第十七話 厩舎で、白翼に再会する理由
イザーク団長が案内してくれたのは、王立魔法師団の施設の奥にある、特設の厩舎だった。そこには、ホワイトグリフォンが他の魔獣や馬と離して静かに隔離されているという。
廊下を進みながら、クラリスは緊張で胸を押さえていた。これから会うのは、ただの魔獣とは違うホワイトグリフォン──しかも、契約関係にある相手である。
ところが、向かう途中で突如大きな鳴き声が響き渡る。
その音に嫌な予感を感じたクラリスは咄嗟に一歩後退りした。
目の前に現れたのは、翼を大きく広げたホワイトグリフォンだった。魔法師団の団員の静止を振り切り、全身で迫りくる白翼の影――。
イザーク団長でさえ驚きの顔を隠せなかったが、すぐさまクラリスの前に出る。
「クラリス嬢、後ろに!」という声に、クラリスは弾かれたようにイザーク団長の後ろに隠れた。
グリフォンはクラリスとの間合いを保ち、しばらくの間……そして、ゆっくりと身体を折り、頭を地面へと下げた。異様なほど落ち着いた礼を示して見せたのだった。
クラリスはイザーク団長の後ろの制服を握りしめ暫く目を瞑り襲われる衝撃を待ったが、しかし襲われないという空気を感じ取り、そのまま恐る恐る、イザークの影から顔を出す。そして──
藍色の瞳と真っ白い羽毛を持つその姿を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた記憶が蘇った。
――前世で飼っていた白いラブラドール「ポンちゃん」だ。
つい、心の声が漏れてしまう。
「ポ、ポンちゃん……?」
その瞬間、グリフォンは尻尾(とは言えない翼の根元)を大きく振り、小さく鼻を鳴らして甘えるような仕草を見せた。
「えっ、本当に……ポンちゃんなの?」
クラリスは思わず近づき、迷わずにその頭を撫でた。
グリフォンは嬉しそうに目を細め、すり寄るように甘えてきた。あまりの似た仕種にクラリスの目から涙が溢れだした──。
その時、後ろから低く響く声が響いた。
「……クラリス嬢、これは一体……どういうことだ?」
イザーク団長だった。クラリスはハッとして、どう答えるべきか一瞬凍ったが、素直に言ってしまった。
「昔、飼っていた犬の名前がポンちゃんで……」
自分で言っておいて焦る。これはどこかで拙かったかもしれない、と一人で冷や汗がにじんだ。
クラリスはグリフォンを安心させるため、優しく声をかけて促す。
「ポンちゃん、お利口さんしててね。ハウス、お帰り」
するとグリフォンは雰囲気を察して、ゆっくりと厩舎へと戻って歩き出した。歩き去るまで、何度も振り返り、小さく寂しげな鳴き声を上げながら……。
クラリスはポンちゃんに約束を交わした。
「また……会いにくるからね、ポンちゃん」
その言葉をグリフォンは、目で返すように後ろを見せ特設の厩舎に戻って行った。
イザークは厩舎の外で、彼女の横顔を静かに見つめていた。その目には、クラリスと魔獣との不思議なつながりを感じていた。
「……なぜ、ポンちゃんと呼んだんだ?」
団長の問いに、クラリスは少し恥ずかしそうに俯いたが、すぐに澄んだ声で答える。
「ただの思い出……なんですけれど。昔飼っていた犬がポンちゃんで、彼のしぐさが、懐かしくて……思わず呼んでしまったんです。」
二人で厩舎を出る道すがら、クラリスは誤魔化せたかな?と淡い期待を込めて歩いていた。
クラリスと大空の白い精霊の再会は、彼女にとっても、団長にとっても、そしてホワイトグリフォンにとっても──唯一無二の出会いであった。




