄の塊を抜き放った。 ――南部十六年式自動拳銃。 平安の世には存在し得ぬ、漆黒の殺意。
「おい、兄貴。……祝いの挨拶だ。耳を貸せ」
――ガァァァンッ!!
凄まじい爆音が御所の天井を貫き、静寂を粉砕した。 ひっくり返る御家人たち。悲鳴が上がる中、菅野だけが平然と、銃口から立ち上る硝煙をふっと吹き消した。
「……へっ。いい音だ。これで少しは、祝杯らしくなったじゃねえか」
頼朝は、微塵も動かなかった。だが、その冷徹な瞳の奥で、決定的な「拒絶」の炎が静かに灯ったのを、菅野は見逃さなかった。 この男は、自分と同じ「指揮官」だ。だが、自分は「空(現場)」を守るために戦い、この男は「地上」を守るためにすべてを切り捨てる。
「……九郎。お前のその火、いずれ身を焼くことになろう」
「焼かれる前に、もっと高く飛んでやるよ。……じゃあな、司令部。……次は、もっと面白い戦果を届けてやるぜ」
菅野は背を向け、大股で御所を後にした。 外では、弁慶(庄一)と与一(鴛淵)が、主の帰還を静かに待っていた。
「……殿。……派手な挨拶でしたな」 弁慶が、面頬の奥でニヤリと笑う。
「……さあな。……野郎ども、次のミッションだ。……鎌倉の空は、少しばかり空気が薄すぎるぜ」
兄弟の絆という名の編隊が、致命的な空中分解(空中分解)へと向かい始めた、運命の会見だった。




