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第2話 最後の選択肢

 後日、上司から呼び出され、夜間報告欄に記載したことについて聞かれるも、

 "夢でも見たんじゃないか"

 "社としてことを大きくするべきではないと判断した"

 "荷物の盗難事件は伝票ミスで処理する"

 と告げられた。

 

 しかし、荷物の盗難は必ず葵の夜勤の日に起きるため、噂が噂を呼び、ついに同僚たちから盗難事件の犯人は葵だと疑われることとなった。

 

 それから2週間が経ち、同僚たちからの疑いはピークを迎えていた。誰も葵に近寄ろうとはせず、前を通るだけでヒソヒソ悪口を言われる始末。

 

「泥棒が同じ職場にいるなんてねぇ」

「やだ、聞こえるよ?」

「聞こえるように言ってんのよ」

 同僚に対してこんなにもまっすぐな悪意を向けられることに恐怖と呆れを感じる。

 

 ――もうちょっと他の人と仲良くしておけば良かったかなぁ……いや、どうせ仲良くなんてなれなかったか

 と小さなため息をついて、BGMのように聞こえ続ける悪口を背に仕事を続ける。

 

 終業後、上司から急な呼び出しを受けた。

「一ノ瀬さんさぁ、うちで働くのしんどいんじゃない?同僚たちとも少し距離があるみたいだし、一ノ瀬さんにはもう少し合ってるところがあるんじゃないかと思うんだよ」

 上司はそう言うと様子を窺うような視線を葵に向けた。

 

 ――クビか……とにかく、誰かに相談しないと。まずは弁護士か。


   *

 

 ――どいつもこいつも。

 弁護士事務所の扉を勢いよく開けて、外に出てきた葵は今にも叫び出したい気持ちを必死で押さえ喉の奥で噛み殺した。

 

「証拠がなければご依頼をお受けすることは難しいですね。それよりまず警察に相談されたほうが良いのでは?」

 と相談を受けた弁護士は感情のない声でそう言い放ち、さっさと相談を切り上げた。

 

 ――警察にも同じこと言われたっつうの。

 

 事件性はない。

 目撃者は1人だけ。

 その目撃者の証言は誰も信じない。

 これでは正攻法での勝ち目なんてあるはずがなかった。

 

 ――しょうがない、手段を選んでる場合じゃない

 葵は拳を握りしめ、昼間に検索した探偵事務所に向かい歩き出した。


   *

 

「うちは浮気調査とか家出人の捜索とかそんなのがメインなんでねぇ。それにしても不思議な話だねぇ」

 色褪せた写真と、ところどころ文字が消え掛かっているホワイトボードを背に、所長らしき男はタバコの火を消しながら葵の話を笑った。

 

 ――ここもダメ……警察も弁護士も探偵も誰も私はおかしくないと言ってくれない……

 

 絶望を感じ、涙がこぼれそうになるのを必死で耐えて顔を上げると、所長が机で何やらガサゴソ探し物をしている。


 何をしているのかとじっと見つめていると、

「あった!」

 と見つけた何かを葵の前に置いた。

 

 ――名刺?

 

「期待はしないで欲しいんだけど、そういうの扱ってくれるかもしれないところの名刺、あげるよ。あんた相当参ってそうだから」

 所長はそう言うと、またタバコに火をつけて不器用に歯を剥き出しにしてニッと笑った。

 

「朱雀警備……」

 

 ――この男は私をからかっているのか?

 と怒りがこみ上げる。朱雀警備ということは朱雀物流と親会社は同じ朱雀ホールディングスだ。話なんて聞いてくれるわけもない。

 

「こちらに相談したのは間違いだったようですね、失礼します」

 葵はそう言ってテーブルに名刺を置いたままその場を後にしようと立ち上がった。

 

「ダメ元で行ってみたほうがいいと思うけどねぇ。ここ紹介制だからこの名刺ないと次行きたくても門前払いだよ。それに、多分君の話を聞いてくれるのはここぐらいだ」

 所長はそう言うと葵のポケットに名刺を入れて肩をポンっと叩いた。

 

 しばらく考え込んだのち、葵は無言で頭を下げると探偵事務所を後にした。

 

 外はすでに暗くなっていて、空を見上げると三日月が怪しげに黄色く輝いている。

 ――朱雀警備

 それが葵に残された最後の選択肢だった。

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