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第五十一話 威光の証明と、静かな祝福

煌めくシャンデリアの下、華やかな音楽が流れ、貴族たちの笑い声がやや大きくなりはじめた頃――


突如として、その空気が凍りついた。


場内の扉が静かに、だが確かな重みを持って開かれたのだ。入ってきたのは、宰相マークレンと数名の側近に囲まれた、一人の威厳ある男。

クラリスが反射的に背筋を伸ばしたのと、騎士団の護衛が一斉に膝をついたのは、まさに同時だった。


「……アレクサンダー陛下!?」


王の突然の登場に、会場中がどよめいた。本来なら、夜会の中盤、各国代表への挨拶とともに現れるはずの人物が、予定よりも遥かに早く姿を現したのである。

宰相も驚いた様子で耳打ちしようとするが、それを制して陛下は静かに歩みを進めた。


「……ふむ、少しばかり騒がしい声が耳に届いてな。様子を見に来ただけだ。思ったより面白い話が聞けそうで、なによりだ」


そう言って笑った王の眼差しには、冷たい光が宿っていた。


「お前たちの話していた“冷たい夫”と“野蛮な男”、そして“妙な令嬢”のことだが――」


貴族たちが息を飲む中、アレクサンダー王は声を張った。


「イザーク・ローヴェンハーツとライナルト・バークレーは、王国の柱を担う団長である。剣と魔術をもって、国を守り続けた男たちだ。そして、彼らが娶った女性――クラリス・エルバーデは、我が命によって飛び級で学園を卒業し、外交使節団とも堂々と渡り合った才女である」


クラリスは、はっと息を呑んだ。

イザークとライナルトも、ただ静かに王の言葉を受け止めていた。


「もし、我が決定に異を唱える者がいるのなら――それは王の意志に背くことであり、国に仇なす反逆と見なす。……よいな?」


声は穏やかだったが、その底には一切の容赦がなかった。

貴族たちは一斉に頭を下げ、誰ひとりとして言葉を発する者はいなかった。


やがて、王妃が現れ、その隣には王太子夫妻、そして第二王子ユリウスとその婚約者であるフィオナが続いた。彼らが王とともに高座へ着席すると、再び場の空気が華やかさを取り戻しはじめた。


「本日の夜会は、各国との調印が無事に終了したことを祝してのものだ。互いの努力に敬意を表し、心からの祝福を送ろう」


陛下がそう告げた後、舞踏会が正式に始まった。


まずは王と王妃が軽やかにステップを踏み、それに続いて王太子とその妃が堂々たる踊りを披露した。そして次に、ユリウス王子が婚約者フィオナと手を取り合って、中央へと歩み出る。


ユリウスは、舞いながらふとクラリスの方に視線を向けた。

その眼差しは、憧れにも似たまなざしだった。けれど彼の隣にいたフィオナは、その様子を見ても眉ひとつ動かさず、むしろ優しく微笑んでクラリスへと小さく会釈した。


クラリスもまた、軽く微笑みを返した。もう、過去のように気まずさや気後れはなかった。


そして、舞台は再び変わる。


「クラリス嬢、よろしければ――」


最初に差し出されたのは、ライナルトの手だった。無骨な手が、彼女をまっすぐに導く。その踊りは不器用だが誠実で、一歩一歩が“守りたい”という意志に満ちていた。


次に手を差し出したのはイザーク。彼の手は冷たくもあたたかくもない、ただ凛とした“静けさ”をまとっていた。

踊るたびに、クラリスの心は、確かに満たされていくのを感じていた。


騒がしさも好奇の目も、もう関係ない。


彼女は、この国で、この二人と共に生きていく。

そう、誰の許しも必要としない、ただ“自分の意志”で。


こうして、静かな誓いのもと――夜会は幕を閉じた。

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