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第14話 出現

 葵は禅の言葉に反応して体の動きを止めた。

 

「今、なんで振り返ろうとした?」

 禅にそう聞かれて、

「名前を呼ばれたような気がして……」

 と葵は曖昧に答えた。

 

「なるほどな」

 禅は短くそう言うと、手元のタブレットに何やら情報を入力し始めた。

 

「禅さん?」

 何をしているのかわからず、ただ立ち尽くす葵。

 

「……これだ!かごめ」

 ――対象者の名前を呼び、振り返らせることで術にかけ、対象者の時間を食う妖か……

 

 禅はタブレットに映し出された妖の詳細を一通り読むと、葵の後ろに視線を向けた。

 

「振り向くなよ、振り向いたら確実に術にハマるぞ」

 自分が今術にかけられそうになっていると理解して、葵の体は緊張で硬直した。

 

「かごめって?あの……私はどうしたら……」

 泣きそうになりながら禅に助けを求めるような視線を向ける。

 

「とにかく動くな」

 禅は、上着のポケットから細長い紙を取り出し、葵の前に立った。

 

 わけもわからず、禅の顔を見上げる葵の額に、その紙を貼り付ける。

 

「これなんですか?」

 何をされているのか理解できず、近距離で見る禅にドギマギし、瞬きを繰り返す。

 

 一方の禅は全く気にしていない様子で、葵の額に紙を貼り付けている。

 

「簡易境界符だ。これを貼ったまま合図したら振り返れ」

 詳しい説明はないまま、禅は短く答える。

 

 ――振り返るなって言ったじゃん……

 と心の中で呟き、額の紙に指で軽く触れる。

 

「これ取れませんか?」

「取るな、触るな、剥がすな」

 と間髪入れずに禅が答え、葵は押し黙る。

 

「さん、に、いちで振り返れ、いいな?いくぞ。さん、に……」

「ちょっと待ってください!ほんとに振り返って大丈夫なんですか?」


 どんどん進めてしまう禅に葵がストップをかけた。

 心の準備もできないまま、振り返る勇気は出ない。


「すまん、あんたは初の現場だったな。これからあんたが振り返ることで境界が開く。術がかかることは絶対ねぇ。安心しろ」


 ――怖いけど……禅さんを信じるしかない

 覚悟を決めて、禅をまっすぐ見つめて静かに頷いた。


「さん、に、いちで振り返れ、いいな?いくぞ。さん、に、いち」

 禅の掛け声に合わせて、意を決して振り返る。

 

 ――前が何も見えない……

 視界が遮られ、妖がいるのかどうかもわからないが、葵の前に黒い亀裂のようなものが現れた。

 

 その亀裂は、足元から地面に境目のような線を描いていく。

 

 ――なにこれ……

 

 恐怖とは裏腹に、今の状況を理解しようと必死で目を逸らさず見続ける。

 

 地面に描かれた線が、和紙をゆっくり剥がすようにピリピリと捲れていく。

 

「てめぇの狩場はここじゃねぇ。早くそっちに帰るんだな」

 と禅の言葉が背後から聞こえ、目の前に妖がいるのだと理解した。


 その時、葵は穴の中へ冷たい風が吹き込んでいくような感覚がした。


 禅が何やら言っているようだったが、風の音がうるさくて聞こえない。

 それと同時に、額の符が風にはためいて、視界が一瞬開けた。

 

「あれは……」

 葵の視界に飛び込んできたのは、捲れ上がった地面に渦巻く黒い穴。その穴に吸い込まれる黒い霧のようなものだった。

 風の唸る音が悲鳴のように聞こえ、不気味さに拍車をかける。

 

 ――あれが妖怪?

 

 全て吸い込まれると、風は止み地面の亀裂も綺麗に閉じていた。

 

「おわった……?」

 心臓の音がまだ耳の奥で鳴り続けている。

 震える手をグッと握る葵に禅は無言で歩み寄り額の符を剥がした。

 

「終わったぞ」

 何事もなかったかのような落ち着いた様子の禅。

 

「結局、あの妖はなんだったんでしょうか?」

 裂け目に吸い込まれる黒い霧の姿を思い浮かべ、葵の声が少し震える。

 

「あれはかごめだ。名を呼んで振り向かせ、人間の時間を喰らう」

 禅の言葉に、葵は昔から聞き慣れたある曲を思い浮かべた。

 

「まぁ、何はともあれ解決だ。今回もあんたは逃げなかった。それだけで上出来だ」

 禅はそう言うと、貼ってあった境界規制テープを剥がし、振り返る。

 

「よし、帰るぞ」

 葵は、はい!と返事をして禅の後を追って路地を後にした。


   *

 

 人の気配が消えた路地に伸びる人影。


 その視線は葵へと向けられていた。

 

「……やっと見つけた」

 低く呟く声が路地に静かに響く。

 

 次の瞬間、影は路地の暗がりに消えていた。

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