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第三十三話 涙の卒業

静かに陽が昇ったこの朝は、クラリスにとってひとつの節目となる日だった。今日をもって、彼女の学園生活が正式に幕を下ろす。合格の知らせを受け取ってからというもの、さまざまな感情が胸を去来していたが、いざ卒業式当日を迎えると、不思議と心は静かだった。


ほんの数日前、思いがけない出来事があった。セリーヌをはじめ、同じクラスの友人たちが、学園近くの人気のカフェを貸し切って、サプライズの卒業祝いを開いてくれたのだ。


卒業間近になってようやく実現したひととき。クラリスにとっては、彼女の“学生としての時間”を象徴するような温かな場だった。皆と笑い合いたかった、幸せな時間を過ごしたかった。

ただそれだけだったのに……その場に身を置いてみれば、こみ上げるものを抑えることができなかった。


心の奥からあふれる涙は止めようとしても止まらず、優雅でおしとやかで、どこか遠い存在と思われていたクラリスが、まるで幼子のように鼻を赤らめてぽろぽろと泣きじゃくる姿に、クラスメートたちは言葉を失い、しかしその“素”の姿に強く胸を打たれた。誰かが小さく「……ギャップ、えぐい」と呟き、それが妙に可笑しくて、皆が笑った。


最後の挨拶の場面では、クラリスは精一杯言葉を選びながら、けれども感情に押し流されながら、ぽつぽつと語った。


「本日はわたくしのために、こんなにも素敵なお祝いをありがとうございます。短い学園生活ではありましたが……皆さまと過ごした時間は、わたくしにとって――宝物です。も、もっと……み、んなと……思い出を……つく……、グスッ……ありがとう……みんな……だい……すき……、うっ……」


声にならぬ感情の波が言葉を押し流し、とうとう言葉を紡ぐことができなくなったクラリスを、クラスの女子たちがそっと抱き寄せた。

その輪の中に、涙をこらえきれない男子たちの姿もあった。別れの寂しさは、誰にとっても同じなのだ。


そして迎えた卒業式。春の陽射しが差し込む式典会場には、入学式と同じように理事長の長い祝辞が響いていた。名前を呼ばれた卒業生たちは、次々と舞台に上がり、誇らしげに証書を受け取っていく。


その中で、成績上位者への表彰の時間が訪れる。優秀な成績を収めた生徒に贈られるピンバッジが、理事長の手からひとりずつに渡されていった。


「第5位、マーク・ランベル」「はい!」


壇上に上がる生徒の姿を、クラリスはぼんやりと眺めていた。自分には無関係な光景だと思っていたから。第4位、第3位、次々と名前が呼ばれ、ついに第1位の発表が始まったそのときだった。


「最後に、飛び級ながら非常に優れた成績を修めた者を紹介する。第1位、成績最優秀者――クラリス・エルバーレ。前へ」


「……えっ?」


思わず固まってしまった。誰かと間違えているのではと一瞬疑ったが、間違いなく自分の名だった。周囲の視線が一斉に彼女へ向き、理事長からの再呼が飛ぶ。


「クラリス・エルバーデ、壇上へ」


「……はいっ!」


夢中で立ち上がり、まるで重力が何倍にもなったような足取りで壇上に向かった。胸の内は、驚きと戸惑いと、少しの誇らしさが入り混じっていた。理事長からピンバッジを受け取る手が微かに震えていた。


「この短い期間、君はよく努力した。このバッジはその証だ。どうか胸を張って、生きていきなさい」


ふと会場を見渡すと、クラスメートたちの顔が見えた。泣いていた。感極まったその姿に、クラリスの中に新たな勇気が芽生えた。この場に立たせてもらった意味を、誇りを、きちんと友に届けなければと、そう思った。


静かに深呼吸をして、一歩前へと進み、会場へ向かって語りかけた。


「本日、このような栄誉をいただき、心から感謝申し上げます。いまだ夢のようで、胸がいっぱいです。わたくしにとってこの学園は、人生の礎となる場所でした。友を知り、恩師を知り、喜びと悔しさを知り、そして“学ぶ”ということの尊さを知りました。出会えたすべての人とのご縁に、心より感謝しております。卒業生の皆さま、新しい門出を、心からお祝い申し上げます。在校生の皆さま、共に過ごした日々をありがとうございました。先生方には、人生の光を示していただきました。この場をお借りして、深く御礼申し上げます」


言葉を終え、クラリスは深くカーテシーをした。会場がしんと静まりかえり――次の瞬間、まばらに響いた拍手が、やがて波のように広がり、ついには嵐のような大きな拍手に変わった。


先生も、生徒も、誰もが目を潤ませながら、しかしその目には笑顔があった。感動の涙のなか、誰もが晴れやかな気持ちで、互いの門出を祝っていた。


この日の式典は、後々まで語り継がれることになる。「あの日の卒業式は、まるで一編の物語のようだった」と。


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