第4話 調査
後日、九条から連絡があり、調査日程を確定した。今日はその調査日程の1日目。
「開けろ」
禅に言われた通り、倉庫の鍵を開ける葵。
「部外者を中に入れて本当に大丈夫なんですよね?」
と前を歩く禅に声をかけた。
「何度も言ってるだろ?同じ朱雀ホールディングスなんだから問題ねぇよ。九条さんが話を通してある」
不安そうな葵を面倒くさそうに一瞥して、そう答えると、どんどん前を歩いていく。
――もう!なんなのこいつ
葵は禅に腹を立てながらも、小走りで後を追いかけた。
「止まれ」
突然、禅が立ち止まり葵も慌てて足を止める。
「ここ……薄いな」
そう小さな声で呟くと、目を閉じて耳に意識を集中させた。
――聞こえる……1匹……いや2匹か
禅は耳をすまし、微かに聞こえる物音から情報を収集する。
「こっちだ」
言い終わらないうちに走り出し、葵も後を追う。
次に禅が立ち止まったのは、葵が初めて"それ"を目撃した場所だった。
「来るぞ、2匹いる」
禅の言葉に葵にも緊張が走る。
次の瞬間、小さな猿のような生き物が2匹、棚の間を駆けていった。
そのうちの1匹が、葵に気がつき真っ黒い目を向けた。
何度見ても慣れない不気味な姿に心臓の鼓動が早まる。
「ふんっ、小物か。だが、放っておくと厄介だな」
そう呟いたかと思うと、葵の視界から禅の姿は消え、あっという間に"それ"の背後に回り込んでいた。
拳を振り上げ、"それ"に向かい振り下ろすと、衝撃で投げ飛ばされ、もう1匹を巻き込みながら壁に打ち付けられた。
「迷い込んだだけか」
舌打ちをして床に伸びた2匹を見下ろしながら、そう呟くと腰につけた縄のようなもので捕縛し肩に担いだ。
「あんたがみたのはこれだ。猿の妖、よかったな、あんたは晴れてちゃんとこっち側だと証明されたぜ」
そういうと禅は歯を見せて、ニッと笑った。
一方葵は、禅の手早さに呆気に取られて、ぼーっと禅を見つめることしかできなかった。
「それにしてもこいつらどこから……」
と禅が何かを探すようにキョロキョロとあたりを見渡す。
しばらく壁をコンコンノックしたり、歩き回ったりしながら調査をしていると、急にしゃがみ込んで何かを見ていた。
「何かあったんですか?」
葵がそう言って禅に近づくと、壁に小さな穴が空いていた。
「ここから中に?」
葵が穴を覗き込むと、その先は倉庫の隣の部屋ではなかった。
真っ暗な闇。
穴の奥に何かがじっとしている。
息を止めたままこちらをうかがっている。
その気配に耐えきれず葵は後ろに飛び退いた。
「私……これを知ってる……」
その言葉に、禅の眉がぴくりと反応した。
――こいつ、何者だ?
床に座り込む葵を立ち上がらせ、禅はカバンの中からテープを取り出した。
「それはなんですか?」
今の状況にそぐわない黄色と黒の工事現場で見るようなテープに葵が怪訝な表情を浮かべた。
「これは境界規制テープだ、これを貼ることで境界を閉じられる」
そう言いながら、穴に立入禁止をするようにテープを貼ると、穴が徐々に閉じていった。
――なるほど……この人たちの仕事ってこういう面倒ごとの処理が専門ってことね
妙に納得して、禅の背中をじっと見つめる葵。
「よし、奴らも回収したことだし帰るか」
猿の妖2匹を肩に担いで前を歩く禅の姿を見て、ふっと笑うと後に続いた。
倉庫を出て妖をトランクの檻の中に入れると2人は車に乗り込んだ。
「お疲れ様でした。本当にありがとうございました」
葵がそう言って深々と頭を下げると、
「鍵係にしては冷静だったな」
不意に禅がそう言った。前を向いたまま葵の顔を見ようとはしない。
「それ、褒めてます?」
葵が思わずそう返すと、禅は鼻で笑った。
「事実だ、こういう時大抵の人間はギャーギャー騒ぐか、腰を抜かして動けなくなるかのどちらかだからな。でもあんたは違った。しっかり前を向いて状況を把握しようとしていた。――それができるやつは現場じゃ案外少ない」
思いがけない禅の言葉に、葵は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……ありがとうございます」
「まあ、こっち側は大変だからな。九条さんに今後の相談でもするといい」
――この人、意外とちゃんと見てるんだ……
葵の禅に対する評価が少し変わった瞬間だった。
それから2人は朱雀警備に戻ることとなった。




