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第二十七話 恋に気付き、愛を知る

朝の光が差し込む寝室で目を覚ましたクラリスは、数秒の間だけぼんやりと天井を見つめていたが、ある瞬間にピシッと目を見開いた。


「……うそ……わたくし、寝てしまったの? それも……騎士団で……?」


 血の気が引くような感覚に襲われ、枕を抱きしめながらベッドの上でごろごろと転がった。


「恥ずかしすぎて死にそう……っ、うぅぅぅ……!」


 まさに穴があったら入りたい気持ちで唸っていたところに、コンコンと控えめなノック音が響いた。入ってきたのは、長年仕えてくれている侍女のマリアだった。


「お嬢様、昨夜は騎士団でお休みになっていたところを、イザーク様がお連れになりまして。ぐっすりお眠りでしたので、なかなか離れず……アデル様が引き離して、お部屋まで運んでくださったのですよ。……お嬢様、やはりわたくしが、ご一緒されたほうがよろしいのではないでしょうか?」


 マリアの言葉は静かで優しく、ただクラリスを心から思っての提案だと分かった。だからこそ、クラリスも丁寧に返した。


「マリアの気持ちも、よく分かってるわ。でも……もう少し、自分の気持ちと向き合ってからにするわね。ありがとう」


 支度を済ませ、気持ちを切り替えて食堂に向かうと、家族はすでに揃っており――さらに、イザークの姿まであった。まさか来ているとは思っておらず、クラリスは思わず驚きの声を飲み込んだ。


 深く礼をしながら、慌てて挨拶をする。


「皆様、おはようございます。そして……イザーク様、昨夜は本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


 顔を赤らめながらも真摯に謝罪をし、両親にも改めて頭を下げた。


「お父様、お母様、昨夜はお恥ずかしい姿をお見せしてしまい、すみませんでした。アデル兄さま、お部屋まで運んでくださってありがとうございました。レオナルド兄さま……特に何もございませんわ」


 最後の一言に、レオナルドが「なんだその扱いは」と小さく笑ったが、朝の食卓は和やかに進んだ。


 食後には紅茶をゆっくりいただきながら、今日の予定について話し合い、ほどなくして支度を整え、イザークと共に馬車に乗り込んだ。目的地は、王都のほど近くにあるフォールズレイク――澄んだ湖水と景色の美しさで名高い、恋人たちの憧れのデートスポットだった。


 湖畔をふたりで並んで歩きながら、クラリスはふと横を見た。視界に入るのは、銀髪をきっちりと撫でつけたオールバック、凛とした黒縁眼鏡が印象的な男性――イザーク・ローヴェンハーツ。ふと目が合うと、彼は柔らかい微笑みを浮かべた。


 その表情に、クラリスは胸の奥が温かくなるのを感じた。


 四十三歳という年齢には見えないほど引き締まった体躯と、知性と品を備えた落ち着いた佇まい。普段は真面目で少し頑固なところもあるが、時折ふとした拍子に見せる少年のような無邪気さが、たまらなく愛おしい。


 ……今ならはっきり分かる。これは“推し”への憧れじゃない。“恋”だ。


 何気ない仕草も、言葉の端々も、すべてが好きで――その想いが溢れて止まらなくなったクラリスは、立ち止まり、静かにイザークを呼んだ。


「イザーク様」


 彼が目を向けると、クラリスはしっかりとその目を見つめた。


「……わたくし、今まできちんと自分の想いと向き合えていませんでした。でも、今日こうしてあなたと過ごしてみて……分かったんです。これは、ただの憧れじゃない。わたくし、イザーク様のことを、本当に……好きです。心から恋をしています。イザーク様、大好きです」


 真っ直ぐな想いにイザークは驚いたように目を見開き、それから、少し照れたような、けれど嬉しさがにじむ笑顔を見せた。


「……クラリスらしいな。今日は俺のほうから想いを伝えようと思ってたのに、先に言われてしまった」


 そう言って、イザークはポケットから小さな箱を取り出し、中から一対のイヤリングを取り出した。


「クラリス。俺の妻になってくれ。卒業まで待つ。でも、婚約だけは……今すぐにでもしたい」


 ひとつをクラリスの耳に、もうひとつを自分の耳に着ける。


「これは魔道具だ。お互いの居場所や体調が分かる仕組みになってる。……君はまだ若い。だから、心配なんだ。いつも」


 クラリスは目を細めて、ゆっくりとカーテシーをした。


「イザーク・ローヴェンハーツ様。わたくし、妻としてはまだまだ未熟かもしれませんが、あなたと共に、笑顔あふれる家庭を築いて参ります。……末永く、よろしくお願い致します」


 その言葉に、イザークはこらえきれず、瞳に浮かぶものをぐっと飲み込みながら、そっとクラリスを抱きしめた。


「……リズ、ありがとう」


 彼女の耳元で、優しくささやく。その声はかすかに震えていた。ふたりはそのまま、言葉を交わさず、ただ抱き合い続けた。そして自然と顔が近づき、重なった唇は、互いの想いを何度も確かめるように静かに触れ合った。


 それは、恋の始まりではなく――確かな愛の、約束の証だった。

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― 新着の感想 ―
クラリスに転生→魔法適正全あり→イザーク対面→なんちゃらこうちゃら→イザークの妻 本当になんでこうなったのか二度読み直してしまいました笑 クラリスっていう名前を自分の作品でも主人公として使っててびっく…
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