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第5話 報告

 朱雀警備に戻った葵と禅は、和室で九条を待っていた。

 

 九条を待つ間、捕らえた妖は若い男に預けられどこかへ連れて行かれた。

 

 ――殺処分とかされちゃうのかな……

 

 あれだけ不気味に思っていたものでも生き物だとわかると処分されるのはいい気はしない。ましてやことを大きくしたのは葵自身なだけに、その責任を負うようで少々憂鬱だった。

 

 1人でぐるぐると思考を巡らせていたところに九条が現れた。

 

「遅い時間までご苦労様でした。無事、解決できたようでよかったです。さて、今回の件ですが……一ノ瀬さんの周りの方には他言無用でお願いいたします。妖の存在は限られた人間と弊社担当部署の者しか知らない情報ですので」

 九条にそう釘を刺され、葵は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。

 

「いや、でも……会社には説明しないと私の疑いは晴れないのでは?」

「ええ。ですが妖についての情報は秘匿事項。朱雀物流の社長には通知し、一ノ瀬さんの処分については取り消すようにと伝えてあります」

 九条の抑揚のない事務的な言葉が、葵を突き放す。

 

――そんなの意味ない……私は何のために……

 

「やめちまえよそんな会社。鍵係まぁまあいい仕事してたし、バイトくらいだったら雇える余裕あんだろ」

 俯いて唇を噛み締めている葵に禅が豪快に言い放つ。

 

「え?」

 と葵が間の抜けた顔で禅を見つめる。

 

「まぁ、そうですね……今回の件、少々不審な点もあり弊社としても把握しておきたい案件ではありますので、一ノ瀬さんが弊社に来ていただければ、管理も保護も可能になります」

 禅の意外な提案に少し驚いた表情をした九条が、葵に向き直り説明を続けた。

 

「でも……」

 と急な誘いに次の言葉が見つからない。

 

「居場所ないとこにそこまでしがみつく意味が俺にはわかんねぇな。少なくとも、ここではあんたを頭のおかしいやつ扱いはしねぇよ。まぁ最後に決めんのはあんただ」

 禅はそう言うと背を向けて部屋を出た。

 

「今すぐ決めていただく必要はありません。お気持ち決まりましたら、ご連絡ください」

 と九条自身と禅の名刺を差し出した。

 

「……あと」

 部屋の扉を開けた禅が、足を止めて振り返る。

 

「何かあったら呼べ。いつでもいい」

 それだけ言って今度こそ部屋を出て行った。

 

「そうですね、奴らの活動時間外ですので安全だと思いますが念のため」

「わかりました……」

 ドアが閉まるまで禅の後ろ姿を見つめていた葵は、九条に向き直ると頭を下げ、帰路についた。


   *

 

 外はいつのまにか明るくなっていて、朝日が昇り始めていた。朝と夜の境目が美しく、葵は目を細めて大きく息を吸った。

 

「よーし。帰ろっ」

 問題はまだ解決していないが、葵が見たものが説明されて、少し気持ちが軽くなっていた。心なしか歩く足も軽やかだ。

 

 住宅街を抜けて自宅へ向かう帰り道、葵はふと背後に気配を感じ振り返った。

 

 ――誰もいない……

 気のせいかとため息をつき、再び歩き始めると背後で子供の笑い声が聞こえた気がして身構える。

 

 ――なんなの?九条さんは安全だって……

 と正体の見えない何かに恐怖を感じ、携帯電話を取り出した。

 

 ――九条さんが禅さんに……いや、でもこれが妖と決まったわけじゃないし……人間かもしれない……早とちりで連絡したら迷惑か……

 と思い直して携帯を鞄にしまい、ふぅと息を吐き出すと全力で走り出した。

 

 背後を確認する余裕もなくただ一心に家に向かって走る。息が上がり痛いほど速い心臓の鼓動と共に葵の息遣いだけが響いていた。

 

 自宅のマンションのエントランスが見えたところで葵はようやく振り返る。

 

 ――気のせい?

 と上がった息を整えながら、無事自宅へ戻ることができた。

 

 ――明日は休みか……ちょっと寝よ……

 外はすでに明るくなりかけていたが、疲れからか瞼が重くて仕方なかった。

 

 布団に入り、ふとベッドの横のカーテンの隙間が気になり几帳面に閉め直した。

 ――ビビりすぎだっての

 と自嘲気味に笑って布団に潜り込む。

 

 目を閉じ、夢と現実の狭間に落ちていく中で、胸の奥にざわめきを感じた。

 

 だが、その理由を確かめる前に、葵は泥のように深い眠りへと沈んでいった。

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